19 / 36
救う方法はただ一つ
第17話
しおりを挟む
目の前に突然、現れた僕を敵と認識したようで敵意を剥き出しにする秋斗。
それでいい。僕を見ろ! 他の連中など、放っておけ!
『アアァァガガガがアアアアアアアアアアアアッ――!』
野太く獣のような咆哮を上げる秋斗。その声に恐怖した、生き残った連中はその場から逃げ出す。
対峙する僕と秋斗。
最初に動いたのは秋斗だ。腕を振り上げ、地面を割るまでにおよそ三秒。
その三秒間に僕は、秋斗との間合いを詰める。懐に入り込むと、腰から赤黒い二つの尻尾を出現させる。
尻尾に見えるそれは、尻尾ではなく獣の頭部を持ち意思があり秋斗の振り上げた腕に噛みつく。
『イイイイゥゥウウウウウウウウウウウッ!』
秋斗は、激痛のあまり叫び獣を振り払おうと腕を上下左右に振り乱す。
巻き込まれないよう後退。
腰から生え伸びる赤黒い獣の胴体は、蛇のよに太く前足も後ろ足もない頭だけの歪な二頭。それぞれ一本の角を生やし、顔は豹に似て口は獅子の口のよう。鋭く生え揃った牙が、銃弾を通さなかった皮膚に深々と刺さり血飛沫が飛び散る。
『ウウウウウウウウァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
秋斗は、一頭の頭を鷲掴み無理やり引き剥がすと地面に叩きつけた。もう一頭は、胴体を引っ張り剥がすとハンマー投げのように振り回しビルへ力任せに投げる。
「――っ⁉」
獣たちが受ける衝撃と投げ飛ばされる獣に引っ張られ、僕も一緒にビルの壁に身体を打ちのめされる。
「がはっ……」
口から胃液を吐き出す。
……うぐっ、い、いってぇ……。
血を吐き出さなかったのはいいが、上手く息が吸い込めないっ……。
くそっ……。
第二世代の人体実験で僕の体内に植えつけられた能力。それは、神が気まぐれに残した神話に登場する獣の意思と肉体の一部。僕はそれに名前をつけた。
クロ、アカと。
そして、クロとアカが受ける痛みも衝撃も全て、僕が引き受ける代わりに高い身体能力と獣たちを制御できる能力を得た。
頭の中に流れる過去の映像。この地下街へ来た日、実験を受け続けた日々の。
そんな僕の視界に、秋斗の人間の頭など簡単に潰せる大きい拳が迫る。
「ナイ……!」
遠くから真冬の悲痛な叫びが聞こえる。
拳は真っ直ぐ、僕を襲う。
――クロ、アカ!
「うぐっ……!」
秋斗の拳を、念じ呼んだクロとアカの胴体が受け止める。が、二頭を通じて僕の身体に届く痛みと衝撃。
「ゲホッ……」
腹に重い打撃で内臓が潰れそうだっ……。このままだと、まずいっ……。
秋斗の拳は一発では済まなかった。
『ウウウウッ、ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ――!!!!」
――――っ⁉
ドゴッ、ボゴッ、ドンッ。
という鈍い音が耳に響く。
何度も、クロとアカに拳で殴り続ける秋斗。その度に、僕の身体に走る激痛と息苦しさで声が出せないっ……。
「うっ、がっ、はぁっ……」
く、苦しいっ……。い、息が上手く、す、えないっ……。
く、口の中が血の味でいっぱいじゃないか! くそっ!
「ちょ、調子に、乗るなっ!!」
――クロ、拳に噛みつけ!
――アカ、腕に巻きつけ!
目を開き、獣に命じる。その命令通りに、拳に噛みつき腕に巻きつく。
秋斗の攻撃が緩み、その隙きに横へ転がり距離を取る。
「ゲホッ、ゴホッ……」
ビチャ、と地面に血を吐き出す。
「はあっ、はあっ……」
秋斗は拳に噛みつくクロ、腕に巻きつくアカを振り払い脚を上げ地面にクレーターを作り、それを何度も繰り返す。
轟音と地響き、煙を上げ視界を覆い尽くす周囲。
「ちっ……!」
そんな煙の中から飛び出し、クロとアカを左右に引き連れ体勢を整える。
ほんと、なんていう威力だよ! お陰でこっちは、ボロボロだよ! 内臓がいっていないだけまだマシなのだろうけど。
それでも、痛みは全身に広がって動くだけでも苦しい。クロとアカがいたから、この程度で済んでいる。これが、まともに当たれば骨は折れるだろうし、内臓も無事では済まないな。
距離と取り辺りを確認する。
よしっ、秋斗の背後に回れたのは運がいい。
「クロ、アカ!」
煙で視界が悪く、秋斗が気づき動き出す前に決着をつける!
――秋斗の足首を狙え!
そう、二頭に念じクロとアカの胴体が伸びる。それを追うように僕も走り、秋斗の背中へ飛びついた。
それでいい。僕を見ろ! 他の連中など、放っておけ!
『アアァァガガガがアアアアアアアアアアアアッ――!』
野太く獣のような咆哮を上げる秋斗。その声に恐怖した、生き残った連中はその場から逃げ出す。
対峙する僕と秋斗。
最初に動いたのは秋斗だ。腕を振り上げ、地面を割るまでにおよそ三秒。
その三秒間に僕は、秋斗との間合いを詰める。懐に入り込むと、腰から赤黒い二つの尻尾を出現させる。
尻尾に見えるそれは、尻尾ではなく獣の頭部を持ち意思があり秋斗の振り上げた腕に噛みつく。
『イイイイゥゥウウウウウウウウウウウッ!』
秋斗は、激痛のあまり叫び獣を振り払おうと腕を上下左右に振り乱す。
巻き込まれないよう後退。
腰から生え伸びる赤黒い獣の胴体は、蛇のよに太く前足も後ろ足もない頭だけの歪な二頭。それぞれ一本の角を生やし、顔は豹に似て口は獅子の口のよう。鋭く生え揃った牙が、銃弾を通さなかった皮膚に深々と刺さり血飛沫が飛び散る。
『ウウウウウウウウァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
秋斗は、一頭の頭を鷲掴み無理やり引き剥がすと地面に叩きつけた。もう一頭は、胴体を引っ張り剥がすとハンマー投げのように振り回しビルへ力任せに投げる。
「――っ⁉」
獣たちが受ける衝撃と投げ飛ばされる獣に引っ張られ、僕も一緒にビルの壁に身体を打ちのめされる。
「がはっ……」
口から胃液を吐き出す。
……うぐっ、い、いってぇ……。
血を吐き出さなかったのはいいが、上手く息が吸い込めないっ……。
くそっ……。
第二世代の人体実験で僕の体内に植えつけられた能力。それは、神が気まぐれに残した神話に登場する獣の意思と肉体の一部。僕はそれに名前をつけた。
クロ、アカと。
そして、クロとアカが受ける痛みも衝撃も全て、僕が引き受ける代わりに高い身体能力と獣たちを制御できる能力を得た。
頭の中に流れる過去の映像。この地下街へ来た日、実験を受け続けた日々の。
そんな僕の視界に、秋斗の人間の頭など簡単に潰せる大きい拳が迫る。
「ナイ……!」
遠くから真冬の悲痛な叫びが聞こえる。
拳は真っ直ぐ、僕を襲う。
――クロ、アカ!
「うぐっ……!」
秋斗の拳を、念じ呼んだクロとアカの胴体が受け止める。が、二頭を通じて僕の身体に届く痛みと衝撃。
「ゲホッ……」
腹に重い打撃で内臓が潰れそうだっ……。このままだと、まずいっ……。
秋斗の拳は一発では済まなかった。
『ウウウウッ、ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ――!!!!」
――――っ⁉
ドゴッ、ボゴッ、ドンッ。
という鈍い音が耳に響く。
何度も、クロとアカに拳で殴り続ける秋斗。その度に、僕の身体に走る激痛と息苦しさで声が出せないっ……。
「うっ、がっ、はぁっ……」
く、苦しいっ……。い、息が上手く、す、えないっ……。
く、口の中が血の味でいっぱいじゃないか! くそっ!
「ちょ、調子に、乗るなっ!!」
――クロ、拳に噛みつけ!
――アカ、腕に巻きつけ!
目を開き、獣に命じる。その命令通りに、拳に噛みつき腕に巻きつく。
秋斗の攻撃が緩み、その隙きに横へ転がり距離を取る。
「ゲホッ、ゴホッ……」
ビチャ、と地面に血を吐き出す。
「はあっ、はあっ……」
秋斗は拳に噛みつくクロ、腕に巻きつくアカを振り払い脚を上げ地面にクレーターを作り、それを何度も繰り返す。
轟音と地響き、煙を上げ視界を覆い尽くす周囲。
「ちっ……!」
そんな煙の中から飛び出し、クロとアカを左右に引き連れ体勢を整える。
ほんと、なんていう威力だよ! お陰でこっちは、ボロボロだよ! 内臓がいっていないだけまだマシなのだろうけど。
それでも、痛みは全身に広がって動くだけでも苦しい。クロとアカがいたから、この程度で済んでいる。これが、まともに当たれば骨は折れるだろうし、内臓も無事では済まないな。
距離と取り辺りを確認する。
よしっ、秋斗の背後に回れたのは運がいい。
「クロ、アカ!」
煙で視界が悪く、秋斗が気づき動き出す前に決着をつける!
――秋斗の足首を狙え!
そう、二頭に念じクロとアカの胴体が伸びる。それを追うように僕も走り、秋斗の背中へ飛びついた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる