案内役という簡単そうに見えるお仕事

ゆーにゃん

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血にまみれた嘘

第25話

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 早朝に起きて荷台に乗り込む僕ことナイ。その隣には真冬もいる。助手席に座っていい、そう言っても僕の隣がいいと自ら荷台に乗り込む。

 そうして、日が昇り三つ目の街を車で突っ切る。昨日の一件で、僕と木藤の間に会話はない。

 もう少しで、目的地の東三番街に辿り着くな。当初の目的、真冬に死にたくない生きたいと思わせる計画は大失敗に終わったが……。

 上手くいかないものだ。
 そんなことを思いながら人工の空を見上げる僕に、真冬が声をかける。

「ねえ、ナイはどちらでもないって本当なの?」
「…………はい?」

 一瞬、何を言われているのか分からず間が空いての一言。
 急に何を言い出すんだ? どちらでもないってのはどういう意味だ?

 瞬きをして首を傾げ、真冬を見つめる。真冬も僕を見つめ、そして次に発した言葉に僕の身体は固まり思考は停止しかける。

「昨日、木藤さんとの会話を聞いてしまったの。二人の会話で、目が覚めてそのまま寝たふりをしながら」
「………………」

 う、うそだろ……⁉ き、聞かれたのか……⁉ 昨日の、あの会話の内容を……⁉
 よりによって、一番聞かれたくない真冬に……。

 内心、酷く焦る。冷や汗が、背筋を流れていく。手が震え、真冬から視線が外せない。

 真冬は、申し訳なさそうな困った表情で僕を見つめたまま。

 だ、ダメだ。な、何か答えないと……。だが、何を言えばいい……? 誤魔化そうにも、何を言ってどう切り抜ければいいのか分からないっ……。昨日のことは気にするな、忘れろ、って言えば真冬は気にしなくなるのか? 忘れてくれるのか?
 ど、どうすればいい⁉

 何も言えず固まった僕に真冬は訊く。

「聞かせて?」
「えっ……?」
「ここまでの案内もそうだけど、どうして自分の身体を張ってまで私を護ろうとするのか、ナイのこと何も知らない私に教えてちょうだい」
「そ、それは……」
「知りたいの。ナイのこと」
「………………………………」

 真冬の知りたいから教えてと言う言葉に長い沈黙を返してしまう。
 唇をきつく結んで、答えられなくなる。僕のことを教えることは……できない。それは知らなくていいことだ。真冬には、関係のないこと。
 いや、知られたくない。関係のないままで、いてほしいと勝手に望んでいるだけ。

 頼むから、知りたいなんて思わないでくれ……。

「それは、仕事だからそうしただけだ。深い意味はない」

 ようやく、口にできたのはそんな言葉。言葉の裏に、拒絶を込めて。
 だが、真冬は諦めるつもりはないようで。

「……そんな言葉だけで納得できるわけないわ」
「……っ⁉ ま、真冬⁉」

 強引に迫る。隣に座っていた真冬は、僕へ身体を密着させ顔を近づける。至近距離で見つめ合う。真冬の青い瞳に僕の顔が映り込むのが分かるくらい近く、吐息が当たって僕の心臓が大きく跳ねる。

「ナイ。答えて」
「……っ!」

 間近の真冬を見ていられなくなって顔を背ける。

 こんな、まじまじと見つめられると居心地が悪いっ……! 真冬はも少し自覚をした方がいい! 顔立ちも良いし、身長も高い、華奢だが出るところは出る体型だ。一言で言えば、美人。
 そんな人が、無防備というか考えなしに接近するものじゃない……!
 なんて、頭で考えてしまう。

「……。こっちを向きなさい!」
「うげっ⁉」

 頬を両手で掴まれ、強引に真冬の方へ向けさせられ首がコキッと鳴る。

 お、おいっ⁉ な、何をする!

 間近に迫る真冬の顔。僕は目を開き、顔を背けることができないならと今度は目を背けた。
 そんな僕の態度に怒りが募りつつある真冬。

「……っ! ナイ、何度も言わせないで。早く教えなさい!」
「――っ⁉」

 手に力が込められるのが伝わってくる。そして、命令口調で言う。
 真冬に迫られ、顔を捕まれ、荷台で逃げ場のないこの状況に観念するしかなかった。

「……わ、分かった。分かったから、手を放して離れてくれ」

 真冬の手首を掴んでそう返す。
 それでようやく真冬は、僕の顔から手を放し隙間を空けて隣に座る。

 はあー……。やれやれ……、どう話したものか……。

「そうだな……」

 ため息一つ、吐いて僕は語り出す。

 血にまみれた嘘を――――。
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