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5.魔力回復とせっちゃん
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「オクタヴィアヌスーアウグストゥースープリンケプゥースー」
「、、、、、」
翡翠の変な歌で、目が覚めた。折角、お父様から逃れてきたのに、翡翠までおやすみソングに染まっていたなんて。
「アクティウムの海戦~アントニウス~クレ」
「その顔で、変な歌を歌うのは、ヤメロ!」
「あ、お兄ちゃん、おはよ。もう元気?」
「お陰様でね。ありがとう」
翡翠は、私と同じベッドで転がっていてくれたらしい。
放っておいても、そのうち魔力は回復するが、翡翠を触っていると、あっという間に回復する。翡翠は神龍の直系の半ドラゴンだからだ。更に血の薄まった子孫である黒髪の人間クロに魔力を分けることができる翡翠は、存在自体が村の至宝なのである。
「何日経った?」
「小一時間?」
「翡翠! 私に何をした?!」
「ふふふー。ひみつー」
翡翠にくっついてれば回復するが、限度というものがある。気を失うほど枯渇していたのに、今は満タンに近い。いつもなら、枯渇までいかなくとも、回復に一晩はかかる。翡翠がいなければ、2、3日はかかる。どんな裏技を使ったんだ。それとも、時間経過が嘘か。
「秘密?」
「ママとやくそくしたの! だから、お兄ちゃんには、あと10年はひみつ!!」
時間制限付きの秘密って、なんなんだ。そのうち開示されるなら、まあ、いいか。
起き上がって、ベッドから降りた。身体の具合を確認してみるが、特にケガもなさそうだし、服の汚れもなさそうだった。
「転がってた飛竜は、ぜんぶ伯父さんにあげといたよ。お金いっぱいもらえるといいね」
「ああ、ありがとう。助かった。でも、翡翠はこの辺で帰った方がいい。みんなが心配してるよ」
「さっき帰ったら、お兄ちゃんをヨロシクされたよ。心配しないで。連れてってくれなかったら、お父様にお兄ちゃんにイジメられたって泣きつくから」
めちゃくちゃ可愛い笑顔で、脅された。私もよく使う手だが、翡翠だけは、シャレで終わらない。お父様に何をされるのか想像しただけで、背筋が凍った。
翡翠は転移魔法が使えるから、何処にいようと一瞬で家に帰れる。一緒にいても、大して変わらないか? お父様にいたぶられるよりは、そちらを選んでもいいか?
「私に死んで欲しいのか」
「翡翠のたった1人のお父様だもの。1番頼りになるでしょ」
「翡翠の実父は、お父様なのか?」
翡翠の父親も、誰だかわからなかったハズだ。ママ似だから、見た目ではわからない。ママはパパと暮らしてるのに、翡翠はお父様の子なのか?
「聞いた訳じゃないけど、顔はお父様にそっくりでしょ? あとね、パパはお父様が魔法使いに育成中って言ってたから、ちがうと思うー」
「ママ似だろう?」
「お父様が子どもの頃は、ママと同じ顔だったんだって」
「あの顔で?」
ママは、花がほころぶようなふんわりとした優しい微笑みが似合う人で、お父様は、目付きが鋭く、一緒にいると息が詰まるような顔立ちだ。黒髪黒瞳で色彩は同じだが、似ているところがあっただろうか。
「キレイな顔立ちだと、お母様に嫌われるんだって。頑張ってるんだよ。可愛いよね」
「可愛いのは、翡翠だろ?」
「うん。お父様も、そう言ってた」
翡翠と話していても埒があかないので、部屋から出た。
私が寝ていたのは、パパの実家の子ども部屋だった。一部屋で、家一軒分くらいの広さがあって、天蓋付きベッドが置いてある以外は、何もない。前に来た時とは、壁紙もカーテンもベッドも違う物に変わっていたが、絶対に間違いない。そんな部屋がある家なんて、他に知らない。パパの実家でないならば、誘拐しか有り得ない。
豪華な家ですごいな、とは思うが、あまり好きではない。広すぎて、人を探すのが面倒だ。廊下を歩くだけで、村一周できそうなのだ。
メインリビングにいない、応接室にいない、エントランスにいない、各人の寝室にいない!
「この家は、どこに人がいるんだ!」
サブリビングは沢山あるし、客室なんて数えたこともない。全部見て回るなんて嫌だ!
「せっちゃんは、温室にいるよ」
「誰がせっちゃんだ。失礼だろう。お祖母様と呼べ!」
「あんなに若くてキレイな人を、お祖母様呼ばわりする方が失礼だよ」
確かに。お祖母様は、見た目だけなら、パパよりも年下だ。お祖母様というより、年の離れた姉のような人なのだ。その上、私はパパの実子かどうか、わからないのだ。どちらかと言うと、実子ではないと思っている。お祖母様と呼ばない方が、良いかもしれない。そうだとしても、せっちゃんは違うと思うが。
バルコニーに作られた温室に行くと、お祖母様が見えた。お父様が作ったとかいう温暖な地域の植物を育てるための、ガラス張りの部屋だ。いつ来ても原色の花が咲き乱れている南国のような場所だ。ここは、度々お茶会会場になるので、あまり好きではない。お祖母様は、すぐにこちらに気付いて、微笑みかけて下さった。
「琥珀ちゃん、無理しちゃダメよ。まだ寝ていていいのよ」
「セレスティア様、ご心配下さり、ありがとう御座います。私はこの通り、もう元に戻りましたので、問題ありません」
「まあ。もうおばあちゃんとは、呼んでもらえないのかしら」
「先程までは、そのつもりでおりましたが、若くて美しい御婦人に似合わない呼び方だと、翡翠に嗜められ改心したのです。心の中では、一番大好きなお祖母様と思っております」
「くすくす。私も、琥珀ちゃんと翡翠ちゃんが一番大好きな孫ですよ」
お祖母様と呼ばないのを、怒られるかと思った! ちょっと怖かった! キレイな花にはモーニングスターが仕込まれている、気を付けろ! と父さんが言っていた。先手必勝、すぐさま逃げよう。
「休ませて頂き、ありがとう御座いました。私は、この後、約束が御座いますので、残念ですが、失礼させて頂きます」
バルコニーにいたのを幸いに、魔法で飛んで逃げ出した。豪華な家だが、ここに長居はしたくない。パパが昔そうだったと、ドレスを着せられて、お茶会に参加させられるのだ。男の服でも性に合わないのに、なんでドレスだ。パパは、何でドレスなんか着てたんだ!
「、、、、、」
翡翠の変な歌で、目が覚めた。折角、お父様から逃れてきたのに、翡翠までおやすみソングに染まっていたなんて。
「アクティウムの海戦~アントニウス~クレ」
「その顔で、変な歌を歌うのは、ヤメロ!」
「あ、お兄ちゃん、おはよ。もう元気?」
「お陰様でね。ありがとう」
翡翠は、私と同じベッドで転がっていてくれたらしい。
放っておいても、そのうち魔力は回復するが、翡翠を触っていると、あっという間に回復する。翡翠は神龍の直系の半ドラゴンだからだ。更に血の薄まった子孫である黒髪の人間クロに魔力を分けることができる翡翠は、存在自体が村の至宝なのである。
「何日経った?」
「小一時間?」
「翡翠! 私に何をした?!」
「ふふふー。ひみつー」
翡翠にくっついてれば回復するが、限度というものがある。気を失うほど枯渇していたのに、今は満タンに近い。いつもなら、枯渇までいかなくとも、回復に一晩はかかる。翡翠がいなければ、2、3日はかかる。どんな裏技を使ったんだ。それとも、時間経過が嘘か。
「秘密?」
「ママとやくそくしたの! だから、お兄ちゃんには、あと10年はひみつ!!」
時間制限付きの秘密って、なんなんだ。そのうち開示されるなら、まあ、いいか。
起き上がって、ベッドから降りた。身体の具合を確認してみるが、特にケガもなさそうだし、服の汚れもなさそうだった。
「転がってた飛竜は、ぜんぶ伯父さんにあげといたよ。お金いっぱいもらえるといいね」
「ああ、ありがとう。助かった。でも、翡翠はこの辺で帰った方がいい。みんなが心配してるよ」
「さっき帰ったら、お兄ちゃんをヨロシクされたよ。心配しないで。連れてってくれなかったら、お父様にお兄ちゃんにイジメられたって泣きつくから」
めちゃくちゃ可愛い笑顔で、脅された。私もよく使う手だが、翡翠だけは、シャレで終わらない。お父様に何をされるのか想像しただけで、背筋が凍った。
翡翠は転移魔法が使えるから、何処にいようと一瞬で家に帰れる。一緒にいても、大して変わらないか? お父様にいたぶられるよりは、そちらを選んでもいいか?
「私に死んで欲しいのか」
「翡翠のたった1人のお父様だもの。1番頼りになるでしょ」
「翡翠の実父は、お父様なのか?」
翡翠の父親も、誰だかわからなかったハズだ。ママ似だから、見た目ではわからない。ママはパパと暮らしてるのに、翡翠はお父様の子なのか?
「聞いた訳じゃないけど、顔はお父様にそっくりでしょ? あとね、パパはお父様が魔法使いに育成中って言ってたから、ちがうと思うー」
「ママ似だろう?」
「お父様が子どもの頃は、ママと同じ顔だったんだって」
「あの顔で?」
ママは、花がほころぶようなふんわりとした優しい微笑みが似合う人で、お父様は、目付きが鋭く、一緒にいると息が詰まるような顔立ちだ。黒髪黒瞳で色彩は同じだが、似ているところがあっただろうか。
「キレイな顔立ちだと、お母様に嫌われるんだって。頑張ってるんだよ。可愛いよね」
「可愛いのは、翡翠だろ?」
「うん。お父様も、そう言ってた」
翡翠と話していても埒があかないので、部屋から出た。
私が寝ていたのは、パパの実家の子ども部屋だった。一部屋で、家一軒分くらいの広さがあって、天蓋付きベッドが置いてある以外は、何もない。前に来た時とは、壁紙もカーテンもベッドも違う物に変わっていたが、絶対に間違いない。そんな部屋がある家なんて、他に知らない。パパの実家でないならば、誘拐しか有り得ない。
豪華な家ですごいな、とは思うが、あまり好きではない。広すぎて、人を探すのが面倒だ。廊下を歩くだけで、村一周できそうなのだ。
メインリビングにいない、応接室にいない、エントランスにいない、各人の寝室にいない!
「この家は、どこに人がいるんだ!」
サブリビングは沢山あるし、客室なんて数えたこともない。全部見て回るなんて嫌だ!
「せっちゃんは、温室にいるよ」
「誰がせっちゃんだ。失礼だろう。お祖母様と呼べ!」
「あんなに若くてキレイな人を、お祖母様呼ばわりする方が失礼だよ」
確かに。お祖母様は、見た目だけなら、パパよりも年下だ。お祖母様というより、年の離れた姉のような人なのだ。その上、私はパパの実子かどうか、わからないのだ。どちらかと言うと、実子ではないと思っている。お祖母様と呼ばない方が、良いかもしれない。そうだとしても、せっちゃんは違うと思うが。
バルコニーに作られた温室に行くと、お祖母様が見えた。お父様が作ったとかいう温暖な地域の植物を育てるための、ガラス張りの部屋だ。いつ来ても原色の花が咲き乱れている南国のような場所だ。ここは、度々お茶会会場になるので、あまり好きではない。お祖母様は、すぐにこちらに気付いて、微笑みかけて下さった。
「琥珀ちゃん、無理しちゃダメよ。まだ寝ていていいのよ」
「セレスティア様、ご心配下さり、ありがとう御座います。私はこの通り、もう元に戻りましたので、問題ありません」
「まあ。もうおばあちゃんとは、呼んでもらえないのかしら」
「先程までは、そのつもりでおりましたが、若くて美しい御婦人に似合わない呼び方だと、翡翠に嗜められ改心したのです。心の中では、一番大好きなお祖母様と思っております」
「くすくす。私も、琥珀ちゃんと翡翠ちゃんが一番大好きな孫ですよ」
お祖母様と呼ばないのを、怒られるかと思った! ちょっと怖かった! キレイな花にはモーニングスターが仕込まれている、気を付けろ! と父さんが言っていた。先手必勝、すぐさま逃げよう。
「休ませて頂き、ありがとう御座いました。私は、この後、約束が御座いますので、残念ですが、失礼させて頂きます」
バルコニーにいたのを幸いに、魔法で飛んで逃げ出した。豪華な家だが、ここに長居はしたくない。パパが昔そうだったと、ドレスを着せられて、お茶会に参加させられるのだ。男の服でも性に合わないのに、なんでドレスだ。パパは、何でドレスなんか着てたんだ!
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