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22.酒スライムになった理由
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お風呂から出たら、パパと翡翠と一緒に3人で寝た。私が布団の真ん中だと言うのが、川の字の子どもポジションの様で、嫌だった。だけど、パパの横は万が一があると翡翠が危ないと言われて、渋々納得した。お兄ちゃんは、諦めることが日常なのだ。
確かに、パパの横は危険だった。パパの寝相が、悪すぎた。翡翠に助けてもらわなければ、今頃死んでいただろう。翡翠なら大丈夫じゃないかと、妹を盾にするのは間違っている。もうパパと一緒に寝るのは、やめておこう。自殺願望が芽生えても、やめておこう。朝起きたら、パパが憤死しそうだ。可哀想すぎる。
朝になっても、お父様はスライムのままだった。
「本当に、なんでこんな人に説教されないといけなかったのでしょう」
あちこち酒がこぼれて、酒臭い。菓子の匂いの方が、まだマシだった。
エスメラルダが、ごはんを用意してくれたが、酒の匂いがキツすぎて、朝からげんなりした。
朝食は、チーズコーントーストと、コブサラダと、オニオンスープだった。美味しくて嬉しいのだが、これを作ったのがエスメラルダなのだとしたら、文化レベルも変な方向に染められていることになる。本当に、お父様に預けっ放しでいいのだろうか。パパにお願いした方が、いいかもしれない。
「実はね。あと何日かしたら、シャルルが帰ってくる予定だったんだ。延期になるかもしれないから、琥珀には言わないでいたのだけど、案の定、延期になってしまってね。浮かれていたところに知らせが来たから、ああなってしまったのだと思う。
お前、いい加減にしろよと、わたしも思っているが、アレはしばらく放っておこう」
無表情で、ケーキやマドレーヌを焼き始めたお父様が気持ち悪いなと思って、味見をさせてもらうことも頼めず、家を出たのだが、あれは浮かれている状態だったのか。魔改造された薬菓子かもしれないと警戒していたが、母用の菓子であれば安全だ。後で、勝手に食べてやろう。
「お母様は、帰ってくる気があったのですか?」
「琥珀がいるんだ。帰って来ないハズがないよ。こっちにいると死んでしまうかもしれないから、少し離れているだけで。風邪をひいて延期になったけど、治ったら帰ってくるよ」
「死にかけていたのですか? 無事なのですか?!」
私を置いて、家出したと恨んでいたのに、そんなことになっていたなんて! そんな状態なら、私なんて放置で当然だ。父たちが目を逸らしていたのは、そういう訳か! 母にひどいことをしたのは、どの父だ!! 置き去りにしやがって、とか思ってました。お母様、ごめんなさい。ワガママ言わないから、生きてて下さい。それだけでいいです。抱っこもいりません。あぁあああ。
「琥珀? いや、大丈夫だよ。シャルルは、ぴんぴんしてるから。今は、風邪を引いてはいるけれど、熱が高いようなひどい症状ではないようだし、泣かないで。え? どうして?」
「パパが、死んでしまうかもとか、言うからだよ。言ったよね? 学習年齢がおかしなことになってるだけで、中身は普通の4歳なんだよ。普通の4歳の子を育てたことがないから、わかんないんだろうけど」
「ああ、そうか。シュバルツの家だと死ぬだけで、今いるところは安全だから死なないよ。大丈夫だよ」
「なるほど。あの酒スライムが、いけないのですね」
「違うよ。この村は、医者がいないだろう? シュバルツは医者の真似事もするが、医者ではないからね。信頼できる医者がいるところにいるんだよ。別に死ぬような病気ではないんだけど、万が一を考えて、安全なところに移ったんだ。大丈夫。そう遠くないうちに、帰ってくるよ。シャルルも、琥珀に会いたがっていたから」
「はい。お母様が無事であるなら、それ以上は望みません」
なるほど。お母様大好きメンツで、たいした病気でもないのに、過保護に病院に押し込んだ、ということか。それならば、治ったらそのうち帰ってくるということだったのだろう。納得した。普通に教えてくれたら、良かったのに。子どもに言えないような病気だったのだろうか。お父様が、女からもらってきた病気とか。それとも、痔とか水虫とかの秘密にしたい系だろうか。
「いやいや、だから、望んでいいよ。ワガママ言って欲しいんだよ?」
「ワガママとか言われたら、言いづらいよ」
「そうか。えーと。なんて言えばいいだろう」
パパは、頭を抱えて困っている。本人には言えないが、ちょっと可愛い。
「もしも願いを聞いていただけるのなら、魔獣狩りに連れて行ってください」
「なんて、いい子なんだろう。泣けてくるくらいいい子なのに、みんな何が不満なんだろう。でも、本当に魔獣狩りに行くので、いいのかな。わたしに合わせてくれなくても、いいんだよ。何でも付き合うよ」
パパの顔が輝いた。
どこからどう見ても、格好良いのもキレイなのもパパがぶっちぎりなのに、母に冷遇されてるのは、どうしてなのだろう。パパさえいれば、他のはいらなくないか? イケメンばかり揃えておいて、最上のパパを放ってる母の趣味が謎すぎる。
「パパみたいに強い男になりたいのです。連れて行ってください」
「よし! ドラゴンを倒す秘術を教えてあげよう!!」
「いえ、火蜥蜴程度でお願いします」
いずれは、ドラゴンを倒せるくらい強くなりたいとは思っているが、まだ分不相応だ。それに、龍は倒してはならない存在でもある。私にいいところを見せたかったなどという理由で、世界の理を壊されたら、責任が取れない。パパは本当に強くて、うっかりで龍を殺しそうになったことがある、と聞いたことがある。気を付けなければならない。
うっかりで龍を殺す? まさか、お母様に害をなしたのは、パパなのか?
確かに、パパの横は危険だった。パパの寝相が、悪すぎた。翡翠に助けてもらわなければ、今頃死んでいただろう。翡翠なら大丈夫じゃないかと、妹を盾にするのは間違っている。もうパパと一緒に寝るのは、やめておこう。自殺願望が芽生えても、やめておこう。朝起きたら、パパが憤死しそうだ。可哀想すぎる。
朝になっても、お父様はスライムのままだった。
「本当に、なんでこんな人に説教されないといけなかったのでしょう」
あちこち酒がこぼれて、酒臭い。菓子の匂いの方が、まだマシだった。
エスメラルダが、ごはんを用意してくれたが、酒の匂いがキツすぎて、朝からげんなりした。
朝食は、チーズコーントーストと、コブサラダと、オニオンスープだった。美味しくて嬉しいのだが、これを作ったのがエスメラルダなのだとしたら、文化レベルも変な方向に染められていることになる。本当に、お父様に預けっ放しでいいのだろうか。パパにお願いした方が、いいかもしれない。
「実はね。あと何日かしたら、シャルルが帰ってくる予定だったんだ。延期になるかもしれないから、琥珀には言わないでいたのだけど、案の定、延期になってしまってね。浮かれていたところに知らせが来たから、ああなってしまったのだと思う。
お前、いい加減にしろよと、わたしも思っているが、アレはしばらく放っておこう」
無表情で、ケーキやマドレーヌを焼き始めたお父様が気持ち悪いなと思って、味見をさせてもらうことも頼めず、家を出たのだが、あれは浮かれている状態だったのか。魔改造された薬菓子かもしれないと警戒していたが、母用の菓子であれば安全だ。後で、勝手に食べてやろう。
「お母様は、帰ってくる気があったのですか?」
「琥珀がいるんだ。帰って来ないハズがないよ。こっちにいると死んでしまうかもしれないから、少し離れているだけで。風邪をひいて延期になったけど、治ったら帰ってくるよ」
「死にかけていたのですか? 無事なのですか?!」
私を置いて、家出したと恨んでいたのに、そんなことになっていたなんて! そんな状態なら、私なんて放置で当然だ。父たちが目を逸らしていたのは、そういう訳か! 母にひどいことをしたのは、どの父だ!! 置き去りにしやがって、とか思ってました。お母様、ごめんなさい。ワガママ言わないから、生きてて下さい。それだけでいいです。抱っこもいりません。あぁあああ。
「琥珀? いや、大丈夫だよ。シャルルは、ぴんぴんしてるから。今は、風邪を引いてはいるけれど、熱が高いようなひどい症状ではないようだし、泣かないで。え? どうして?」
「パパが、死んでしまうかもとか、言うからだよ。言ったよね? 学習年齢がおかしなことになってるだけで、中身は普通の4歳なんだよ。普通の4歳の子を育てたことがないから、わかんないんだろうけど」
「ああ、そうか。シュバルツの家だと死ぬだけで、今いるところは安全だから死なないよ。大丈夫だよ」
「なるほど。あの酒スライムが、いけないのですね」
「違うよ。この村は、医者がいないだろう? シュバルツは医者の真似事もするが、医者ではないからね。信頼できる医者がいるところにいるんだよ。別に死ぬような病気ではないんだけど、万が一を考えて、安全なところに移ったんだ。大丈夫。そう遠くないうちに、帰ってくるよ。シャルルも、琥珀に会いたがっていたから」
「はい。お母様が無事であるなら、それ以上は望みません」
なるほど。お母様大好きメンツで、たいした病気でもないのに、過保護に病院に押し込んだ、ということか。それならば、治ったらそのうち帰ってくるということだったのだろう。納得した。普通に教えてくれたら、良かったのに。子どもに言えないような病気だったのだろうか。お父様が、女からもらってきた病気とか。それとも、痔とか水虫とかの秘密にしたい系だろうか。
「いやいや、だから、望んでいいよ。ワガママ言って欲しいんだよ?」
「ワガママとか言われたら、言いづらいよ」
「そうか。えーと。なんて言えばいいだろう」
パパは、頭を抱えて困っている。本人には言えないが、ちょっと可愛い。
「もしも願いを聞いていただけるのなら、魔獣狩りに連れて行ってください」
「なんて、いい子なんだろう。泣けてくるくらいいい子なのに、みんな何が不満なんだろう。でも、本当に魔獣狩りに行くので、いいのかな。わたしに合わせてくれなくても、いいんだよ。何でも付き合うよ」
パパの顔が輝いた。
どこからどう見ても、格好良いのもキレイなのもパパがぶっちぎりなのに、母に冷遇されてるのは、どうしてなのだろう。パパさえいれば、他のはいらなくないか? イケメンばかり揃えておいて、最上のパパを放ってる母の趣味が謎すぎる。
「パパみたいに強い男になりたいのです。連れて行ってください」
「よし! ドラゴンを倒す秘術を教えてあげよう!!」
「いえ、火蜥蜴程度でお願いします」
いずれは、ドラゴンを倒せるくらい強くなりたいとは思っているが、まだ分不相応だ。それに、龍は倒してはならない存在でもある。私にいいところを見せたかったなどという理由で、世界の理を壊されたら、責任が取れない。パパは本当に強くて、うっかりで龍を殺しそうになったことがある、と聞いたことがある。気を付けなければならない。
うっかりで龍を殺す? まさか、お母様に害をなしたのは、パパなのか?
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