母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

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7.役に立つならず者

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 伯父さんが何かしゃべってるのを無視して、お母様の弁当を平らげた。四角い箱の中に、可愛い動物のおにぎりや、お花の野菜などが、ぎゅうぎゅうに詰まっていた。翡翠向けだと思っていたのに、私用の弁当だった。美味しかったけど、可愛くて嬉しかったけど、なんかモヤモヤした。
「それで、私にどうしろとおっしゃるのでしょう。手心など加えず、殺してしまえば良かったのですか? 檻を崩して、あれらに金を渡し、泣きながら家に帰ればいいのですか? 街ごと潰されても知りませんよ」
 この世界に、犯罪を取り締まる組織はない。基本的には自衛がモットーで、街によってはちょっとした自治組織がある程度だ。ママたちは、日々黒髪狩りの被害に遭って、苦労したらしい。だから、私たちがまだ小さいにも関わらず、護身の術を教えてもらえている。黒髪の魔法使いを狙う輩がいたら、恐怖に陥れて構わないと、温厚なお母様まで言っていた。多分、無差別殺戮を犯しても、村に帰れば普通に暮らせる。
 村には、お父様が育てた最強魔法使い軍団が整備されているので、誰にも落とせない。多分、パパ1人だけでも勝てる人がいない。その上、土地神様のドラゴンが2体いる。ママも人にしか見えないが、実はドラゴンだと聞いた。あの村にいれば、外の犯罪歴など関係ない。誰にも攻め入れない安全地帯だ。
「彼らが悪いのは、判明している。罰を与えようと思うんだけど、檻から出せる人間がいなくて困っているんだよ」
「なるほど。顛末をパパに報告致しましょう」
「ジョエルを呼ばずに納めさせて欲しいな!」
「お父様や父さんやママを呼ぶより、穏便に済むと思いますよ」
 パパなら、ギルドしか潰さないが、他の人は街ごと潰すと思う。面倒臭くないし、後腐れもないし、見せしめにも丁度いい。お父様なんて、それを足がかりに世界征服を目論みそうなくらいだ。絶対に呼んではいけない。
「えっと、琥珀君は、彼らをどう扱ったら納得してくれるのかな」
「そうですね。人目のあるところで、子どもに高額な小遣いを渡す伯父には、気遣いを覚えて欲しいですし、子どもから金を巻き上げようとする大人は、存在価値がないと思っています。ご家族を不憫に思って閉じ込めましたが、殺す方が簡単なのです」
「大変申し訳ありませんでした」
「頭を上げて下さい。謝ってもらっても1円の得にもならない、と母は申しました。そんな誠意は求めていません」
 私は席を立ち、ギルド建物を後にした。


「こぅら、くそ坊主! さっさとこの檻開けやがれ!」
 昨日、檻を作った場所の1つに足を運んだが、反省の色は、これっぽっちも感じられなかった。
「なるほど。皆様のお気持ちは、よくわかりました」
 私は、檻を小さく改造した。今までは、のんびりゆったり過ごせるサイズにしていたが、お母様の弁当のおかずくらいのゆとりに変更した。
「てめ、こら、ふざけんな!」
 暴れる余地がなくなっても猶、悪態をやめないようだ。これだけの実力差を見せつけても気が変わらないとは、ある意味羨ましい神経である。
「琥珀君、檻を開けてはくれないのかな?」
 後ろをついてきた伯父さんは、彼らを擁護する立場なようだった。
「ごめんなさい。伯父ちゃん。魔法むつかしくて、檻をちっちゃくするしかできないみたいー」
「お兄ちゃん、可愛い!」
 更に少しだけ小さくしたら、檻の中は静かになった。次!

「済みませんでした。もうしませんので、許して下さい」
 次の檻は、口だけは反省している風だったので、檻を消してあげた。子どもだと、なめてかかられているのに、気付いていない訳ではない。
「消えたぞ!」
 檻から出した途端に、刃物を抜かれたので、太刀を鞘から抜かずにフルスイングした。フルと言ったらフルだ。魔法の力を借りて、全力で薙ぎ払ったら、全員吹き飛んだ。身長差を活かしてスネを狙ったので、両足骨折したハズだ。うるさく騒いでいるが、誰もこちらにやって来ない。
「できた! ベイリーさん、見ましたか? 相手を殺さずに仕留める方法をやっと習得できました。ならず者は、役に立ちますね」
 気兼ねなくケガをさせられる人材というのも、なかなか貴重なものだと思い知った。檻は、あといくつあったっけ? 折角の機会だ。いろいろ楽しもう。
「そ、そう。それは、よかったね。。。」


 一通り檻を崩して回って、ギルドの伯父さんの部屋に戻ってきた。一番奥にある執務机のイスに座って、ふんぞり返って、話をすることにした。
「どうだね、ベイリー君。ダメな大人は、罰を与えても更生などしないものなのだよ。ギルドが鉄槌を下すなどとほざいてみても、支部長が立ってることすら、誰一人として気にも留めていなかったじゃないか」
「返す言葉も御座いません。申し訳御座いませんでした」
 伯父さんは、項垂れていた。可哀想なことをしてしまっただろうか。仕方ない、許してあげよう。もう構うのも飽きてしまったからな。
「冗談ですよ。謝罪など必要ありません。頭をあげて下さい」
 私は、立ち上がって伯父に近寄り、微笑んだ。
 必殺幼児スマイルだ。あと一年もすれば使えなくなるだろうが、全てを大人に丸投げできる魔法のようなスキルだ。内心がバレていそうな父さんすら落とすことができる、私の得意技である。
「しかし」
「彼らの今後は、すべてベイリーさんにお任せ致します。ご自由にどうぞ。無罪放免でも怒りませんよ」
「それは」
「もう飽きてしまいました」
「え?」
「それでは、失礼致します」
 伯父の返事を待たずに、お昼ごはんを食べに行くことに決めた。
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