案内役という簡単そうに見えるお仕事

ゆーにゃん

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救う方法はただ一つ

第18話

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 クロとアカは、秋斗の両足首に噛みつき動きを封じる。痛みを感じる秋斗は、体勢を崩し前のめりに倒れ地面に膝をつく。

 秋斗の肩に掴まり、片手でポケットに突っ込んだ箱を取り出し鉄砲型の注射器を首に打つ。
 打った直後は暴れ回る秋斗だったが、徐々に薬の効果が現れ始めたのか動きが止まる。

「ふぅー……」

 秋斗の首からゆっくり引き抜き、肩から降りるとクロとアカにも口を離すよう命ずる。

「クロ、アカ。もういいぞ」
『クゥン』
『ウゥン』

 真冬と木藤が駆け寄るのを視界の端に捉える。
 やっと、終わった……。馬鹿力過ぎて、体力も気力も限界だ……。
 真冬は僕の下へ、木藤は秋斗の下へ。

「ナイ! 身体は平気なの? 怪我は? それにその獣はなに? 人間離れした身体能力もなんなの?」

 駆け寄った瞬間に、質問攻めなんだな。心配してくれてるのはありがたいが、後半の質問には答えられない。

「身体は平気だ、たぶん。怪我もそれほど深くないから大丈夫。あと獣とか身体能力についてはノーコメントで」
「ナイ……。そう。大丈夫って言うならいいわ。でも、いつか質問に答えてくれるわよね?」
「……いつかは」
「そう」

 いつになるかは分からないが。それに、答えるとは限らない。
 それで、木藤の方はどうなったんだ?

「秋斗。秋斗、分かるかい? 木藤だよ。秋斗……」

 そばで声をかけ続ける。

「秋斗……」

 何度も名前を呼び、しばらくして秋斗の目蓋がゆっくりと開く。

「秋斗……!」

 秋斗の反応に頬をほころばせる木藤。
 木藤の声、姿に気がついたのか震える唇から声を絞り出す秋斗。
 掠れた声で最初に紡いだ言葉は、

『殺して……』

 ――だった。
 その一言に、木藤は言葉を失い膝立ちのまま固まる。秋斗は、そのまま言葉を続けた。

『お願い、先生。殺して。このままだと、ぼくは自我も意志も失くしてただの化け物になっちゃうよ……。だから、木藤先生の手でぼくを殺して……』

 木藤は、首を横に振る。

「そ、そんなこと俺はできない……! いや、したくない! 大丈夫! 俺が、必ず秋斗を救うから! もう化け物になんてならなくて済むようになるから! だから、殺してなんて言っちゃダメだ!」

 声を荒げ、秋斗に言うが本人も首を横に振る。

「秋斗!」

 木藤の表情は泣きそうで苦しそうで歯を食いしばり、救う、大丈夫だからと繰り返すが秋斗は涙を流し懇願し続けた。

『先生。お願いだよ。ぼくを、殺して……』

 口を挟めず、二人とのやり取りを眺めるだけ。
 木藤は秋斗を救いたくて、第二世代の僕に力をかしてくれと頼んで、ここまできたのに当の秋斗は殺してくれと頼み込む。

 真冬も、何も言えずただ僕を見る。
 僕なら、何とかできるのではないか、と。無理だ……。僕にそんな力はない。
 それに秋斗の言うように、このままだと自我も意志も失くしてただ殺戮を繰り返すだけの化け物に成り果てるだろう。

 実験を受けた者にしか分からない、死が身体にも魂にも取り巻いている。秋斗は、ここで秋斗として死ぬか、化け物と成り果て討伐され死ぬか、その二択しかないんだ。

 たとえ、救う方法がそれしかないとしても。
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