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第二部 第七章 終わりの始まり
悪神の子たる三男(2)
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神山町をから離れると決めてから、その日を迎え自宅を出て警戒は怠らず地下鉄を使って隣町へ移動。
向かった先は、奏と遥が俺に初めて出会ったあの地下鉄だ。
「ここ、夏目お兄さんと会った地下鉄だよね? この先って進めるの?」
「でも、この先には機械人形の残骸が積み上げられてたはずじゃ?」
奏と遥の質問に答える。
「機械人形の残骸には理由がある。それに、この先へ進むことも可能だ」
「そうなの?」
「ああ」
「その理由って? お兄さん」
「まだ神山町の形が残っていた頃の話だ」
無造作に積み上げられていたのには理由がある。機械人形の残骸だとしても、そんなものを積み上げられたこの場所に住み着くことなど誰も思わないだろ。
まだこの町に住民がいた頃、地下鉄を占拠している者たちがいた。神谷町を牛じていた雪平家も秋山家、東雲家は崩壊しそうなると誰も統率できる者がいなくなる。
無法地帯に近い状態にまで陥り、独裁しよと企てる者までもが現れその上、機械人形に攻め入られ神山町は無くなったも同然。
そこで、俺たちは生き残った僅かな住民を別の町へ行かせるために、まだ使える地下鉄に機械人形の残骸を運び無造作に積み上げここへ残らないようにした。
「この方法を考えたのは俺だ。邪魔な住民を、纏めて排除できるいい機会だと思ったからな。利用したというわけだ」
そんな会話をしながら、地下鉄のホームを下り線路を歩く。電気は通っておらず、俺の左手から蒼炎が燃え明かり代わりにして進む。
ヨルムンガンドと合体した俺、フェンリルを先頭に二列となって先へ。
フェンリルの背に、美哉とヘルが座っている。これも俺の指示だ。ヘルには、美哉の身辺警護を任せてある。
その後ろに奏と遥、神前先輩と立花先輩、東雲兄妹、燐と紅、最後尾はアザゼルと四音の順。
足音だけが響く線路に「そう言えば」と紅が切り出し仲間に伝える。
「悪神には、どうやら子がいるみたいだね」
「あれに子がいるだと?」
その言葉にアザゼルが訝しげに訊き、隣を歩く四音も同じ顔だ。
紅は頷き答える。
「自ら創り出したみたいだね。三体の機械仕掛けの子。オレもまだ姿を見たことはないけど、黒曜の機体に銀河を連想させる眼球は親譲りらしい。ただ違うのは腕の数かな、人間と同じ二本しかないこと。それ以外は、いくら調査しても情報は得られなかった」
まさか、あの悪神がこのような手に出るとはな。機械仕掛けの割には、人間のような手段を用いるのか。
「ということは、その子と戦闘になるかもしれないってことよね。海堂さん?」
奏の問いに紅は笑って「そうだね」と返す。
「それはそれで面倒だよ……」
と、こぼす遥。
確かに面倒だな。その、子とやらどれほどの力を有し厄介なのか出くわしてもいない現状では何とも言えない。
そんなことを思っていると、俺は何かを感じ立ち止まった。
「夏目?」
と美哉が訊くが、俺は人差し指を立て「しーっ」と声を出すなと意思表示した。
静かにという行動にメンバーは戦闘態勢へ。俺の五感が、以前とは比べ物にならいほどの性能を発揮する。一キロ先の音や臭いさえも察知してみせる。そして、俺が静かにしろと行動で示したということは、敵が現れたという意味を仲間は知っている。
「フェンリル」
小声で会話をする。
「主、どこにいる?」
「この先だな。この気配は……人間じゃない。機械人形とも異なる気配だ」
「ということは、悪神の子というやつか?」
「だろうな。ふんっ。一体だけで俺たちを殺りにきたのか? それはそれで、舐められたものだな。ヘルは美哉を護れ」
「了解です。主様」
俺の命令に従うヘル。
「フェンリル、先制攻撃を仕掛けるぞ」
「よかろう。いつでも構わぬ」
背後を振り返り仲間に目で伝える。先制攻撃のあとは、いつも通りに叩きのめせと。
仲間は一斉に頷き、前を向いた俺とフェンリルが同時に動く。足を踏み込み、線路を蹴り駆ける。
突風の如く突貫していく俺は、右手から猛毒の煙の塊を放ち、フェンリルはそれに息を吹きかける。猛毒の煙は霧散することなく、奔流となり見えない前方へと流れ込む。
「何も聞こえないか」
「そのようだが、何かいるのは我輩も分かる」
音が聞こえず、静かだったがすぐに振動が地下鉄に広がった。そして煙の中から、何かが飛来してくるのを肉眼で捉える!
「……っ!」
腰から生やした尻尾を横殴りに、それを壁に叩きつける。手応えはあった!
そこへ燐と神前先輩がすぐさま追撃へ、左右から神器を振り刀身を叩き込む。
キンッ! と金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き渡った。
敵も武器を持ち、二人の攻撃を防いだか。土煙は、衝撃で消え去りそれが姿を現す。
「ほう……。紅の言っていた通りの黒曜の機体だな」
俺は、見た感想をこぼす。そいつは、両腕で刀身を防ぎ二人を腕力だけで薙ぎ払う。
燐と神前先輩は空中で体勢を整え難なく着地し、目の前のそいつを視線に捉えながら神器を構える。
「さっそく機械仕掛けの子のお出ましか」
そう呟き、睨みつけながらも俺は口角を上げ笑った。
向かった先は、奏と遥が俺に初めて出会ったあの地下鉄だ。
「ここ、夏目お兄さんと会った地下鉄だよね? この先って進めるの?」
「でも、この先には機械人形の残骸が積み上げられてたはずじゃ?」
奏と遥の質問に答える。
「機械人形の残骸には理由がある。それに、この先へ進むことも可能だ」
「そうなの?」
「ああ」
「その理由って? お兄さん」
「まだ神山町の形が残っていた頃の話だ」
無造作に積み上げられていたのには理由がある。機械人形の残骸だとしても、そんなものを積み上げられたこの場所に住み着くことなど誰も思わないだろ。
まだこの町に住民がいた頃、地下鉄を占拠している者たちがいた。神谷町を牛じていた雪平家も秋山家、東雲家は崩壊しそうなると誰も統率できる者がいなくなる。
無法地帯に近い状態にまで陥り、独裁しよと企てる者までもが現れその上、機械人形に攻め入られ神山町は無くなったも同然。
そこで、俺たちは生き残った僅かな住民を別の町へ行かせるために、まだ使える地下鉄に機械人形の残骸を運び無造作に積み上げここへ残らないようにした。
「この方法を考えたのは俺だ。邪魔な住民を、纏めて排除できるいい機会だと思ったからな。利用したというわけだ」
そんな会話をしながら、地下鉄のホームを下り線路を歩く。電気は通っておらず、俺の左手から蒼炎が燃え明かり代わりにして進む。
ヨルムンガンドと合体した俺、フェンリルを先頭に二列となって先へ。
フェンリルの背に、美哉とヘルが座っている。これも俺の指示だ。ヘルには、美哉の身辺警護を任せてある。
その後ろに奏と遥、神前先輩と立花先輩、東雲兄妹、燐と紅、最後尾はアザゼルと四音の順。
足音だけが響く線路に「そう言えば」と紅が切り出し仲間に伝える。
「悪神には、どうやら子がいるみたいだね」
「あれに子がいるだと?」
その言葉にアザゼルが訝しげに訊き、隣を歩く四音も同じ顔だ。
紅は頷き答える。
「自ら創り出したみたいだね。三体の機械仕掛けの子。オレもまだ姿を見たことはないけど、黒曜の機体に銀河を連想させる眼球は親譲りらしい。ただ違うのは腕の数かな、人間と同じ二本しかないこと。それ以外は、いくら調査しても情報は得られなかった」
まさか、あの悪神がこのような手に出るとはな。機械仕掛けの割には、人間のような手段を用いるのか。
「ということは、その子と戦闘になるかもしれないってことよね。海堂さん?」
奏の問いに紅は笑って「そうだね」と返す。
「それはそれで面倒だよ……」
と、こぼす遥。
確かに面倒だな。その、子とやらどれほどの力を有し厄介なのか出くわしてもいない現状では何とも言えない。
そんなことを思っていると、俺は何かを感じ立ち止まった。
「夏目?」
と美哉が訊くが、俺は人差し指を立て「しーっ」と声を出すなと意思表示した。
静かにという行動にメンバーは戦闘態勢へ。俺の五感が、以前とは比べ物にならいほどの性能を発揮する。一キロ先の音や臭いさえも察知してみせる。そして、俺が静かにしろと行動で示したということは、敵が現れたという意味を仲間は知っている。
「フェンリル」
小声で会話をする。
「主、どこにいる?」
「この先だな。この気配は……人間じゃない。機械人形とも異なる気配だ」
「ということは、悪神の子というやつか?」
「だろうな。ふんっ。一体だけで俺たちを殺りにきたのか? それはそれで、舐められたものだな。ヘルは美哉を護れ」
「了解です。主様」
俺の命令に従うヘル。
「フェンリル、先制攻撃を仕掛けるぞ」
「よかろう。いつでも構わぬ」
背後を振り返り仲間に目で伝える。先制攻撃のあとは、いつも通りに叩きのめせと。
仲間は一斉に頷き、前を向いた俺とフェンリルが同時に動く。足を踏み込み、線路を蹴り駆ける。
突風の如く突貫していく俺は、右手から猛毒の煙の塊を放ち、フェンリルはそれに息を吹きかける。猛毒の煙は霧散することなく、奔流となり見えない前方へと流れ込む。
「何も聞こえないか」
「そのようだが、何かいるのは我輩も分かる」
音が聞こえず、静かだったがすぐに振動が地下鉄に広がった。そして煙の中から、何かが飛来してくるのを肉眼で捉える!
「……っ!」
腰から生やした尻尾を横殴りに、それを壁に叩きつける。手応えはあった!
そこへ燐と神前先輩がすぐさま追撃へ、左右から神器を振り刀身を叩き込む。
キンッ! と金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き渡った。
敵も武器を持ち、二人の攻撃を防いだか。土煙は、衝撃で消え去りそれが姿を現す。
「ほう……。紅の言っていた通りの黒曜の機体だな」
俺は、見た感想をこぼす。そいつは、両腕で刀身を防ぎ二人を腕力だけで薙ぎ払う。
燐と神前先輩は空中で体勢を整え難なく着地し、目の前のそいつを視線に捉えながら神器を構える。
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そう呟き、睨みつけながらも俺は口角を上げ笑った。
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