28 / 36
血にまみれた嘘
第26話
しおりを挟む
何が知りたいのか、真冬へ僕は問う。
「真冬は何が聞きたい?」
その問いに人差し指を顎に当て少し考えてから答える真冬。
「そうね。ナイの性別は?」
その質問に黙ってしまう。
やはり、会話を聞いたと言っていたから知りたいのはその辺りだろうとは思ったよ。
「……男だった」
自分で答えて薄笑いを浮かべる。どこまでいっても、僕は嘘で自分を塗り固める。
「実験で去勢され、今ではどちらでもないが」
「そう、なのね……」
答えに困る返しで悪いな。
僕も気になることを訊く。
「真冬は、昨日の僕と木藤の会話をどこから聞いていたんだ?」
「えっと……『第二世代も幸せになる権利くらいあはるはず』ってところだったと思うわ」
「そうか……」
真冬の返答に、心底ほっとしてしまう。それ以前のことは聞かれていないのか。よかった……。
真冬も質問を続ける。
「そもそも案内役って何?」
「以前にも軽く話したと思うが、案内役はこの地下街を盛り上げるための駒の一つだ。その言葉通り、行きたがっている街へ案内をするだけの役目」
付け加えて説明を続けた。
「他にもこの地下街で屍人に喰われて死んだ死体を回収を役目とする回収班。昨日、見た秋斗のように何かしらの理由で化け物と成り果てた被検体を抹殺する役目の処刑人。この地下街にも情報というのはあるもので、その情報を売る情報屋なんかもいるな」
指を折って役目の話をしていく。
「駒って……。何のためにそんな役割が存在しているのかしら?」
ここまで聞けば無論、どうしてと疑問に思うわな。
「神様だろうさ」
「は? 神様?」
「ああ。この地下街を運営しているのは政府だが、実際はその政府に指示を飛ばし動かしているのはこの世界を創り出した神。つまり、創造主だ」
この話を聞いたのは、実験を受け案内役の役割を担ったばかりの頃。先輩の案内役の人が話していた。どこまでが真実で嘘なのかも分からないが。その先輩が言っていた。
「どこの誰なのか、神の叡智を得た人間なのか、それとも本当に神様なのか、何も分からない。そういう話を昔に聞いたことがあってな」
「そうなのね。ナイは、どうして被検体に?」
真冬は短く答えると次の質問をぶつける。
それに対して僕の答えは。
「……親に、この地下街に捨てられたんだよ。その結果、孤児と断定され被検体にされた」
その実験は、まるでアニメや漫画に出てくるような設定に、能力を植えつけるために全身を弄られまくったが。
「あの……獣は何?」
獣。クロとアカのことか。
その質問にも答える。
「あの獣は神話に登場する獣だ。『黙示録の獣』という」
「黙示録の獣って、そんなものが今の時代に存在するの?」
「ああ、する。どうやって政府が手に入れたかは分からないが。その獣の一部を、僕の身体に宿させる実験を受けた結果、二頭が僕の体内にいる。クロとアカと名付けたのは僕だけど」
確か、ヨハネの黙示録に記されていたはず。
一匹の獣が海の中から上がって来る。その獣は十の角と七つの頭があり、それぞれ十本の王冠を被り頭には神を冒涜する様々な名が記されていた。この獣は、豹に似て足は熊の足のようで、口は獅子の口のようだった。
クロとアカには足はないが。
「肉体に宿すクロとアカを戦わせる代わりに、僕は身体能力が上がる。ただし、クロとアカが受ける痛みも傷も全て僕が引き受けることになる」
「じゃあ、秋斗くんと戦っていた時に血を吐いたり傷ができていたのは……」
「ああ。クロとアカが受けた傷だ」
「そうだったのね……。あれだけの力を使うなら、それだけの代償が必要ということかしら」
「まあ、そうなるな。あまり、真冬が気に留めることはない」
「ええ……」
真冬が聞きたかった質問は今のところそれだけだったようで、それ以上の質問はなかった。
横目で真冬を見れば、僕から聞いた話をどう受け止めればいいのか悩んでいるように見えた。これは、ただ僕がそうだったらいいのにと思い込んでいるから、そう見えただけなのかもしれないが。
「真冬は何が聞きたい?」
その問いに人差し指を顎に当て少し考えてから答える真冬。
「そうね。ナイの性別は?」
その質問に黙ってしまう。
やはり、会話を聞いたと言っていたから知りたいのはその辺りだろうとは思ったよ。
「……男だった」
自分で答えて薄笑いを浮かべる。どこまでいっても、僕は嘘で自分を塗り固める。
「実験で去勢され、今ではどちらでもないが」
「そう、なのね……」
答えに困る返しで悪いな。
僕も気になることを訊く。
「真冬は、昨日の僕と木藤の会話をどこから聞いていたんだ?」
「えっと……『第二世代も幸せになる権利くらいあはるはず』ってところだったと思うわ」
「そうか……」
真冬の返答に、心底ほっとしてしまう。それ以前のことは聞かれていないのか。よかった……。
真冬も質問を続ける。
「そもそも案内役って何?」
「以前にも軽く話したと思うが、案内役はこの地下街を盛り上げるための駒の一つだ。その言葉通り、行きたがっている街へ案内をするだけの役目」
付け加えて説明を続けた。
「他にもこの地下街で屍人に喰われて死んだ死体を回収を役目とする回収班。昨日、見た秋斗のように何かしらの理由で化け物と成り果てた被検体を抹殺する役目の処刑人。この地下街にも情報というのはあるもので、その情報を売る情報屋なんかもいるな」
指を折って役目の話をしていく。
「駒って……。何のためにそんな役割が存在しているのかしら?」
ここまで聞けば無論、どうしてと疑問に思うわな。
「神様だろうさ」
「は? 神様?」
「ああ。この地下街を運営しているのは政府だが、実際はその政府に指示を飛ばし動かしているのはこの世界を創り出した神。つまり、創造主だ」
この話を聞いたのは、実験を受け案内役の役割を担ったばかりの頃。先輩の案内役の人が話していた。どこまでが真実で嘘なのかも分からないが。その先輩が言っていた。
「どこの誰なのか、神の叡智を得た人間なのか、それとも本当に神様なのか、何も分からない。そういう話を昔に聞いたことがあってな」
「そうなのね。ナイは、どうして被検体に?」
真冬は短く答えると次の質問をぶつける。
それに対して僕の答えは。
「……親に、この地下街に捨てられたんだよ。その結果、孤児と断定され被検体にされた」
その実験は、まるでアニメや漫画に出てくるような設定に、能力を植えつけるために全身を弄られまくったが。
「あの……獣は何?」
獣。クロとアカのことか。
その質問にも答える。
「あの獣は神話に登場する獣だ。『黙示録の獣』という」
「黙示録の獣って、そんなものが今の時代に存在するの?」
「ああ、する。どうやって政府が手に入れたかは分からないが。その獣の一部を、僕の身体に宿させる実験を受けた結果、二頭が僕の体内にいる。クロとアカと名付けたのは僕だけど」
確か、ヨハネの黙示録に記されていたはず。
一匹の獣が海の中から上がって来る。その獣は十の角と七つの頭があり、それぞれ十本の王冠を被り頭には神を冒涜する様々な名が記されていた。この獣は、豹に似て足は熊の足のようで、口は獅子の口のようだった。
クロとアカには足はないが。
「肉体に宿すクロとアカを戦わせる代わりに、僕は身体能力が上がる。ただし、クロとアカが受ける痛みも傷も全て僕が引き受けることになる」
「じゃあ、秋斗くんと戦っていた時に血を吐いたり傷ができていたのは……」
「ああ。クロとアカが受けた傷だ」
「そうだったのね……。あれだけの力を使うなら、それだけの代償が必要ということかしら」
「まあ、そうなるな。あまり、真冬が気に留めることはない」
「ええ……」
真冬が聞きたかった質問は今のところそれだけだったようで、それ以上の質問はなかった。
横目で真冬を見れば、僕から聞いた話をどう受け止めればいいのか悩んでいるように見えた。これは、ただ僕がそうだったらいいのにと思い込んでいるから、そう見えただけなのかもしれないが。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】
一色孝太郎
ファンタジー
魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……?
※本作は全 181 話、【完結保証】となります
※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります
異世界ネクロマンサー
珈琲党
ファンタジー
トオヤマ・イチロウはふと気づくと異世界にいた。わけも分からず途方に暮れていたイチロウを救ったのは、死霊のクロゼルだった。あてどなく街を散策していたイチロウは、手打ちにされそうになっていた娘、リサを気まぐれで救う。リサを故郷へ送り届ける途中、ちょっとした好奇心にかられて大魔導師パウムの住処へ立ち寄る。大魔導師パウムの働きかけによって、リサは生活魔法の使い手に、イチロウはネクロマンサーとして覚醒する。イチロウとリサとクロゼル、後に仲間に加わった吸血鬼のベロニカ。四者はそれぞれ協力しながら、平和で快適な生活を築くべく奮闘するのだった。
【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~
次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」
前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。
軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。
しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!?
雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける!
登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラウンクレイド零和
茶竹抹茶竹
SF
「私達はそれを魔法と呼んだ」
学校を襲うゾンビの群れ! 突然のゾンビパンデミックに逃げ惑う女子高生の祷は、生き残りをかけてゾンビと戦う事を決意する。そんな彼女の手にはあるのは、異能の力だった。
先の読めない展開と張り巡らされた伏線、全ての謎をあなたは解けるか。異能力xゾンビ小説が此処に開幕!。
※死、流血等のグロテスクな描写・過激ではない性的描写・肉体の腐敗等の嫌悪感を抱かせる描写・等を含みます。
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
死霊術士が暴れたり建国したりするお話
白斎
ファンタジー
日本人がファンタジー異世界にとばされてネクロマンサーになり、暴れたりダラダラしたり命を狙われたりしながら、いずれ建国してなんやかんやするお話です。 ヒロイン登場は遅めです。 ライバルは錬金術師です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる