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20.歓迎の宴
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祭会場は、村の端の方にある広場だ。テーブルとイスが無秩序に並べられていて、テーブルの上には、食べ物と酒が置いてある。食べ物と言えば、アレだ。パンとシチューだ。祭までシチューなら、そりゃあシチューしか出てこない訳だ。エスメラルダにお願いして、大量生産してもらった木の実クッキーとお好み焼きを持ってきたので、一緒に並べてもらおう。
広場の真ん中と端の3カ所に、少し盛り上がった場所がある。きっとそこが宴会芸の舞台だ。
着いて、とりあえず料理をあちこちに並べていたら、村人たちがドヤドヤやってきて、なんとなく祭が始まった。
それぞれ勝手に好きなものを食べて飲んで、真ん中で楽器を弾いてともに歌い、端の舞台で踊りを披露するらしい。芸を披露する順番など、決まっていない。なんなら、勝手に関係ない人が混ざり込む。楽器担当は、舞台からはみ出て、つまみ食いを始めて、弾くのをやめる。丁度横にいた人に演奏を押し付けてみたり、やりたい放題だった。
「翡翠、ごめん。歌くらい、教えてから来たら良かったな」
「お兄ちゃんは、わかるの?」
「誘拐されている間に、すべて習得した」
「何やってるの」
「マミィは、とんでもない教え上手なんだよ」
「お兄ちゃんが、乗せられやすいだけでしょ」
「お父様に、染められているからな」
「あ、あの舞台空いたよ。踊って見せてよ」
「よし。行こう、ベンガラくん」
フィドルの練習と称して抜け出して、今日のために特訓を重ねたシンクロダンスを披露する。シンクロとは言っても、私は、とにかく自分でできうる限りの難しいフリを適当に重ねるだけだ。それに合わせて、ベンガラくんが、かなり高いシンクロ率で踊ってくれるのだ。私が失敗して転んだら、一緒に転んでいるくらいの仕上がりなのだ。鏡なんじゃないかと思うくらい、クセまでトレースされている。体型が違うからかもしれないが、ダディと踊っても、そんなにシンクロしない。
髪の色は全然違うが、顔は似た様なものだ。私は、ベンガラくんこそ双子ではないかと思うに至った。
3曲踊って、翡翠のところに戻った。
「お兄ちゃん、いつの間に3回宙返りなんてできるようになったの? 魔法を使ってなかったよね」
「マミィの手にかかれば、できないことなど何もない」
「お父様の酒量が増えた理由が、わかったよ」
「それは、私の所為じゃない。愛人の人にでも、振られたんだろう」
翡翠と話していたら、知らない人からアコーディオンを回されたので、適当に弾く。右と左で違う曲を弾いている人がいるので、誰に合わせたらいいのか、わからない。音楽もカオスだ。
「それ、何?」
「アコーディオンだ。弾いてるそばから言うのもなんだが、実は、自分でも何を弾いているのかわからないんだが、何曲か弾ける」
「それ、どういう状況なの?」
「ボタンの位置を身体で覚えてなんとなく押しているんだ。でも、和音の数が多すぎて、耳で聞き取れていない。お祭り専用芸で、アコーディオン奏者になる気はない。この程度で、構わないだろう」
「そうやって、何でもかんでも覚えるから、みんながなんでも知ってるもんだと、誤解するんだよ」
「そのくらいが面接対策に丁度良い、と聞いたぞ」
「うん。お父様を殴っとくね」
「死なない程度にな」
適当に雑談しながらアコーディオンを弾いていたのだが、曲の切れ目で、ダディに楽器を奪われた。そして、知らない人に両脇を固められて、中央の舞台に連れていかれたので、舞台にいた人にフィドルを借りて演奏する。お祭り専用曲ではない。お父様が、どこかから持ってきた異世界文字の楽譜本に載っていたタンブランという曲だ。
タンブランの意味もわからないままに、適当な歌詞を考えたので、歌とともに披露する。大した歌詞ではない。トロルの変だな、と思うところをズラズラ並べて、トロル最高だぜ、と締めくくるだけの適当すぎるものだ。韻を踏んだりもしていない。異世界にはトロルはいないそうなので、絶対にタンブランはそんな曲ではないのだが、ここで弾いているだけならば苦情を言われることもないだろう。
誰も知らない曲だ。曲の解釈が多少間違っていようと、誰に指摘されることもない。好き勝手に弾いた後、お祭り定番の曲を5曲弾いたら、楽器をパスして、歌いステップを踏みながら、また翡翠のところに帰ってきた。翡翠を放置しすぎて怒られそうで怖い。
「お兄ちゃん、生まれる村を間違えたね」
「そうでもないよ。周りを見ればわかると思うけど、ダンスのレベルが高すぎて、ついていけていない。私には、向いていないと思う」
「どこを目指しているの? 4歳で、そんなに踊れている人いないじゃん」
「今は4歳だが、いずれは年をとる。10年後、20年後にアレを習得するほどの情熱がないんだよ」
「そんなことを言って、マミィさんに教わったら、できるようになるんでしょ」
「そうだな。マミィに不可能があるとは思えない」
「なんなの。その信頼感」
「大好きなんだ」
「あっそ」
木の実クッキーを手に取ったところで、今度は、ダンスの舞台にさらわれた。ああ、木の実クッキー!
見たことのないステップを、その場で教えられて、踊らされた。もうやけっぱちだ。そんなの覚えられるか! とどんどん踊った。失敗しても、成功しても、みんな笑ってくれた。恥ずかしいとかではなく、私も一緒に笑った。祭は、楽しいのが、一番だ。
「うー、疲れた。もう動けない」
祭は夕暮れからスタートし、夜まで続いた。私は、結局、2時間くらいは、ほぼ休憩なしで踊っていた。体力の限界だし、眠い。祭は終わったにも関わらず、未だに踊っている無限に踊れる若い子たちが、羨ましい。
「良かったね。歓迎されてて」
「何が?」
「これ、お兄ちゃんを仲間と認める、歓迎の宴なんだって」
「そうなの?」
「そういうのを知らないで、適当に済ますから、みんなとすれ違ってるんだよ」
「耳が痛い。痛いのは、手足だけで充分なのに」
「しょうがないな。連れて帰ってあげるから、もう少し頑張って」
広場の真ん中と端の3カ所に、少し盛り上がった場所がある。きっとそこが宴会芸の舞台だ。
着いて、とりあえず料理をあちこちに並べていたら、村人たちがドヤドヤやってきて、なんとなく祭が始まった。
それぞれ勝手に好きなものを食べて飲んで、真ん中で楽器を弾いてともに歌い、端の舞台で踊りを披露するらしい。芸を披露する順番など、決まっていない。なんなら、勝手に関係ない人が混ざり込む。楽器担当は、舞台からはみ出て、つまみ食いを始めて、弾くのをやめる。丁度横にいた人に演奏を押し付けてみたり、やりたい放題だった。
「翡翠、ごめん。歌くらい、教えてから来たら良かったな」
「お兄ちゃんは、わかるの?」
「誘拐されている間に、すべて習得した」
「何やってるの」
「マミィは、とんでもない教え上手なんだよ」
「お兄ちゃんが、乗せられやすいだけでしょ」
「お父様に、染められているからな」
「あ、あの舞台空いたよ。踊って見せてよ」
「よし。行こう、ベンガラくん」
フィドルの練習と称して抜け出して、今日のために特訓を重ねたシンクロダンスを披露する。シンクロとは言っても、私は、とにかく自分でできうる限りの難しいフリを適当に重ねるだけだ。それに合わせて、ベンガラくんが、かなり高いシンクロ率で踊ってくれるのだ。私が失敗して転んだら、一緒に転んでいるくらいの仕上がりなのだ。鏡なんじゃないかと思うくらい、クセまでトレースされている。体型が違うからかもしれないが、ダディと踊っても、そんなにシンクロしない。
髪の色は全然違うが、顔は似た様なものだ。私は、ベンガラくんこそ双子ではないかと思うに至った。
3曲踊って、翡翠のところに戻った。
「お兄ちゃん、いつの間に3回宙返りなんてできるようになったの? 魔法を使ってなかったよね」
「マミィの手にかかれば、できないことなど何もない」
「お父様の酒量が増えた理由が、わかったよ」
「それは、私の所為じゃない。愛人の人にでも、振られたんだろう」
翡翠と話していたら、知らない人からアコーディオンを回されたので、適当に弾く。右と左で違う曲を弾いている人がいるので、誰に合わせたらいいのか、わからない。音楽もカオスだ。
「それ、何?」
「アコーディオンだ。弾いてるそばから言うのもなんだが、実は、自分でも何を弾いているのかわからないんだが、何曲か弾ける」
「それ、どういう状況なの?」
「ボタンの位置を身体で覚えてなんとなく押しているんだ。でも、和音の数が多すぎて、耳で聞き取れていない。お祭り専用芸で、アコーディオン奏者になる気はない。この程度で、構わないだろう」
「そうやって、何でもかんでも覚えるから、みんながなんでも知ってるもんだと、誤解するんだよ」
「そのくらいが面接対策に丁度良い、と聞いたぞ」
「うん。お父様を殴っとくね」
「死なない程度にな」
適当に雑談しながらアコーディオンを弾いていたのだが、曲の切れ目で、ダディに楽器を奪われた。そして、知らない人に両脇を固められて、中央の舞台に連れていかれたので、舞台にいた人にフィドルを借りて演奏する。お祭り専用曲ではない。お父様が、どこかから持ってきた異世界文字の楽譜本に載っていたタンブランという曲だ。
タンブランの意味もわからないままに、適当な歌詞を考えたので、歌とともに披露する。大した歌詞ではない。トロルの変だな、と思うところをズラズラ並べて、トロル最高だぜ、と締めくくるだけの適当すぎるものだ。韻を踏んだりもしていない。異世界にはトロルはいないそうなので、絶対にタンブランはそんな曲ではないのだが、ここで弾いているだけならば苦情を言われることもないだろう。
誰も知らない曲だ。曲の解釈が多少間違っていようと、誰に指摘されることもない。好き勝手に弾いた後、お祭り定番の曲を5曲弾いたら、楽器をパスして、歌いステップを踏みながら、また翡翠のところに帰ってきた。翡翠を放置しすぎて怒られそうで怖い。
「お兄ちゃん、生まれる村を間違えたね」
「そうでもないよ。周りを見ればわかると思うけど、ダンスのレベルが高すぎて、ついていけていない。私には、向いていないと思う」
「どこを目指しているの? 4歳で、そんなに踊れている人いないじゃん」
「今は4歳だが、いずれは年をとる。10年後、20年後にアレを習得するほどの情熱がないんだよ」
「そんなことを言って、マミィさんに教わったら、できるようになるんでしょ」
「そうだな。マミィに不可能があるとは思えない」
「なんなの。その信頼感」
「大好きなんだ」
「あっそ」
木の実クッキーを手に取ったところで、今度は、ダンスの舞台にさらわれた。ああ、木の実クッキー!
見たことのないステップを、その場で教えられて、踊らされた。もうやけっぱちだ。そんなの覚えられるか! とどんどん踊った。失敗しても、成功しても、みんな笑ってくれた。恥ずかしいとかではなく、私も一緒に笑った。祭は、楽しいのが、一番だ。
「うー、疲れた。もう動けない」
祭は夕暮れからスタートし、夜まで続いた。私は、結局、2時間くらいは、ほぼ休憩なしで踊っていた。体力の限界だし、眠い。祭は終わったにも関わらず、未だに踊っている無限に踊れる若い子たちが、羨ましい。
「良かったね。歓迎されてて」
「何が?」
「これ、お兄ちゃんを仲間と認める、歓迎の宴なんだって」
「そうなの?」
「そういうのを知らないで、適当に済ますから、みんなとすれ違ってるんだよ」
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