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エピローグ
狂った愛と依存
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少し大樹のそばで休んだ僕らは、クロとアカの力を借り街を出る。
出入り口の扉を押し開け三番街から何とか無事に戻ってくることができた。
「ああ! 二人共、無事だったようだね!」
「木藤。ずっと待っていたのか?」
まさか、本当に戻ってくるまで待っているとは思わなかった。
「当然さ。秋斗のことでナイくんには色々と迷惑をかけてしまったし、だからせめて中央区までの運転は俺がしないと」
「そ、そうか」
「それはありがたいわね」
そうだな。この身体で数日かけて帰らないといけない、と思うと気が滅入る。
ここは素直に、木藤の車に乗せてもらおう。
「木藤。助かる」
「いいよ。さあさあ、乗った乗った」
木藤に促され、荷台に乗り込む僕と真冬。東三番街から徐々に離れていく光景を、真冬はじっと見つめていた。
しばらく、声もかけず僕は揺れる荷台で空を見上げてから目を閉じる。
色々あったな……。声をかけられ顔を見た瞬間、まさか真冬が地下街へ訪れたことに心底、驚いてその上で危険しかない東三番街までの案内を頼まれるとは思いもしなかった。
行きたがる理由が、景に会いたいって言うから驚きの連続だ。僕の中の真冬は、小学生の頃までしかなくとも見てすぐに気づいた。
だから、何としても生きてもらおうと計画を練ってやっとここまできた。
「ほんと、何が起きるのか分からないものだ」
「それはどういう意味で言っているの?」
真冬に言われ目を開ける。
声に出していたのか僕。
「こうして、また真冬と一緒にいられるとは想像もしていなかったって話だ」
「…………」
僕の返答に黙ってしまう真冬。顔を真冬に向けると、膝を抱え俯いていた。
「真冬?」
「ねえ、ナイ」
「なんだ?」
「ナイは、私に会いたかった?」
「…………」
俯いたままそんなことを訊かれ今度は僕が黙ってしまう。
景は、じゃなくナイは、か……。もしかして、僕が本当は真冬に会いたくない、一緒にいたくなかったんじゃないか、そんなこと思っていそうだな。
「会いたいと思わないようにしてた」
「えっ……」
顔を上げる真冬に、僕はずっと思っていたことを話す。
「会いたいと望めば望むほど、一人でいられなくなるからな。僕は案内役でここからは出られないしここが僕の世界だ。誰かに会いたいとか、一緒にいられたら、なんて望んで手にし、でもある瞬間に失うと耐えられなくなりそうだから。だから、そんなことを思わないようにしてきた」
「ナイ……」
「のつもりだったが、真冬に会ってあんな告白まで受けてしまうと我慢なんてできなくなる。真冬と一緒にいたい、このままずっとってさ」
吐露した僕の本音。真冬がどう受け止めるかは分からないが、これが僕の今の気持ちなんだ。
考えないように、思わないように、そうしてきていたが本当は会いたかったし一緒にいられたなら、なんて心のどこかでずっと思っていた。
「そうなのね」
「ああ」
「うふふ。やっぱり、私は景もナイも好きよ。大好き」
「はえっ⁉」
急な告白に素っ頓狂な声が出る。
微笑む真冬に、顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
「ナイってば、耳まで真っ赤よ」
「……っ。ま、真冬が唐突に言うからだろ!」
「あら、好きはちゃんと言葉にして伝えないと相手に伝わらないでしょ?」
「いや、だからってここで言わなくてもいいだろに!」
「そう? 私は言いたい時に言うわ。今みたいにね」
「へいへい、そうですか」
ったく、心臓に悪いわ! 告白なんて受けたことないからどう反応すればいいか分からん!
そんなやり取りをしつつ中央区まで帰ってきた。
「本当に家まで送らなくて平気かい?」
「ああ。家までそれほど遠くないからな。ここまで送ってもらったし大丈夫だ」
「分かった。気をつけて帰るんだよ」
「ああ。ありがとう」
木藤とはここで別れ、真冬と一緒に帰る。やっと家に帰ってきた僕らは真っ先に傷の手当てをし、食欲より疲れて睡眠を取る。
自室のベッドに二人して横になると、すぐ睡魔が襲い会話らしい会話もなく眠ってしまった。
翌日から数日間は傷を癒やすため休業。その間に、クロとアカに約束した焼肉を庭で行い、真冬が用意した依頼料の半分がこれで消えていった。
真冬曰く、気にしないから使ってくれていいそうだ。
後日、真冬は僕の助手として案内役の仕事を一緒にするように。
「ふふっ」
「嬉しそうだな。真冬」
「ええ。ナイと、どこにいても一緒にいられるもの」
「それはそうなんだが……。それでもこの距離感はおかしくないか!」
家の中だとすぐ腕に抱きつき、仕事中はそばから離れようとしない。挙句の果て、風呂にまで一緒に入ってこようとするし、部屋も用意したはずが僕のベッドに潜り込む始末。
なんだこれ……。
「今までいられなかった分を取り戻すためよ」
「そうですかい……」
真冬は昔からこうと決めると考えを変えない頑固者だから、何を言ってもやめないだろうなこりゃ……。やれやれ……。満足するまでこのまま好きにやらせておくか。
まあ、僕自身も本気で嫌じゃないから強く言えないってのもあるが。
僕らはきっとお互い、そばにいないと生きられなくなるほど依存し合っていきそうだな。それが、望んだ結果なのだろう。
「こんな世界だ。狂ったように依存して生きていく方が案外、僕には合っていたりしてな」
そんなことを呟き、今日も今日とて役所へ向かうのだった――。
出入り口の扉を押し開け三番街から何とか無事に戻ってくることができた。
「ああ! 二人共、無事だったようだね!」
「木藤。ずっと待っていたのか?」
まさか、本当に戻ってくるまで待っているとは思わなかった。
「当然さ。秋斗のことでナイくんには色々と迷惑をかけてしまったし、だからせめて中央区までの運転は俺がしないと」
「そ、そうか」
「それはありがたいわね」
そうだな。この身体で数日かけて帰らないといけない、と思うと気が滅入る。
ここは素直に、木藤の車に乗せてもらおう。
「木藤。助かる」
「いいよ。さあさあ、乗った乗った」
木藤に促され、荷台に乗り込む僕と真冬。東三番街から徐々に離れていく光景を、真冬はじっと見つめていた。
しばらく、声もかけず僕は揺れる荷台で空を見上げてから目を閉じる。
色々あったな……。声をかけられ顔を見た瞬間、まさか真冬が地下街へ訪れたことに心底、驚いてその上で危険しかない東三番街までの案内を頼まれるとは思いもしなかった。
行きたがる理由が、景に会いたいって言うから驚きの連続だ。僕の中の真冬は、小学生の頃までしかなくとも見てすぐに気づいた。
だから、何としても生きてもらおうと計画を練ってやっとここまできた。
「ほんと、何が起きるのか分からないものだ」
「それはどういう意味で言っているの?」
真冬に言われ目を開ける。
声に出していたのか僕。
「こうして、また真冬と一緒にいられるとは想像もしていなかったって話だ」
「…………」
僕の返答に黙ってしまう真冬。顔を真冬に向けると、膝を抱え俯いていた。
「真冬?」
「ねえ、ナイ」
「なんだ?」
「ナイは、私に会いたかった?」
「…………」
俯いたままそんなことを訊かれ今度は僕が黙ってしまう。
景は、じゃなくナイは、か……。もしかして、僕が本当は真冬に会いたくない、一緒にいたくなかったんじゃないか、そんなこと思っていそうだな。
「会いたいと思わないようにしてた」
「えっ……」
顔を上げる真冬に、僕はずっと思っていたことを話す。
「会いたいと望めば望むほど、一人でいられなくなるからな。僕は案内役でここからは出られないしここが僕の世界だ。誰かに会いたいとか、一緒にいられたら、なんて望んで手にし、でもある瞬間に失うと耐えられなくなりそうだから。だから、そんなことを思わないようにしてきた」
「ナイ……」
「のつもりだったが、真冬に会ってあんな告白まで受けてしまうと我慢なんてできなくなる。真冬と一緒にいたい、このままずっとってさ」
吐露した僕の本音。真冬がどう受け止めるかは分からないが、これが僕の今の気持ちなんだ。
考えないように、思わないように、そうしてきていたが本当は会いたかったし一緒にいられたなら、なんて心のどこかでずっと思っていた。
「そうなのね」
「ああ」
「うふふ。やっぱり、私は景もナイも好きよ。大好き」
「はえっ⁉」
急な告白に素っ頓狂な声が出る。
微笑む真冬に、顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
「ナイってば、耳まで真っ赤よ」
「……っ。ま、真冬が唐突に言うからだろ!」
「あら、好きはちゃんと言葉にして伝えないと相手に伝わらないでしょ?」
「いや、だからってここで言わなくてもいいだろに!」
「そう? 私は言いたい時に言うわ。今みたいにね」
「へいへい、そうですか」
ったく、心臓に悪いわ! 告白なんて受けたことないからどう反応すればいいか分からん!
そんなやり取りをしつつ中央区まで帰ってきた。
「本当に家まで送らなくて平気かい?」
「ああ。家までそれほど遠くないからな。ここまで送ってもらったし大丈夫だ」
「分かった。気をつけて帰るんだよ」
「ああ。ありがとう」
木藤とはここで別れ、真冬と一緒に帰る。やっと家に帰ってきた僕らは真っ先に傷の手当てをし、食欲より疲れて睡眠を取る。
自室のベッドに二人して横になると、すぐ睡魔が襲い会話らしい会話もなく眠ってしまった。
翌日から数日間は傷を癒やすため休業。その間に、クロとアカに約束した焼肉を庭で行い、真冬が用意した依頼料の半分がこれで消えていった。
真冬曰く、気にしないから使ってくれていいそうだ。
後日、真冬は僕の助手として案内役の仕事を一緒にするように。
「ふふっ」
「嬉しそうだな。真冬」
「ええ。ナイと、どこにいても一緒にいられるもの」
「それはそうなんだが……。それでもこの距離感はおかしくないか!」
家の中だとすぐ腕に抱きつき、仕事中はそばから離れようとしない。挙句の果て、風呂にまで一緒に入ってこようとするし、部屋も用意したはずが僕のベッドに潜り込む始末。
なんだこれ……。
「今までいられなかった分を取り戻すためよ」
「そうですかい……」
真冬は昔からこうと決めると考えを変えない頑固者だから、何を言ってもやめないだろうなこりゃ……。やれやれ……。満足するまでこのまま好きにやらせておくか。
まあ、僕自身も本気で嫌じゃないから強く言えないってのもあるが。
僕らはきっとお互い、そばにいないと生きられなくなるほど依存し合っていきそうだな。それが、望んだ結果なのだろう。
「こんな世界だ。狂ったように依存して生きていく方が案外、僕には合っていたりしてな」
そんなことを呟き、今日も今日とて役所へ向かうのだった――。
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