案内役という簡単そうに見えるお仕事

ゆーにゃん

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依頼者は死にたがり屋

第5話

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 真冬を連れて家に帰ってきた。玄関を潜り、中へ入っていく真冬。

「ナイって、あまり物を置かないタイプ?」

 真冬に訊かれる。僕の自宅には、備えつけのキッチンと食器棚と買った冷蔵庫、ソファーとその前に置いてあるテーブルのみのリビング。

「ああ。あまり物にこだわりとかないし、必要最低限あれば問題ないから」
「そうなのね。じゃあ、部屋の案内お願い」
「やれやれ」

 一階はリビング、トイレ、風呂場と順々に案内し二階へ。部屋の数は三部屋、その一部屋を僕が使っている。南側のこの家で一番日当たりがいい部屋だ。
 部屋に入れば、ダブルベッドしかない。

「一人暮らしなのにダブルベッド?」
「ああ、それはシングルより安かったんだ。売れ残ったベッドをセールで」
「ふーん。それじゃあ、この部屋を私がありがたく使わせてもらうわね」
「はっ?」
「ナイは、一階のソファーでいいわよね?」

 ……もういいかこれで。何を言っても変わりそうにないし……。

「はいはい。好きに使ってくれていいよ。なにかあれば呼んでくれ」
「ええ」

 案内を終えリビングに戻ると、真冬が泊めてくれるお礼として夕食を作ってくれるとのこと。そういう認識はあったんだな。お言葉に甘えて任せることに。

「どうぞ、召し上がれ」
「ほほう」

 カレーのいい匂いが空腹を刺激する。家に残っていた豚肉、玉ねぎ、じゃがいも、人参を使って手早く用意してくれたよう。

「頂きます」

 失敗する要素はないから安心して食べる。うん、美味しい。手際もいいし、家でも料理していたのだろうな多分。
 美味しく頂いたあとは、真冬が先に風呂へ。

「真冬、着替え籠の中に置いておくから」
「ありがとう」
「僕のジャージしかないが」
「それは気にしないから平気よ」
「そうか」

 真冬、自分の服をささっと洗濯機に入れて回しながら風呂へか。家事も慣れた感じだな。なんだろう、しっかりと家事を熟すイメージがある。洗濯物を溜めたり食事を疎かにしたりする僕とは大違いだ。

 真冬が上がり、僕も入る。

「さて、どうしたもんか」

 シャワーから出されるお湯を頭からかぶりながら考える。

 どのルートを通って、真冬に理解させるかを。死にたくない、生きていたいと思わせるためには少々、危険な道を選ぶ必要がある。

「…………」

 ふと、顔を上げ鏡に映る自分を見る。

 傷まみれの全身、細身で凹凸がなく鍛えてはいるが筋肉のつきようはあまりよくない腹部や腕や脚、そして腰の付け根に赤い痣。

「こんな身体、真冬にも誰にも見せられないな……」

 水音で掻き消される言葉。
 案内役も楽な仕事じゃない。屍人に噛まれたり、爪で引っ掻かれたり、戦闘に巻き込まれて傷を負うことも多々ある。

 屍人に噛まれたら、屍人になるなんてことはない。ただ喰われ死ぬだけ。
 そんなことを思い風呂から出る。
 何もすることがない僕らは早々に寝ることに。
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