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第六章 機械仕掛けの神

神山学園壊滅02(6)

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 血溜まりに沈み込む中、夏目の視界に映る一番大切な人の姿が、同じように鮮血を流し倒れ込む。



「……み、みやっ……」



 掠れた声で呼ぶ彼女の名を。



「主!」



 相棒たちが駆け寄り神通力を流す。赤く染まった視界は徐々にクリアへ、そして全身に力を込め美哉の元へ。



「……っ!」



 抱きかかえ、泣きそうな声で何度も呼ぶ。



「美哉……! 美哉……!」

「美哉ちゃん……!」



 陽菜が、美哉の元へ駆けすぐに治療を施す。

 その様を嘲笑い、眺める機械仕掛けの神の姿。



「ははははははははっ!」



 悪神の、老若男女の声が、今は腹の底から仲間にとって耳障りで仕方がなかった。

 何故、悪神が夏目の影から現れたのか、誰も予想していなかった反撃に仲間たちの中で怒りが溢れ、殺意が募っていく。



「念のためにと、樹海に貴様たちが訪れた時に仕込んでおいたのだ! そう、そこの餓鬼と貴様の影にな! 己の半身を忍ばせ、失った際に顕現できるようにと!」



 夏目と紅の二人を指す。

 夏目または紅の影に、己の半身を忍ばせ破壊された際に影から顕現できるように備えていた。故に、二人だけは視線と言葉にできない何かを感じていたのだ。

 誰もの予想外の出来事に冷静さを失う。

 真冬と燐は、怒りを顕にして考えなしに突っ込む。



「貴様っ!」

「よくも、先輩を!」



 結果、悪神の武器を持つ腕に阻まれ軽くあしらうだけで二人共に吹き飛ばされる。



「よくも、二人を傷つけてくれたなっ!」



 紅も怒りを抑え切れず、獣の如く悪神に牙を向き襲い掛かるが、警戒されているからこそ一節を読み上げ、紅の脚を石化し蹴り上げられ後方の校舎の壁に叩きつけ引き離された。



「俺のことはいいから、美哉を!」



 夏目は、自分はいいから美哉の傷を治してくれと、相棒たちに懇願しフェンリルもヨルムンガンド、ヘルは完治していなくとも主の悲痛な願いに応え美哉へ神通力を送る。

 しかし、その傷は一向に癒える兆しがない。

 陽菜の治癒も効果がなく、血に濡れた手を傷口に当て必死に癒やす。彼女も、泣きそうになりながら声を荒らげた。



「どうして、治らないの!? お願い、傷を、癒やして! じゃないと、み、美哉ちゃんが……! だから、お願い、治って……!」



 神器の力を借りても、美哉が受けた傷が癒えることはない。

 その理由は簡単だった。二人を刺した刀身に呪いをかけられていたのだ。神殺しには通用しないとはいえ、ただの人間であれば治癒の効果も神通力を流す治療も意味をなくす。



 夏目の場合、神殺しでありその上でずっと神通力を流していたことで、肉体は人間離れをし即死でなければ死ぬことはない。

 けれど、美哉は違う。彼女は人間であり、故に悪神の呪いに打ち勝つ肉体がない。その結果、傷は癒えない。

 治療に当たり動けない夏目へ悪神の攻撃が襲う。

 防御はむろんのこと、躱すこともできない夏目たちを護ったのは桜だ。



「さ、させないわよ!」



 結界を張り踏ん張る。神器の強化で結果は頑丈だがいつまで保つか分からない。それでも桜は、仲間を護るために歯を食いしばり耐える。



「……くっ!」

「叩き壊してやろう!」



 剣や槍が結界を叩き割ろうと何度もぶつける。振り上げた腕に業火が炸裂、春人とフェニックスが応戦。



「そのまま結界を張り続けるんだ!」



 春人は桜にそう叫び悪神に攻撃を続けた。



「ま、任せてください!」



 桜も叫び答え視線を夏目たちへ。今も必死に治療に当たる陽菜と、美哉を抱え何度も呼びかける彼。

 傷は塞がらず美哉の顔色が白くなっていく。



「美哉! 目を開けてくれ! お願いだから死なないでくれ!」



 相棒たちも、ありったけの神通力を流し治療を試みるが効果がない。ゆっくりと目蓋が開く美哉の顔に、夏目は一瞬だけ安堵した。が、彼女の言葉にそれは消え失せる。



「……っ! み、美哉……!」

「な、夏目……」



 と弱々しく発し手が夏目の頬に触れ、その手に自分の手を添える。



「ど、どうかこの世界を……護ってください……。そ、れができる、のは夏目……あなただけ……」

「み、美哉……。な、何を言って……」

「な、つめ、愛してます……ずっと、あなただけを――――――」



 そう言葉を残し美哉の瞳が閉じた。

 手がゆっくりと夏目の手から落ち、美哉の体から力が抜けぐったりとし動かない最愛の人。



「み、美哉……? 美哉……。おい、美哉……! 美哉ってば!」



 夏目は、何度も美哉の体をゆすり名を呼ぶ。そう何度も、何度でも。

 しかし美哉は答えない。瞳から一筋の涙を流して。



 ――彼女は息絶えた。



「み、やっ……」



 夏目は言葉にならない嗚咽をもらす。



「ああっ……! ああああっ……!!」



 陽菜は治療をやめ顔を俯かせ肩を震わせながら、ポタポタと雫が握りしめた拳に落ちていく。

 相棒たちも顔を伏せ何も言わない、いや言えない。

 ヨルムンガンドとの合体も解け、弟は兄の毛皮に顔を埋め涙をこぼしていた。ヘルも手で顔を覆い嗚咽がもれる。



「嫌だ……! 美哉! みやっ! みやぁあああああああああああああああああああっ!」



 夏目の悲痛な声がグラウンドにこだました――――。
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