母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

文字の大きさ
上 下
7 / 48

7.役に立つならず者

しおりを挟む
 伯父さんが何かしゃべってるのを無視して、お母様の弁当を平らげた。四角い箱の中に、可愛い動物のおにぎりや、お花の野菜などが、ぎゅうぎゅうに詰まっていた。翡翠向けだと思っていたのに、私用の弁当だった。美味しかったけど、可愛くて嬉しかったけど、なんかモヤモヤした。
「それで、私にどうしろとおっしゃるのでしょう。手心など加えず、殺してしまえば良かったのですか? 檻を崩して、あれらに金を渡し、泣きながら家に帰ればいいのですか? 街ごと潰されても知りませんよ」
 この世界に、犯罪を取り締まる組織はない。基本的には自衛がモットーで、街によってはちょっとした自治組織がある程度だ。ママたちは、日々黒髪狩りの被害に遭って、苦労したらしい。だから、私たちがまだ小さいにも関わらず、護身の術を教えてもらえている。黒髪の魔法使いを狙う輩がいたら、恐怖に陥れて構わないと、温厚なお母様まで言っていた。多分、無差別殺戮を犯しても、村に帰れば普通に暮らせる。
 村には、お父様が育てた最強魔法使い軍団が整備されているので、誰にも落とせない。多分、パパ1人だけでも勝てる人がいない。その上、土地神様のドラゴンが2体いる。ママも人にしか見えないが、実はドラゴンだと聞いた。あの村にいれば、外の犯罪歴など関係ない。誰にも攻め入れない安全地帯だ。
「彼らが悪いのは、判明している。罰を与えようと思うんだけど、檻から出せる人間がいなくて困っているんだよ」
「なるほど。顛末をパパに報告致しましょう」
「ジョエルを呼ばずに納めさせて欲しいな!」
「お父様や父さんやママを呼ぶより、穏便に済むと思いますよ」
 パパなら、ギルドしか潰さないが、他の人は街ごと潰すと思う。面倒臭くないし、後腐れもないし、見せしめにも丁度いい。お父様なんて、それを足がかりに世界征服を目論みそうなくらいだ。絶対に呼んではいけない。
「えっと、琥珀君は、彼らをどう扱ったら納得してくれるのかな」
「そうですね。人目のあるところで、子どもに高額な小遣いを渡す伯父には、気遣いを覚えて欲しいですし、子どもから金を巻き上げようとする大人は、存在価値がないと思っています。ご家族を不憫に思って閉じ込めましたが、殺す方が簡単なのです」
「大変申し訳ありませんでした」
「頭を上げて下さい。謝ってもらっても1円の得にもならない、と母は申しました。そんな誠意は求めていません」
 私は席を立ち、ギルド建物を後にした。


「こぅら、くそ坊主! さっさとこの檻開けやがれ!」
 昨日、檻を作った場所の1つに足を運んだが、反省の色は、これっぽっちも感じられなかった。
「なるほど。皆様のお気持ちは、よくわかりました」
 私は、檻を小さく改造した。今までは、のんびりゆったり過ごせるサイズにしていたが、お母様の弁当のおかずくらいのゆとりに変更した。
「てめ、こら、ふざけんな!」
 暴れる余地がなくなっても猶、悪態をやめないようだ。これだけの実力差を見せつけても気が変わらないとは、ある意味羨ましい神経である。
「琥珀君、檻を開けてはくれないのかな?」
 後ろをついてきた伯父さんは、彼らを擁護する立場なようだった。
「ごめんなさい。伯父ちゃん。魔法むつかしくて、檻をちっちゃくするしかできないみたいー」
「お兄ちゃん、可愛い!」
 更に少しだけ小さくしたら、檻の中は静かになった。次!

「済みませんでした。もうしませんので、許して下さい」
 次の檻は、口だけは反省している風だったので、檻を消してあげた。子どもだと、なめてかかられているのに、気付いていない訳ではない。
「消えたぞ!」
 檻から出した途端に、刃物を抜かれたので、太刀を鞘から抜かずにフルスイングした。フルと言ったらフルだ。魔法の力を借りて、全力で薙ぎ払ったら、全員吹き飛んだ。身長差を活かしてスネを狙ったので、両足骨折したハズだ。うるさく騒いでいるが、誰もこちらにやって来ない。
「できた! ベイリーさん、見ましたか? 相手を殺さずに仕留める方法をやっと習得できました。ならず者は、役に立ちますね」
 気兼ねなくケガをさせられる人材というのも、なかなか貴重なものだと思い知った。檻は、あといくつあったっけ? 折角の機会だ。いろいろ楽しもう。
「そ、そう。それは、よかったね。。。」


 一通り檻を崩して回って、ギルドの伯父さんの部屋に戻ってきた。一番奥にある執務机のイスに座って、ふんぞり返って、話をすることにした。
「どうだね、ベイリー君。ダメな大人は、罰を与えても更生などしないものなのだよ。ギルドが鉄槌を下すなどとほざいてみても、支部長が立ってることすら、誰一人として気にも留めていなかったじゃないか」
「返す言葉も御座いません。申し訳御座いませんでした」
 伯父さんは、項垂れていた。可哀想なことをしてしまっただろうか。仕方ない、許してあげよう。もう構うのも飽きてしまったからな。
「冗談ですよ。謝罪など必要ありません。頭をあげて下さい」
 私は、立ち上がって伯父に近寄り、微笑んだ。
 必殺幼児スマイルだ。あと一年もすれば使えなくなるだろうが、全てを大人に丸投げできる魔法のようなスキルだ。内心がバレていそうな父さんすら落とすことができる、私の得意技である。
「しかし」
「彼らの今後は、すべてベイリーさんにお任せ致します。ご自由にどうぞ。無罪放免でも怒りませんよ」
「それは」
「もう飽きてしまいました」
「え?」
「それでは、失礼致します」
 伯父の返事を待たずに、お昼ごはんを食べに行くことに決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

処理中です...