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第二部 第七章 終わりの始まり

最愛の人との再開(5)

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 翌日の朝、ベッドの上で目を覚ました俺の心は幸福に満ち足りていた。胸にずっと穴が空き、何をしても満たられることはなく、それどころか穴は広がり痛みを伴うほどだった。

 それが、今は完全に塞がり痛みを感じることはない。

 寝息を立て眠る美哉。腕の中にいる、触れられる、声を聞ける、温もりを感じられる。それだけで、心を埋めてくれる。

 これほどまでに、幸福に満たされたのは初めてだな。などと思っていると、美哉が目を覚まし顔を上げた。



「んっ……。夏目……」

「おはよう」



 目が合い、挨拶と共に額へ軽くキスを落とす。嬉しいようで、微笑み腕を回し抱きつく美哉。

 しばらくして、昨夜のことを思い出し俺へ「いじわるです」とこぼした。

 その理由は、分かり切っている。宣言通り、最初だけは優しくしたつもりだ。しかし、その後は俺自身が欲求を抑え切れずそれはもう激しく求め、美哉にダメだと言われても聞かない。弱いところを探り、そこばかりを攻め立てた。



「何度も果て、止まらない行為に意識が飛びかけたことか……」



 そうこぼす美哉に対して、俺は腰を抱き寄せ髪を撫でながら訊く。



「でも、気持ち良かっただろ?」



 肩を一度だけビクつかせ、少し間を開け頷くしかできない美哉だったが、すぐ顔を上げて恥ずかしそうに頬を赤らめて怒る。



「そ、それでも! もう少しくらい、手加減をしてください……! 夏目が激しくするから、その……最後の方は、記憶が曖昧なんですよ?」

「そうか。じゃあ、次は記憶に残るほど、強烈に刻んでおかないとな。忘れられないよう、その体と心に」



 ニヤリと笑う俺に美哉は顔を真っ赤にして、



「そういうことではなくて!」



 と胸元をポカポカと叩き怒るが、その様は愛らしくもっと乱れさせ喘がせたくなる俺の欲求。その衝動に突き動かされ行動に出る。

 美哉の頬に触れ、顔を上へ向かせるとそのまま唇を奪う。



「んんっ!?」



 一瞬だけ驚く美哉だったが、すぐに反応を返す。俺は舌をねじ込み口の中で動きそれは美哉の舌を探し、見つけると舌先から絡めてから全体へと。



「う、んっ……」



 その動きに美哉も、俺の舌に絡めより強く唇を押しつける。

 耳の奥で、くちゅくちゅ、ちゅっ、ちゅるっ、と淫靡な音が響く。心地よく、止められそうにない行為。

 互いの唾液を混ぜ合わせ、舌を吸い、唇をついばむ。

 ようやく口を離すと、唾液の糸が伸び音もなく切れた。



「はあ、はあ……。美哉……」

「んっ、ぁはっ、な、夏目……」



 息が荒く、熱が全身へと駆け巡りまた求めそうになる俺たち、そこへ部屋の外からフェンリルの声がする。



「二人共よ、そろそろ起きてきてはどうだ? さすがに、このままでは他の者が来てしまうぞ?」

「「………………」」



 と注意を受ける。確かに、あの頃と同じ失態は繰り返したくはないな。俺も美哉も、裸でどう見ても事後だ。

 やれやれ、こればかしは仕方がないか……。

 美哉から離れ、起き上がるとフェンリルに伝える。



「分かった、十分後に出るから少し待て。名残惜しいが、この続きはまたの機会に取っておくか」



 美哉の手を握り、上体を起こしそう告げながらまた唇に軽くキスをしてから手を放す。

 俺のキスを受け「そうですね」と嬉しそうに答える美哉も着替えを済ませ、廊下で待っていてくれる相棒たちと共に一階へ。

 リビングには、アザゼルとルシファー、紅以外のメンバーが揃っていた。



「奏、遥。彼女が、美哉だ」

「初めまして、雪平美哉と言います。お二人の話は、夏目から聞いていますよ。あ、敬語はなくていいので。よろしくお願いしますね」

「双葉奏よ! 夏目お兄さんの恋人だから、美哉お姉さんね! わたしの方こそ、よろしく!」

「ぼくは、二条遥。よろしく、お姉さん」



 それぞれ、自己紹介を済ませ今後について話し合う。



「やはり、三人が戻ってきてから行動を起こすのは前提として……いつまでもここにはいられない。そのための準備を済ませる必要があるわ」

「どこか別の拠点を見つけ、そちらに移った方がいいだろう。ここは、機械人形の攻め入る回数が多い。それに物資も底を尽きそうだ」



 そう話すのは真冬と燐だ。そして、燐の意見に誰も反対はしない。

 燐の言うように、美哉も目覚めたことだ。ここに留まっても、状況は変わらないだろうし機械人形がそろそろ煩わしくなってきた。

 真冬は、奏と遥を見つめながら言う。



「二人が別の街から来てくれたことで、外の状況も大まかには把握できたわ。とりあえずは、隣町へ行くのはどう?」



 それに奏と遥が反応した。



「隣町は、地下施設がまだ生きてたから避難した人がまだいるし、食料とかもまだあると思うの」

「うん。でも、お兄さんたちのことがバレるとちょっと危ないかも」

「そこなのよね……。神山町から来たって知られると、それだけで遠ざけられるみたいなの」



 その理由を、俺たちはそれなりに理解している。

 神山町……ここから始まったようなものなのだ。それに、神殺しの力や神獣、巫女の力も露見すれば、間違いなく人々からは機械人形の仲間と見られるだろうな。

 ふんっ。あの悪神の人形の仲間と見られるのは不愉快だが無駄な争いは避けたい。



「そこは、上手いこと隠して行動するしかないね」

「そうですね。神山町のことを話さなければバレないでしょうし」



 東雲先輩の言葉に、美哉も続き大まかな行動が決まる。

 あとは、三人が戻ってきてから段取りを細かく決めていくことに。

 話し合いが終われば、美哉が目覚めたこともあり和気あいあいとした空気が包む。

 美哉も、仲間に会いたいと言っていたし、燐や桜たちも話したいことが多いのだろう。話に花を咲かせ楽しむ様子を見守る。

 こうして、仲間が集まり和む光景は懐かしい。それに、新たな頼もしい二人も加わり戦力増強に繋がった。



『主よ』

『どうした、フェンリル?』



 念話で話す。



『ようやく、時が熟した。と、見てよいか?』

『ああ、そうだな。本当に、ようやくだ』



 俺とフェンリルの会話に加わる弟と妹。



『じゃあ、じゃあ、動き出すってこと!?』

『今度こそ、息の根を止める時です! 何倍にもして返すです!』



 ヨルムンガンドは待ってましたといわんばかりの興奮気味に訊き、ヘルはずっと抑え込んでいた怒りの炎を燃え上がらせる。



『フッ。そろそろ、本格的に動き出す時だ。相棒たちも今度こそ、あのクソで殺したくて堪らない機械風情の神をこの手で殺るぞ』

『むろんだ! これ以上、あやつの好きにはさせん!』

『もちろん! ボクたちにとって大事な人を傷つけたんだ! 絶対に許さないもん!』

『はいです! この怒りも殺意も全部、ぶつけて必ずぶっ殺すです!』



 相棒たちは瞳の奥に闘志を宿し、俺は負の感情によって燃え上がる禍々しい炎を滾らせ笑う。
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