上 下
114 / 220
第五章 真実に近づく者たち

新担任の正体は(3)

しおりを挟む
 資料室に到着した途端、ノックもせず扉を開け放つ美哉。



「夏目!」



 叫ぶ彼女の目に映ったのは、パイプ椅子を一列に並べその上にうつ伏せに寝転び腰から背中のツボや肩を揉まれ、マッサージを受ける夏目の姿。



「…………」



 美哉の後ろから室内を覗き込む燐と桜も、瞬きを数回して固まる。真冬と陽菜も、その光景に何も言えず立ち竦む。



「ああ~、そこそこっ」



 マッサージを施され、気持ち良さそうに声を出す夏目。小型犬サイズのフェンリル、ヨルムンガンドも床にリラックスした状態。



 四音は笑顔で、背中を指で押し肩を程よい力加減でほぐし、あまりの気持ち良さにだらしない顔の夏目を目の当たりにして、ようやく美哉は声を絞り出せた。



「夏目、何をやっているんですか……?」

「ふえ?」



 夏目もそこで、ようやく美哉の存在に気づき緩みきった表情で答える。



「おお、美哉~。いや、なんかマッサージをしてくれるって言うから受けてみたら、これが結構気持ち良くて~」

「あら~、ここも凝ってますね」



 四音は、四音で凝り固まった箇所を押す。その様に美哉の怒りが徐々に募り叫んだ。



「……っ。夏目!!」

「……っ!?」



 美哉の怒りの声に、驚きパイプ椅子から転げ落ちる夏目。四音も、腕を上げ突然に叫ぶ美哉に驚く。



「これはどういう状況ですか! 私の心配を返してください!」



 怒られる理由が分からない夏目は、



「な、何で急に怒るんだよ!?」

「怒るに決まっているでしょう! この状況は何ですか!? どうして、教師からマッサージを受ける流れになっているんです! それも二人きりで! いくら、フェンリルやヨルムンガンドがいるからといって、警戒心がなさすぎです! おまけに、神獣を懐柔されてどうするんです!」



 と、マシンガントークの如く言い寄られる夏目。床に尻もちをつき、腰に手を当てた美哉に睨まれたじろぐ。



「えっと、そ、それはその……」

「それともあれですか? 浮気ですか? 見た目から魅惑な大人の女性と、隠れて浮気でもしてみようとか考えたんですか? ねえ、夏目?」

「ひぃっ!?」



 長い紫がかった黒髪がパサリ、と眼前に落ち見下ろす美哉の目が冷え切り、言葉に殺意と怒りが込められ夏目の口から悲鳴が出る。



「ち、違う! 浮気なんて考えたことも思ったこともない! 俺は、だから! そんなこと、天地がひっくり返ってもありえないから!」



 首を左右に振り乱し、必死に訴える夏目。その言葉に、殺意と怒りが鳴りを潜めてしまう。

 嬉しいことを言われて、頬を赤らめる美哉。



「そ、そうですか。ならばいいです。夏目の言葉を信じてあげます。けれど、浮気は絶対に許しませんよ?」

「分かってるよ。絶対にしない」



 そう言って、床にいつまでも座ったままの夏目に手を差し伸べる。

 一連のやり取りを見ていた燐たちは全員が同じことを思う。



 ――なに、このバカップルは……。

 と呆れ気味だった。ただ一人、四音だけはその光景を前に終始、クスクスと笑っているのだ。



 何より、これだけ騒いでもフェンリルとヨルムンガンドは動かない。というよりも、気持ち良さそうに眠り起きる気配がない。

 普段の神獣兄弟ならありえない状態に、美哉は四音を睨み彼女が一般人ではないと警戒を露わにした。



 真冬も、神獣が姿を現しその上で無力化されている状況に警戒を見せる。

 二人の睨みと警戒心を見せられても動じない四音は美哉たちに言う。



「立ち話もなんだから、みんな入ってらっしゃい」



 部屋の隅に片づけられているパイプ椅子を人数分、用意し入るよう促す。

 誘いを受けた美哉たちは、資料室へ入りそれぞれ用意された椅子に座る。全員が座ったところで、四音がまず夏目にマッサージを施す経緯を話す。



「フェンリルとヨルムンガンドと契約している彼が、”彼女”と契約を交わすに値するか見定めるためなの。だから、二人きりになれるようにここへ誘導して神獣兄弟を喚んでもらった。兄弟共に、彼に絶対的な信頼を寄せ強固な絆で繋がっていることも確かめられたわ。わたしの、わがままに付き合ってくれたお礼にと、マッサージを施したというのが経緯ね。兄弟が気持ち良さそうに眠っているのは、わたしの力なの。ふふっ」



 そこまで話して笑う四音。話に出てきた”彼女”とは誰のことなのか、最初から夏目が神殺しでありフェンリルとヨルムンガンドと契約を交わしていることを知っていた。



 それだけの情報を持ち只者ではない、同じ神殺しかと推測するがそんな素振りもない。謎の存在に美哉と真冬が訊く。



「あなたは何者ですか?」

「逢真の神獣がこの二匹だと知っていたみたいだけど、どうやってその情報を得たわけ?」



 二人の問いに、四音は笑みを崩さず真っ直ぐ見つめ返し答える。



「瑠々川四音はね、で使う名前なの」



 そう言いながら指をパチンと鳴らす。すると、背中から黒い翼が十二枚現れる。

 それは、腰の辺りから生え、コウモリを連想させるような形状していた。

 十二枚の黒い翼を見た夏目以外のメンバーが、目を開き見るからに驚愕し固まった。



(に、人間じゃない? え、もしかして神獣とか?)



 四音の姿を見て、首を傾げアホ毛も疑問符の形になる。



「わたしの正体は、元天使であり現在は悪魔よ。名をルシファーって言うの。よろしくね」



 自己紹介に、美哉たちは開いた口が塞がらない。夏目だけが、驚き声を上げるのだった。



「マ、マジかぁぁぁぁああああああああああああっ!?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

処理中です...