7 / 36
依頼者は死にたがり屋
第5話
しおりを挟む
真冬を連れて家に帰ってきた。玄関を潜り、中へ入っていく真冬。
「ナイって、あまり物を置かないタイプ?」
真冬に訊かれる。僕の自宅には、備えつけのキッチンと食器棚と買った冷蔵庫、ソファーとその前に置いてあるテーブルのみのリビング。
「ああ。あまり物にこだわりとかないし、必要最低限あれば問題ないから」
「そうなのね。じゃあ、部屋の案内お願い」
「やれやれ」
一階はリビング、トイレ、風呂場と順々に案内し二階へ。部屋の数は三部屋、その一部屋を僕が使っている。南側のこの家で一番日当たりがいい部屋だ。
部屋に入れば、ダブルベッドしかない。
「一人暮らしなのにダブルベッド?」
「ああ、それはシングルより安かったんだ。売れ残ったベッドをセールで」
「ふーん。それじゃあ、この部屋を私がありがたく使わせてもらうわね」
「はっ?」
「ナイは、一階のソファーでいいわよね?」
……もういいかこれで。何を言っても変わりそうにないし……。
「はいはい。好きに使ってくれていいよ。なにかあれば呼んでくれ」
「ええ」
案内を終えリビングに戻ると、真冬が泊めてくれるお礼として夕食を作ってくれるとのこと。そういう認識はあったんだな。お言葉に甘えて任せることに。
「どうぞ、召し上がれ」
「ほほう」
カレーのいい匂いが空腹を刺激する。家に残っていた豚肉、玉ねぎ、じゃがいも、人参を使って手早く用意してくれたよう。
「頂きます」
失敗する要素はないから安心して食べる。うん、美味しい。手際もいいし、家でも料理していたのだろうな多分。
美味しく頂いたあとは、真冬が先に風呂へ。
「真冬、着替え籠の中に置いておくから」
「ありがとう」
「僕のジャージしかないが」
「それは気にしないから平気よ」
「そうか」
真冬、自分の服をささっと洗濯機に入れて回しながら風呂へか。家事も慣れた感じだな。なんだろう、しっかりと家事を熟すイメージがある。洗濯物を溜めたり食事を疎かにしたりする僕とは大違いだ。
真冬が上がり、僕も入る。
「さて、どうしたもんか」
シャワーから出されるお湯を頭からかぶりながら考える。
どのルートを通って、真冬に理解させるかを。死にたくない、生きていたいと思わせるためには少々、危険な道を選ぶ必要がある。
「…………」
ふと、顔を上げ鏡に映る自分を見る。
傷まみれの全身、細身で凹凸がなく鍛えてはいるが筋肉のつきようはあまりよくない腹部や腕や脚、そして腰の付け根に赤い痣。
「こんな身体、真冬にも誰にも見せられないな……」
水音で掻き消される言葉。
案内役も楽な仕事じゃない。屍人に噛まれたり、爪で引っ掻かれたり、戦闘に巻き込まれて傷を負うことも多々ある。
屍人に噛まれたら、屍人になるなんてことはない。ただ喰われ死ぬだけ。
そんなことを思い風呂から出る。
何もすることがない僕らは早々に寝ることに。
「ナイって、あまり物を置かないタイプ?」
真冬に訊かれる。僕の自宅には、備えつけのキッチンと食器棚と買った冷蔵庫、ソファーとその前に置いてあるテーブルのみのリビング。
「ああ。あまり物にこだわりとかないし、必要最低限あれば問題ないから」
「そうなのね。じゃあ、部屋の案内お願い」
「やれやれ」
一階はリビング、トイレ、風呂場と順々に案内し二階へ。部屋の数は三部屋、その一部屋を僕が使っている。南側のこの家で一番日当たりがいい部屋だ。
部屋に入れば、ダブルベッドしかない。
「一人暮らしなのにダブルベッド?」
「ああ、それはシングルより安かったんだ。売れ残ったベッドをセールで」
「ふーん。それじゃあ、この部屋を私がありがたく使わせてもらうわね」
「はっ?」
「ナイは、一階のソファーでいいわよね?」
……もういいかこれで。何を言っても変わりそうにないし……。
「はいはい。好きに使ってくれていいよ。なにかあれば呼んでくれ」
「ええ」
案内を終えリビングに戻ると、真冬が泊めてくれるお礼として夕食を作ってくれるとのこと。そういう認識はあったんだな。お言葉に甘えて任せることに。
「どうぞ、召し上がれ」
「ほほう」
カレーのいい匂いが空腹を刺激する。家に残っていた豚肉、玉ねぎ、じゃがいも、人参を使って手早く用意してくれたよう。
「頂きます」
失敗する要素はないから安心して食べる。うん、美味しい。手際もいいし、家でも料理していたのだろうな多分。
美味しく頂いたあとは、真冬が先に風呂へ。
「真冬、着替え籠の中に置いておくから」
「ありがとう」
「僕のジャージしかないが」
「それは気にしないから平気よ」
「そうか」
真冬、自分の服をささっと洗濯機に入れて回しながら風呂へか。家事も慣れた感じだな。なんだろう、しっかりと家事を熟すイメージがある。洗濯物を溜めたり食事を疎かにしたりする僕とは大違いだ。
真冬が上がり、僕も入る。
「さて、どうしたもんか」
シャワーから出されるお湯を頭からかぶりながら考える。
どのルートを通って、真冬に理解させるかを。死にたくない、生きていたいと思わせるためには少々、危険な道を選ぶ必要がある。
「…………」
ふと、顔を上げ鏡に映る自分を見る。
傷まみれの全身、細身で凹凸がなく鍛えてはいるが筋肉のつきようはあまりよくない腹部や腕や脚、そして腰の付け根に赤い痣。
「こんな身体、真冬にも誰にも見せられないな……」
水音で掻き消される言葉。
案内役も楽な仕事じゃない。屍人に噛まれたり、爪で引っ掻かれたり、戦闘に巻き込まれて傷を負うことも多々ある。
屍人に噛まれたら、屍人になるなんてことはない。ただ喰われ死ぬだけ。
そんなことを思い風呂から出る。
何もすることがない僕らは早々に寝ることに。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる