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第五章 真実に近づく者たち

第三幕 夏目とヘル(1)

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 しばらく夏目を監視もとい観察をして分かったことがある。彼は、美哉によく振り回されている。それは、家であろうと学校であろうとだ。



 本人も、本気で嫌がっているわけではなくどんな時でも美哉に付き合う。

 仲が良い友人といえば、燐と桜の二人だけのようだ。クラスでは基本的に一人でいる。

 他にも、スルトとの戦いの件で知り合った真冬と陽菜とも話すようになったようだ。



「極端な友人関係です」



 と、姿を自らが宿す神通力で透明化と気配を殺し誰にも聞き取られない声で呟くヘル。

 学校での夏目は、美哉たちと一緒にいることを望み昼休みや放課後は部室へ直行。帰宅後は、フェンリルとヨルムンガンドとのんびり過ごし、何だかんだでイチャつく。



「……イチャイチャが多いです」



 見せられる気持ちにもなってほしい、と不満をもらす。

 だが、早朝はフェンリルと共にランニングとトレーニングをこなす。学校が休日で時間がある時は、兄弟の神通力を纏った特訓に精を出す。

 弱いことを自覚している夏目は、毎日のランニングとトレーニングは欠かさずこなし、己を鍛えることに弱音を吐くこともなく努力し続けていた。



「強くなることに妥協がないです……」



 これにはヘルも感心してしまう。だからか、強力な神獣と契約しているにも関わらず何故に、己を鍛えることにそんなに真剣になるのか気になり訊く。



「どうして、兄様たちと契約を交わしているのに己を鍛えようとするのですか?」



 ヘルから話しかけてくるとは思わず間抜けな表情になる夏目。



「えっ、あー、そうだなぁ。俺弱いから護らてばっかで情けない姿ばかり晒してるし、だから強くなりたいって思ったからかな」



 そう答える夏目、その返答に更に質問を投げかけた。



「人間が弱いのは当然です。脆弱ですぐ死んでしまう、しかし兄様たちがいれば自分の身を危険に晒すことも、自ら傷つく必要もないはずでは?」



 ヘルの新たな質問に、美哉が入れてくれたお茶を見つめながら過去を思い返し語る。



「それは……」



 過去に美哉を護れなかったこと、その時に強さと力を望みフェンリルと契約を交わしたこと。当初は、フェンリルともここまで仲が良いとは言えず、むしろ自分が様々なことに怖がりその気持ちがフェンリルに伝わっていた。



 その結果が力もまともに扱えず迷惑ばかりかけたこと、でも本当はこの力で”何を成し何を護り何を得たいのか”と言うフェンリルの問いかけに自分の中で答えを見つけた。



 そうしてフェンリルとも話すようになり、過去を知りいつしか将来の約束を交わすまでの間柄に進展したのだ。

 そのあとに美哉との問題が起きた婚約の件。



 自分の気持ち、美哉の気持ち、今度こそ護りたい、そのためには自分が強くなる以外はない。フェンリルだけが強くても、本当に護りたいものも奪われたくないもの、この手からこぼれ落ちていくと痛感した。



 だからこそ、相棒と共に何もできない弱いままの自分でいるのではなく強くなって、大切な人をずっと護れるように、この神殺しの力は相棒となってくれたフェンリルや美哉のために使うのだと誓った。



「俺は、フェンリルのこと信じ全てを委ねられる。相棒は、絶対に俺を殺すようなことはしないと」



 ヘルに向かって信じきった目をし、はっきりと伝える。



「で、縁談を壊して会長に俺たちは勝った。そのあと、俺はヨルムンガンドと出会ったんだ」



 一呼吸置いて今度は、ヨルムンガンドとの出会いを話す夏目。



「ヨルムンガンドとは林間合宿で出会った。あの時は、敵と間違えられ殺されそうになったけど」



 笑いながら言う。今日も今日とて、アニメに夢中でテレビを独占しているヨルムンガンド。

 ヨルムンガンドは、使徒に追われ逃げた先が林間合宿場だった。フェンリルの弟ということもあり保護することに。



「話してみれば、ヨルムンガンドは甘え坊で泣き虫でよく兄のフェンリルに小言を言われてるけど可愛いんだよな」



 クスクス、と話しながらも小言を言われるヨルムンガンドの姿を思い出しまた笑う。

 フェンリルとの約束を話すと羨ましがり、一緒に行かないかと訊けば喜んで行くと答えヨルムンガンドも旅の仲間入り。



 しかし、使徒との戦いで洗脳されてしまいぶつかり言葉が届かず殺し合いのような事態に発展。元に戻らないのなら、兄として弟を殺すと言うフェンリルにそんなことをさせたくない一心で、傷だらけになろうと何があっても必ず取り戻すとヨルムンガンドと戦い、何度も名前を呼び言葉を投げ続けた。



「あの時、俺も必死でさ、一緒に帰ろう美味しいご飯を腹一杯に食べてふかふかの布団で眠り、俺とフェンリルと一緒に毎日を過ごそう! って伝え、ヨルムンガンドの額に一発思い切り殴って止めたんだ。そうして、今この家で一緒に住んで楽しくみんなでワイワイしてる」



 今までのことを振り返りながら語る夏目。



「………………」



 ヘルは、想像していた以上に夏目が兄たちを想い、そしてまた兄たちも夏目を想い、自らの力の根源である神通力を彼の体に流し力を分け与えているのだと理解した。



「こ、こんな人間は見たことがないです……」



 夏目と兄たちを見ていると羨ましいと思ってしまう。想い想われる、揺るがない信頼と強く繋がった絆。

 北欧にいた頃も、今もこんな人間に出会ったことはない。



「…………」



 今まで見てきたどの神殺しとも違う夏目の認識を改めるべきだと、口には出さないがそう思うヘルだった。
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