案内役という簡単そうに見えるお仕事

ゆーにゃん

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依頼者は死にたがり屋

第4話

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 真冬を連れて喫茶店を出て、必要な物を買いに行く。

 まず向かったのは、保存食を扱う店。そこで、片手でも食べられるスティックタイプをとりあえず三日分。他にもパウチタイプの飲料も。

「確かに、これなら手軽に食べられるわね」

 隣で、真冬がまじまじと見つめながら呟く。

「この店は、保存食を扱う店だからな。数日かけて向かう場合はここを利用するといい」
「そうなのね。覚えておくわ」

 食料を買い揃えると、二軒目は武器屋だ。

 真冬は何も装備をしていない恰好だ。銃は練習しないと的に当たらないし、素人が簡単に扱える代物ではないだろうし。接近戦なんてものは到底無理。

 剣も除外。かといって、武器もなしに行くのはバカ丸出し。そうなってくると、真冬でも扱える武器は……。

「これだな」
「これ?」
「ああ。初心者でも、女性でも簡単に扱えると思う」

 そう言って、真冬に渡したのは鞭タイプの武器。そこまで力を込めずとも的に当たり、鞭の部分には無数の針ついており屍人を倒すことも可能。

 ただし、ある程度の距離が必要、囲まれてしまうと振るう動作に隙きが生まれて逆に身動きが取れなくなる点があるが。そこは僕がフォローを入れればいいだろう。

 三軒目は、乗り物の調達。

「この地下街って、色んな物を売っているのね」
「まあな。ここで生活する人のためだろう」

 自転車まで売っていることに驚く真冬。初めてここへ来た者は、みな同じ反応をする。

「それに、安いわ」
「どれがいいか、自分で選んでくれ」
「私が? ナイじゃなくて?」
「僕が選んでどうする……。真冬が乗るんだから、真冬の好みで選べばいい」
「そうなの。分かったわ」

 店内に飾られている自転車たち。そこから自分好みの、乗り心地、運転のしやすさ、色、形を探す真冬。

「ナイ、これにするわ」
「じゃあ、会計だな」

 自転車も購入し準備は整った。食料を入れるリュックも購入し、その中に入れ揃えた頃にはもう夕方になっていた。

「真冬。荷物は僕が預かるから、今日はもう帰った方がいい。出発は明日にしよう」

 手を差し出し、提案する僕の言葉に何故か不機嫌になる。

「嫌よ」
「は?」
「家には帰らないわ」
「……そうか。じゃあ、ホテルを紹介――」
「それも断るわ」
「……はい?」

 何を言って……。家に帰らない、というのはまあ分かる。が、ホテルも嫌って子供じゃないんだから我儘を言うなよ……。

 真冬の言葉に呆れる僕。

「じゃあ、真冬は今晩、どう過ごす気だ?」
「…………」

 じっと、僕を見つめる真冬。

 嫌な予感しかしないんだが……。

「ナイって、家はもちろんあるのよね?」
「そうだな」
「それじゃあ、ナイの家に泊まらせて」

 ……やはり、そうきたか。
 僕を見るから、そうじゃないかと思ったが。

「あのな、真冬。年頃の娘が、今日知り合ったばかりの奴の家に転がり込んでどうする……」
「ナイ、その年頃の娘を一人放置して自分は家に帰るのね。私が、見知らぬ男に何をされても知らないフリをして、気に留めることもせず、何食わぬ顔で案内をする。とんだ酷い案内役もいたものね」
「…………っ!」

 こ、こいつっ! 微笑を浮かべながら散々な言いようだな! まるで脅しじゃないか!

「早く、家に案内しなさい」

 挙げ句、命令ときたか! くそう! 真冬の言う通り、ここで一人置いていけば間違いなく男共の餌食になるだろう。

 それに……。真冬を一人にする、なんてこと僕ができるわけがない……。

「はあー……。分かったよ、案内すればいいんだろう。こっちだ」

 真冬の思惑通り、ってことか……。ホテル代もタダ、僕が何かをするという考えもないんだろうな……。
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