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第二部 第七章 終わりの始まり

神殺しに会う(3)

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 佐々木さんの案内のもと、崩壊した街の流れる景色を眺める。会話なく(わたし的には遥と話したい)、ゴトゴトと凸凹道を走るため揺れる車内とエンジン音だけ。

 そんな中、唐突に遥が一言だけ発する。



「見つかった」

「ええ!?」



 その言葉に、わたしは背後を振り返り目を凝らしめる。佐々木さんは、意味が分からず「何?」と聞き返す。

 視界に捉えた一体の機械人形。飛行タイプじゃない! また面倒な!



「佐々木さんは、そのまま前を向いて運転に集中! 遥、準備して!」

「了解」



 わたしたちはシートベルトを外し、佐々木さんは振り返らず「分かったわ!」と。

 後部座席の真ん中に移動し、膝を開いて座り直して遥が足の間に入る。



「奏、支えてて」

「オッケー!」



 遥が下半身を預けてくる。手には水鉄砲が握られ、バックミラーからそれを見た佐々木さんは、機械人形が迫り来るのに気づく。



「ちょっと、そんな玩具であれは倒せないわ! というかどうして水鉄砲なの!」

「いいから黙って運転して!」



 そう、わたしが言えば押し黙る佐々木さん。今は説明している暇はないの!

 遥が持つ水鉄砲ことエアマガジンは加圧式、実銃がモチーフなためか黒色で重圧感がある。飛距離は、およそ七メートルと撃てる回数は百を越えるらしい。詳しくは知らない。

 引き金を引きっぱなしでも撃てることで性能も優秀、って遥が説明してたけどわたしにはさっぱり何のことやら。

 で、これは遥が独自に改造した水鉄砲。

 わたしは、背後に目をやりつつ腰を支えるというか抱きつく恰好に。横顔に遥の下腹が当たる。腰回りは細いし、無駄な脂肪がなく抱き心地が良いの! ていうか、最高ね!



「……まだ」



 遥は、わたしの下心など気にせず水鉄砲を構え飛行する人形が射程圏内に入るのを待つ。数秒後に、機械の翼を背中に装着した機械人形が圏内に入った。



「…………」



 遥は、無言で引き金を引く。撃ち出されたのは、水ではない黒炎が弾丸の形となり機械の肩を貫通した。



「……一発じゃ、ダメかな」



 よろめくが墜ちることはなく手を伸ばす。向こうも手の平からビームを放つようね。

 ギュィンッ、と音がエンジン音に紛れ聞こえてくると光を集め放たれるビームに、遥はもう一発の黒炎の弾丸を撃つ。

 弾丸は、ビームの威力に負けることはなく黒炎が飲み込み消失させる。その上で二発、三発と遥は脚と腕を狙い撃つと狙い通りに貫通し、片脚と片腕を失う機械人形の額に黒炎の弾丸が飛来。



「これで終わり」



 一言、遥がそう言えば頭に風穴を開け今度こそ墜落し地面に何度も機体を転がし、残っていた脚と腕が折れて機械の翼も粉々に壊れ機能停止。

 佐々木さんが運転する車は、そのまま破壊した人形を置き去りに走っていく。



「さすが遥! 百発百中ね!」

「ぼくの力、そんな簡単に外さないよ。外したりしたら、大事な奏に怪我させるかもだし。そんなの嫌だから」

「遥! 好き! 大好き!」

「はいはい。知ってる」



 遥の腰に抱きつき、頬ずりするわたしの頭を撫でてくれる。どんな時でも、わたしのことを考えて思ってくれる。わたしも考えるし、思うけどね!

 それに、困ってる時は必ず助けに来てくれるし、悩んでる時にはすぐ気づいて相談に乗ってくれる。親よりも、わたしのことを理解してくれるのは遥。その逆も同じ。

 わたしと遥は〝二人で一つの存在〟だから。

 いつまでも、遥の腰に抱きつき頬ずりするわたしの視界に運転中の佐々木さんの顔が映る。

 背後で起きた出来事に、佐々木さんは説明を求める顔するがわたしは「何も聞かないで」の一言。

 遥も、何事もなかったかのように水鉄砲を仕舞う。リュックに入れたのではなく、アクセサリーサイズにして首に掛け胸元で小さくなった改造水鉄砲が揺れていた。

 佐々木さんは、結局のところ何も聞かず目的地に到着。



「これはいったいなに……?」

「これはまたすごいことになってる」



 わたしと遥の目の前に映る光景。何台ものバスや大型車両が道を塞ぎ行く手を阻む。けれど、大人一人が入っていける隙間が一箇所だけあり、その道を使えば神山町に入れるみたい。



「この先が神山町よ。二人共、気をつけて」

「ありがとう」

「ここまで送ってくれて」

「いいの。それじゃあ、私はこれで」



 佐々木さんに礼を言い見送ると、わたしたちは隙間に一人ずつ入り進む。

 そうして隙間を通り抜け、前方に広がる街を眺めた。



「これが……」

「神山町」



 各地を周って来たけど、話に聞いた通りここはどこの街よりも酷い有様。高層ビルは崩れ瓦礫の山を築き、高層マンションも横に倒れ原型がない。山々も大きく抉られ、山頂がないのを肉眼で捉えることができた。

 そうでないマンションも半分が崩落し傾いているし、よく倒壊しないわねと思うほど。民家も残っているものを探す方が難しく、学校もなくデパートなどの商業施設も皆無。

 世界の終焉を見ているかのような光景。

 木々も、動物の気配さえなく、心なしな空が暗雲に見える。風も冷たく感じるけど、でもわたしたちは自ら望みここへ来たの。



「奏、大丈夫。ぼくがいるよ」

「遥……。うん、そうだよね!」

「そうだよ。だから、行こう」

「うん!」



 遥の言葉に、怯えそうになった心を奮い立たせ前を向く。

 そうよ、わたしには遥がいるの。ずっと一緒にいるって、何回も何十回も約束したんだから!

 世界の終焉を見たからって、怯えてどうするの! しっかりしない、双葉奏!

 ここからが、本当の意味でわたしたちの命運が懸かっているのよ! 悪神に、反逆するって二人で決めてこの半年を切り抜けてきたの!



 遥と顔を見合わせ、頷き合いお互いの手を放さないよう強く握りしめ一歩踏み出す。
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