案内役という簡単そうに見えるお仕事

ゆーにゃん

文字の大きさ
上 下
11 / 36
分からせるための旅路

第9話

しおりを挟む
 路地裏へ逃げても、見失うまで追いかけてくる屍人の群れ。

 ちっ。面倒なことになった!

「真冬!」

 路地から出ると空き家に素早く入り身を隠す。

「声を出すな」
「ええ……」

 小声で真冬に言い、抱き寄せ屍人の群れが過ぎ去るまで息を殺す。

 唸り声、いくつもの足音が隠れた空き家の前を通っていく。僕の心臓も、抱き寄せた真冬から伝わる心臓も早鐘を打つ。

 考えろっ……! 考えろっ……!

 あれを使えばこんな数、どうとでもなるがそう上手くいかない事情もある。いざって時に使えないからなあれは……。

 ならどうする? このままここで隠れていても状況が変わるわけでもない……。なら、外に出て戦う? いや、それは無理だ。真冬を護りながら、その上で逃げ道を確保など僕には不可能だ。

 じゃあ、どうする……!

 思考を巡らせ策を考えるが答えは出ない。
 真冬を見れば、少し青い顔をしていた。

「真冬、引き返すか?」

 そう小声で訊く。
 ここで引き返してくれれば、計画は成功で死ぬ確率も下がる。案内の途中で死なれては意味がない。

「ひ、引き返したりしないわ……」

 やれやれ。頑固だな……。

 真冬は深呼吸で落ち着かせようとする。足音は遠くなり、とりあえずは難を逃れたと思っていいだろう。問題は、このあとどうするかだが……。
 外の様子を伺うため、そっと顔を隙間から出し見る。

「――っ⁉」

 まずいっ!

「真冬!」
「え、なに⁉」

 真冬を抱き寄せたまま奥へと飛び退く。数秒後、僕らがいた場所に一体の屍人が壁を突き破り飛んできた。

 おいおい! いったいなんなんだ⁉ 屍人が宙を舞ってこちらに飛んでくるなんて! あと数秒、遅れていたら僕も真冬も巻き込まれて怪我では済まないぞ!

 僕の行動に驚いていた真冬も、飛んできた屍人を見て理解したようで固まる。

「真冬、固まってる場合じゃない! すぐ、ここを離れるぞ!」

 これだけ大きな音を出せば離れていった屍人も気づきこちらへ向かって来る!

 真冬を起こし手を取って空き家から出ていく。出てすぐ、派手な音で屍人が戻ってくる姿を捉え、また走って逃げる羽目に。

 背後から、

『ウウウウゥァアアアアアアアッ――』

『アアアアアアアアアアアアアッ――』

 と、低い唸り声と獲物を逃さんと興奮気味の不気味な声が聞こえる。
 振り返る余裕など僕にも真冬にもない!

 押し寄せる目に見える恐怖がすぐそこまで迫ってくる! 僕にも恐怖を感じる感情はある! それは真冬も同じだろう!

 路地へ逃げることはせず広場へと出た僕ら。

 しかし、

「くそっ! あちこちから声が反響してどこに屍人の群れがいるのか分からないっ!」

 足音もするせいで耳だけじゃ判断できない!

 どの道だ⁉ どうしてこの広場は、分かれ道が五つもある⁉
 まずい! 一瞬の迷いが死を分ける!

「お二人さん、こっちよ!」

 焦り、迷う僕らに声がかけられた。
 九時の方向に目を向けれれば、ショートボブの女性が手招きをしている。

「早く! こっちへ!」

 迷う暇もなく、手招きする女性の方へ走る。促されるまま、二階建ての家へと入る僕と真冬だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎
ファンタジー
 魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……? ※本作は全 181 話、【完結保証】となります ※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...