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第五章 真実に近づく者たち
隠された真実(4)
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リーリエを縛り上げフェンリルとヘル、美哉たちとの合流を待つ。そこへ、コツコツと足音が近づき合流できると顔を上げる夏目の視界に映ったのは、群青色の髪とオッドアイの青年、海堂紅の登場に驚く。
「ええっ!? な、なんでここに!?」
「厄介にな敵が来ちゃったよ!」
夏目もヨルムンガンドも、声を上げ戦闘態勢を取ろうとするが八岐大蛇の姿は見えない。そして敵意なども感じられず立ち竦む。
そんな夏目に、紅は爽やかな笑顔で挨拶を交わす。
「やあ、久しぶり」
「え、えっと、久しぶり?」
紅の気の抜ける挨拶に疑問符をつけ返す。先日の一件でもそうだが、夏目の中でどうも彼に対してどう対応すればいいのか分からない。
「警戒はしなくてもいいよ。オレは敵じゃない。その女、リーリエ・マロイツェを始末しに来ただけだから」
「へっ!?」
二度目の驚き、地面に横たわり未だに気絶しているリーリエを見る夏目とヨルムンガンド。紅は、彼女を見下ろしここへ訪れた経緯を話す。
「オレは、アザゼルと話し合って悪神を殺すと決めたんだ」
「……っ!? そ、それってどういうことだ?」
「ふふっ。まさか、オレと八岐大蛇を利用し続けているとは思いもしなかった。いや、オレが愚かだったのだろうね。騙され上手く扱われ、神なんていやしない真実を隠し捻じ曲げ、己の欲求のために利用されて。腸が煮えくり返る思いだよ本当に」
と、怒りや己の情けなさに苦虫を噛み潰したような表情になって言葉を吐き出す。紅の話に嘘を言っているように見えない。
「「………………」」
夏目とヨルムンガンドは、顔を見合わせ反応に困り果てる。何より、”神なんていやしない”という一言が引っ掛かりその真意を確かめたい気持ちがあった。
「おっと、ごめんよ。一方的に話してしまった。詳しいことは、ここから出て全員が揃った時に話そう。夏目くん、今はその女を始末する方が先決だ」
「え、あ、はあ……」
いきなり、名前を呼ばれ戸惑う。聞きたいこともあるが、始末という紅の言動に素直に頷けない。
「その女は、悪神に心酔しきって君たち側につくことはないからね」
渡すべきか、それともと悩む。引き渡せばリーリエ・マロイツェは、確実に死ぬだろうと分かりきっている。だが、敵に情けや心を許せば夏目ではなく他の仲間を危険に晒すことになることも分かっている。
(……どうすればいい? 俺が決めるべきなのか……?)
だからこそ今、どの選択を選べば正しいのか分からない。
夏目の心情察した紅が動く。
「夏目くんは動かないでね」
「え?」
そう言ってリーリエに近づき、そして夏目とヨルムンガンドに言う。
「君たちは、オレを止めようとしたけれどオレを止められず、リーリエを殺されてしまった。という筋書きなら誰も君を責めない」
「――っ!」
「敵意も、警戒も全てオレに向けられる。だから動かないでね」
「そ、それだと……!」
紅が危険な奴だということは、誰もの認識だが今この場だけは危険な奴ではない。夏目を助けようとしていることを本人が一番、理解している。
止めるべきかと声を絞り出すが、敵の彼女を護る理由はない。その優しさはただの偽善だ、そう頭によぎり言葉を途中で失う。
目の前で、リーリエの周りに八岐大蛇が姿を見せる。
「……んっ。わ、わたくしは確か……」
リーリエが意識を取り戻し、紅と八つの頭が牙を向ける八岐大蛇を見て頬を引きつらせる。
「な、何をしていますの……? 何故、わたくしに蛇を向けているんですの!?」
顔が蒼白に変わっていくリーリエに、恐ろしほどの冷たい笑みを向ける紅。
「何故って、お前には死んでもらうためだよ。邪魔だから」
リーリエは紅の言葉が一瞬、理解できず鳩が豆鉄砲を食らったような顔に。しかし、すぐ意味を理解し何度目かの怒りを露わにする。
「ふ、ふざけないでくださまし! 敵は後ろの男でしょう! 何、血迷ったことを言っていますの!?」
「ふざけてもいないし血迷ってもないよ。オレは正気で、お前も悪神も殺す。悪神に心酔しているお前は邪魔な存在でしかない。だから消えてもらうんだよ。ヒュドラーもすでに大蛇が喰らっているから心配なんてしなくていいよ。一人で死ななくて良かったね」
紅は、ここへ来る前にヒュドラーの元へ先に訪れ喰らってから来ていた。その行動に、用意周到だな、なんて呑気に思ってしまう夏目。
その事実にリーリエの顔は絶望の色が滲み出る。
「ま、まさか裏切るつもりですの……? そ、そんなこと……」
「ああ、そうだよ。オレが裏切り者だからね。そういうことだから、さようなら」
八岐大蛇が口を開け、リーリエは視線を逸らすことができず今まさに逃れられない死に絶望し涙を流し叫ぶことしかできなかった。
「し、死にたくありませんわ……!」
「大蛇、リーリエ・マロイツェを喰らえ」
「い、いやああああああああああああああああああああっ!!!!」
だが、無慈悲に紅は命じた。八岐大蛇は、命令通りに八つの頭がリーリエの全身にかぶりつき、皮膚に無数の牙が突き刺さり、肉を噛み千切り、骨を砕き、垂れ流れる血を啜り、血も肉体の全てを喰らう。
その光景から目が離せず、一言も発せずただ黙って見ているだけの夏目とヨルムンガンド。
そこへ複数の足音が近づき、フェンリルとヘルそして美哉だちが合流する。
「夏目!」
「主、ヨルムンガンド!」
「ご無事ですか!?」
美哉、フェンリル、ヘルの声が建物内に響く。燐と桜も、夏目たちを心配し駆けつけてくれたようだ。
が、誰もが敵の神殺しを喰らう八岐大蛇とその契約者の紅を見て警戒を露わにした。
「主、どうした? 何故、喋らぬ? ……まさか、貴様が何かしたのではないだろうな!」
フェンリルは、夏目と弟に何かしたのではないかと怒る。
美哉も、夏目とヨルムンガンドの視線が血溜まりを見つめ固まり動けない様子から紅が傷つけたと怒り殺意を向け、ヘルと燐も戦闘態勢を取り睨みつけた。
当然の反応に紅は笑みを浮かべるだけで余裕の態度。
(ち、違うんだ……! 俺は、何もされてないっ!)
恋人と相棒、仲間の反応を知り声を出して止めたいが、口の中が乾いて声が上手く出せない。
喰らわれる光景を、神殺しであっても簡単に死んでいく様を目の当たりにしてあまりの衝撃に動けないだけなのだ、と言いたい。
(う、動け! このままじゃ……!)
フェンリルと美哉が同時に動こうと瞬間、ようやく己の意思で動けるようになった夏目とヨルムンガンドが紅を庇うように、相棒と恋人の前に立ち塞がった。
両腕を伸ばし、手を広げ叫ぶ。
「ダメだ! こいつを殺さないでくれ!」
「兄さん、待って! 美哉も!」
「なっ、主!? なんの真似だ!?」
「ヨルムンガンドまで!?」
夏目の声に、動きを止めたフェンリルと美哉。ヨルムンガンドまでもが、必死な表情で訴える。
その言動に、全員が驚愕し動けなくなってしまう。
「ええっ!? な、なんでここに!?」
「厄介にな敵が来ちゃったよ!」
夏目もヨルムンガンドも、声を上げ戦闘態勢を取ろうとするが八岐大蛇の姿は見えない。そして敵意なども感じられず立ち竦む。
そんな夏目に、紅は爽やかな笑顔で挨拶を交わす。
「やあ、久しぶり」
「え、えっと、久しぶり?」
紅の気の抜ける挨拶に疑問符をつけ返す。先日の一件でもそうだが、夏目の中でどうも彼に対してどう対応すればいいのか分からない。
「警戒はしなくてもいいよ。オレは敵じゃない。その女、リーリエ・マロイツェを始末しに来ただけだから」
「へっ!?」
二度目の驚き、地面に横たわり未だに気絶しているリーリエを見る夏目とヨルムンガンド。紅は、彼女を見下ろしここへ訪れた経緯を話す。
「オレは、アザゼルと話し合って悪神を殺すと決めたんだ」
「……っ!? そ、それってどういうことだ?」
「ふふっ。まさか、オレと八岐大蛇を利用し続けているとは思いもしなかった。いや、オレが愚かだったのだろうね。騙され上手く扱われ、神なんていやしない真実を隠し捻じ曲げ、己の欲求のために利用されて。腸が煮えくり返る思いだよ本当に」
と、怒りや己の情けなさに苦虫を噛み潰したような表情になって言葉を吐き出す。紅の話に嘘を言っているように見えない。
「「………………」」
夏目とヨルムンガンドは、顔を見合わせ反応に困り果てる。何より、”神なんていやしない”という一言が引っ掛かりその真意を確かめたい気持ちがあった。
「おっと、ごめんよ。一方的に話してしまった。詳しいことは、ここから出て全員が揃った時に話そう。夏目くん、今はその女を始末する方が先決だ」
「え、あ、はあ……」
いきなり、名前を呼ばれ戸惑う。聞きたいこともあるが、始末という紅の言動に素直に頷けない。
「その女は、悪神に心酔しきって君たち側につくことはないからね」
渡すべきか、それともと悩む。引き渡せばリーリエ・マロイツェは、確実に死ぬだろうと分かりきっている。だが、敵に情けや心を許せば夏目ではなく他の仲間を危険に晒すことになることも分かっている。
(……どうすればいい? 俺が決めるべきなのか……?)
だからこそ今、どの選択を選べば正しいのか分からない。
夏目の心情察した紅が動く。
「夏目くんは動かないでね」
「え?」
そう言ってリーリエに近づき、そして夏目とヨルムンガンドに言う。
「君たちは、オレを止めようとしたけれどオレを止められず、リーリエを殺されてしまった。という筋書きなら誰も君を責めない」
「――っ!」
「敵意も、警戒も全てオレに向けられる。だから動かないでね」
「そ、それだと……!」
紅が危険な奴だということは、誰もの認識だが今この場だけは危険な奴ではない。夏目を助けようとしていることを本人が一番、理解している。
止めるべきかと声を絞り出すが、敵の彼女を護る理由はない。その優しさはただの偽善だ、そう頭によぎり言葉を途中で失う。
目の前で、リーリエの周りに八岐大蛇が姿を見せる。
「……んっ。わ、わたくしは確か……」
リーリエが意識を取り戻し、紅と八つの頭が牙を向ける八岐大蛇を見て頬を引きつらせる。
「な、何をしていますの……? 何故、わたくしに蛇を向けているんですの!?」
顔が蒼白に変わっていくリーリエに、恐ろしほどの冷たい笑みを向ける紅。
「何故って、お前には死んでもらうためだよ。邪魔だから」
リーリエは紅の言葉が一瞬、理解できず鳩が豆鉄砲を食らったような顔に。しかし、すぐ意味を理解し何度目かの怒りを露わにする。
「ふ、ふざけないでくださまし! 敵は後ろの男でしょう! 何、血迷ったことを言っていますの!?」
「ふざけてもいないし血迷ってもないよ。オレは正気で、お前も悪神も殺す。悪神に心酔しているお前は邪魔な存在でしかない。だから消えてもらうんだよ。ヒュドラーもすでに大蛇が喰らっているから心配なんてしなくていいよ。一人で死ななくて良かったね」
紅は、ここへ来る前にヒュドラーの元へ先に訪れ喰らってから来ていた。その行動に、用意周到だな、なんて呑気に思ってしまう夏目。
その事実にリーリエの顔は絶望の色が滲み出る。
「ま、まさか裏切るつもりですの……? そ、そんなこと……」
「ああ、そうだよ。オレが裏切り者だからね。そういうことだから、さようなら」
八岐大蛇が口を開け、リーリエは視線を逸らすことができず今まさに逃れられない死に絶望し涙を流し叫ぶことしかできなかった。
「し、死にたくありませんわ……!」
「大蛇、リーリエ・マロイツェを喰らえ」
「い、いやああああああああああああああああああああっ!!!!」
だが、無慈悲に紅は命じた。八岐大蛇は、命令通りに八つの頭がリーリエの全身にかぶりつき、皮膚に無数の牙が突き刺さり、肉を噛み千切り、骨を砕き、垂れ流れる血を啜り、血も肉体の全てを喰らう。
その光景から目が離せず、一言も発せずただ黙って見ているだけの夏目とヨルムンガンド。
そこへ複数の足音が近づき、フェンリルとヘルそして美哉だちが合流する。
「夏目!」
「主、ヨルムンガンド!」
「ご無事ですか!?」
美哉、フェンリル、ヘルの声が建物内に響く。燐と桜も、夏目たちを心配し駆けつけてくれたようだ。
が、誰もが敵の神殺しを喰らう八岐大蛇とその契約者の紅を見て警戒を露わにした。
「主、どうした? 何故、喋らぬ? ……まさか、貴様が何かしたのではないだろうな!」
フェンリルは、夏目と弟に何かしたのではないかと怒る。
美哉も、夏目とヨルムンガンドの視線が血溜まりを見つめ固まり動けない様子から紅が傷つけたと怒り殺意を向け、ヘルと燐も戦闘態勢を取り睨みつけた。
当然の反応に紅は笑みを浮かべるだけで余裕の態度。
(ち、違うんだ……! 俺は、何もされてないっ!)
恋人と相棒、仲間の反応を知り声を出して止めたいが、口の中が乾いて声が上手く出せない。
喰らわれる光景を、神殺しであっても簡単に死んでいく様を目の当たりにしてあまりの衝撃に動けないだけなのだ、と言いたい。
(う、動け! このままじゃ……!)
フェンリルと美哉が同時に動こうと瞬間、ようやく己の意思で動けるようになった夏目とヨルムンガンドが紅を庇うように、相棒と恋人の前に立ち塞がった。
両腕を伸ばし、手を広げ叫ぶ。
「ダメだ! こいつを殺さないでくれ!」
「兄さん、待って! 美哉も!」
「なっ、主!? なんの真似だ!?」
「ヨルムンガンドまで!?」
夏目の声に、動きを止めたフェンリルと美哉。ヨルムンガンドまでもが、必死な表情で訴える。
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