案内役という簡単そうに見えるお仕事

ゆーにゃん

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プロローグ

幼き日の記憶

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 これは、二人の少女が親友になるまでの小学生の頃の記憶。

 一年生の時、席が隣同士になったことを切っ掛けに話すようになった二人。

 平均より背が低く長い黒髪の少女、景かげと言う。そして、もう一人の少女は真冬。平均より身長が高く、青みがかった黒髪。

「真冬ちゃん、いっしょに帰ろう」

 話すようになってから、一緒に登下校をするようになりいつしか毎日、遊ぶようになった。

「うん。今日はどこで遊びたい?」
「遊具がいっぱいある公園!」
「いいよ」

 ランドセルを背負い、手を繋いで帰る。荷物を置いてから待ち合わせ、遊びに出かけるのが二人の決まった行動。
 友達。そう表すのが普通だった。

 年を重ね、五年連続で同じクラスになり二人の仲は一層に深まる。登下校は一緒が当たり前、遊ぶ時も二人だけ。誰かと遊ぶということはしなかった。

 かげは、活発で元気いっぱいな子。遊具やかけっこが好き。逆に真冬は、おとなしく静かな子。景が行きたい場所、遊びたいことに付き合う形。本人はそれで満足している。

 誰かが加わると、景の遊びについて行けない。遊具で遊んでいたと思えば、急にかけっこに変わり、そうかと思えば、土遊びにころころと変わる。何か一つに絞れず、やりたいように、気が赴くままに遊ぶため同級生は嫌がった。

「景、お団子はもういいの?」
「うん。次はこれで遊ぶ!」

 手は土で汚れていても気にせず、ブランコに走って遊ぶ。そのあとを真冬が追う。
 同級生は、真冬にいつも同じことを聞いてくる。

「振り回せされて嫌じゃないの?」

 と。真冬は決まって答える。

「ううん。景といると退屈しないから」

 ――それに、景と一緒にいられるのは私だけだもん。

 そんなことを思う。誰も景のそばにいなくていい。自分だけがいればそれで。
 景も真冬がいれば、友達も別に欲しくない。そんな考えをする。

 そうして、季節が巡り冬は外ではなく真冬の家で遊ぶことが多い。

 真冬の母親は漫画家で、家には漫画が多くあった。その中に、母親が描く漫画は百合漫画。いわゆる同性愛を描く作品。それに触れていた真冬の中に、芽生える感情があった。

 景に対して、恋愛感情を向けているということだ。
 気持ち悪いと思われたくなくて、真冬は景にも百合漫画を貸してそういう恋愛もあるのだと教える。

「この漫画、面白いね! 真冬ちゃん」
「そう? 続きがあるから読む?」
「うん!」

 教えてもらった漫画に描かれる恋愛が普通のことだと思い込む景。真冬の思惑通りとは知らず。純粋な景なら、信じて疑うことはない、と分かっていて真冬は景に教えていく。離したくなくて、奪われたくなくて。

 小学生がそんなことを思うのは、きっと家にある様々な本が原因だろう。泥沼で三角関係の作品、復讐作品、ファンタジー作品、ホラー作品、純愛からかけ離れた作品と。

 最初は小さな歪み、だがそれは徐々に大きくなりもう元通りはならなくなるほどに侵食する。

 六年生に進級し小学生最後の夏休み。景と真冬は約束を交わす。

「ねえ、景。指切りしよう」
「なんの?」
「それはね、これからもずっと一緒にいようね。っていう約束」
「真冬ちゃん。うん! ずっと、一緒だよ! 景ね、中学に上がっても真冬ちゃんといたい!」
「じゃあ、指切りげんまん」
「嘘ついたら針千本のーます」

 小指を絡め約束を交わす。

「「指きった」」

 真冬は、これから先も変わらず一緒にいられることを信じて疑わなかった。

 しかし、二学期が始まる直前に景と連絡が取れなくなる。

 そして、新学期に先生から景が転校したと伝えられる。その日に家へ向かい何度もインターホンを鳴らすが誰も出てこない。

 真冬の存在に気づいた近所の人が教えてくれた。
 景とその親は急に引っ越したと。ただ、噂では夜逃げじゃないか、そう話す。

 何も分からず、理由も知ることなく真冬はただ一人、残りの小学校を過ごしその延長から中学校を卒業し高校へと進学するのだった。
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