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第二部 第七章 終わりの始まり

プロローグ

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〈※夏目目線で始まります〉




 ――何がダメだった……?



 ――どこで間違えた……?



 ――どうして、こんなことになった……?



 ――俺は……。

 ――俺は、護れなかったのか……? 一番、大切な人を、最愛の人を……。



 ――どうすればいい……? 何を差し出せば、取り戻せる……?



 ――俺の……。

 ――俺だけの……。たった一人の、俺にとって命よりも大事で失いたくない全て。



 ――俺の美哉……。取り戻す。何をしてでも、必ず。手段なんて選ぶ余裕はない。



 俺だけの美哉を必ず、取り戻してみせる。邪魔をする奴は許さない。俺の邪魔をするのなら、誰であろうと殺す。否定する奴も、止めようとする奴も殺す。



 美哉、待っていろ。俺が、必ず助けてみせるからな。

 目覚めたら、今度こそずっと一緒にいよう。お前を傷つける者は、俺が一人残らず殺してやるから。もう誰にも、指一本すら触れさせない。

 俺が護るから。俺の命、お前にあげるから、死ぬまで俺とずっと一緒だ。

 愛してる、俺の美哉――――。





        ◇◇◇◇◇






 ――目が覚め、上体を起こせば自室のベッドの上。そばには、俺の相棒たちが控えていた。



「………………」



 あの戦い……世界の崩壊からまだ二日しか経っていない。

 そうだとしても秩序もモラルも何もかも壊滅、俺の家が無事だったのはアザゼルが結界を予め張っておいてくれた結果だろう。



「はぁー……」



 重いため息を吐く。あの日から俺の日常は壊れた。

 美哉がそばにいない、俺の美哉がいない。

 あの戦いのあと俺は、美哉を抱きかかえ家まで帰ってきた。誰にも触れさせたくなかった。



 何より取り戻すための準備が必要だったからだ。

 二日で俺たちは用意し、今日はその儀式当日。

 視線を上げ相棒たちを見る。



「主よ、すでに準備は整っている」

「いこう、夏目」

「主様」



 相棒たちも頷き返し、立ち上がりある部屋へ向かう。

 ベッドの上に眠っているのは、俺の最愛の美哉だ。白い肌、冷たくなかった体、腐敗しないようヘルに頼んである。

 美哉に触れながら言う。



「始めようか」



 と。相棒たちは、三角形を陣取るように端に移動し、床には赤い液体で描いた幾重にも重なる円状の陣、相棒たちが言葉を紡ぎ陣は赤みを帯び輝き、文字の羅列も浮かび上がり俺と美哉の周り囲む。



 文字は矢の形を作り俺の心臓に突き刺さる。痛みは感じない、ただ何かが抜けていくのを感じるだけ。

 矢の形は次第に管へと形を変え、今度は美哉の心臓へ伸びる。

 管は、音もなく突き刺さり俺から美哉へ流していく。



「これでいい。これで俺たちは、ずっと一緒にいられる」



 ヘルが美哉の体に施した術が起動。ヘルは、北欧神話で唯一死者を生者に戻すことができる。その力を使って美哉を蘇らせる。



 ただし、事は簡単ではない。死んでから三日以内に行われなければならず、美哉の体を生きていた頃と同じ状態で保ち、命を分け与える贄となる人間が必要だ。

 儀式には、ヘルはむろんのこと神の力を宿す者の協力が必要不可欠。そして一度でも、邪魔をされれば二度と蘇らせることができなくなる。最後に、儀式に参加する者以外に見られてはならない。



 この全てをクリアした時、死者は蘇る。

 だから、今この家には俺たち以外はいない。

 美哉に俺の命を分け与える。俺は、三兄妹が分け与えることで生き長らえるという方法。



 亡くしたあの日に俺たちで決めたことだ。

 仲間からは止められもした。不可能だとも言われ、それでも俺たちはこれ以外の選択などない。

 誰にも、文句、も邪魔もさせない。



 儀式は順調に進み、そして無事に成功した。



「美哉……」



 美哉の体が、胸元がゆっくりと上下に動き呼吸を繰り返し静かに寝息を立てる。



「……っ! ああ、美哉……!」

「主、成功だ!」

「良かった! 美哉が帰ってきた!」

「美哉様……!」



 その瞬間、俺も相棒たちもそばに寄り嬉しくなって涙を流す。

 いつ目覚めるかは分からない。だとしても、美哉が生き返った。それだけで俺たちは嬉しいのだから――――。
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