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第五章 真実に近づく者たち

第一幕 新担任の正体は(1)

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 六月の中旬、制服も夏服へ。

 教室は、普段以上に騒がしい。理由は担任が急遽、家の都合で辞めてしまい新しい担任が赴任することに。



 生徒たちはその新しい担任の話題で持ちきり。

 一方、夏目は全く興味がなく窓の外を眺め頭の中では先日の一件でいっぱいだった。



 紅が口にした人物。アザゼルとルシファー。

 美哉の説明を聞いたあと、夏目自身でも調べて分かったことがある。

 どちらも、元は神に仕える上級天使だったが命に背きかつ離反し自ら地獄へ堕ちた。



 アザゼルは、禁忌とされる人間の娘を娶り交わり、巨人を産み知識を与えた一団グリゴリの頭。

 ルシファーは、悪魔と呼ばれる存在であり王でもある。あの七つの大罪の傲慢を司り、悪魔の中で魔王と言われている。

 この二人共、存在も能力も規格外。



(おまけに、神から離反しているということは悪神側だろうし。俺たちの敵の可能性が高いんだよな……)



 そんな二人と戦わなければならない、と考えるだけで頭痛がする夏目だった。

 ホームルームが始まり、新担任が教室に入ってくる。その人物に、特に男子共が騒ぐ。



「ちょっ、めっちゃ美人じゃん!」

「オレ、このクラスで良かった!」

「担任が変わってくれてラッキー!」



 などと口々にする。

 藍色の髪と高身長、スーツの前のボタンが弾け飛ぶのではと思うほどの胸の大きさ、それに比べて細いくびれにタイツに包まれた美脚。

 教卓に立つ彼女が、黒板に名前を書き挨拶をした。



「初めまして、みなさん。瑠々川四音るるかわしおんと言います」



 笑顔で、見た目から優しい系のお姉さんの雰囲気を醸し出す。声にも優しさが滲み出る。



「新米教師ですが、生徒のみなさんに頼られるよう頑張りますのでよろしくお願いします」



 と、終始笑顔で四音の挨拶が終わる。

 女子からも優しげな教師で良かったと第一印象は好評。

 男子共は、体が動く度に揺れ動く胸やら美脚に鼻の下を伸ばし下心丸出し。



「はあー……」



 騒がしい教室の空気感にため息一つ。



「ん?」



 外を眺めていると、視線に気づき教卓へ顔を向けると四音と目が合う。というより、ずっと夏目を見つめているその姿を疑問に思う。



(なんか、ずっと俺の方を見てる気がするんだが……。なんで?)



 そうして、ホームルームも終わり授業が始まった。何事もなく、昼休みへ途中。

 夏目はいつも通り、部室へ向かおうと廊下へ出たところで呼び止められる。



「あ、逢真くん。ちょっといいかしら?」

「え、あ、はい」

「資料室への荷物運びを手伝ってほしいのだけどいいかしら?」

「えっ……」



 笑顔で頼まれ、断りたい気持ちがあったが教師の頼みを断るとあとが面倒になるかもしれない。そう思うと、引き受けるしかない。



「はあ、いいですけど」

「ありがとう。じゃあ、よろしくね」



 四音と共に、資料室へダンボールを抱え向かう。資料室の鍵を開け中へ、真ん中にテーブルが一つとパイプ椅子が二つ、四方が資料棚に囲まれカーテンが締め切り薄暗い。



「ちょっと待ってね。今、電気を点けるから」



 パチッ、と明かりが点く。



「逢真くん、そこのデーブルに置いてくれていいわよ」

「分かりました。じゃあ、俺はこれで失礼します」



 荷物運びも終わったので、早々に帰ろうとすると夏目を引き止める。



「待って!」

「えぇ……。まだあるんですか?」



 これ以上は手伝いたくないのが本心だ。このままでは昼休みが終わってしまう。そう思うと、嫌そうな顔になってしまうのも無理はないだろう。



「お願い、一緒に運んできた資料を片づけてほしいの!」



 一人では昼休みの時間中に終わらないと、涙目で訴えられる。

 上目遣い、困り果てた表情、これだけで他の男子なら落ちることだろう。だが、夏目には美哉がいるため落ちることはない。ただ面倒事を押しつけられた気分だ。



「……はあー、分かりました……」

「ほんと!? ありがとう、助かるわ!」



 渋々、手伝いを受ける羽目に。

 運んできたダンボールに中身の資料を棚に片づけていく最中、四音は夏目へいくつか質問を投げかける。



「逢真くんは部活に入っているの?」

「ええ、まあ、入ってます」

「あら、そうなのね。どの部なのかしら?」

「文系? だと思います」



 神話オカルト研究会をどう説明すればいいのか迷い、疑問形に答える夏目。四音は、特に気にした様子はなく手を動かしながら続ける。



「得意な科目や苦手な科目はある?」

「えっと、これといって特にないですかね……」

「そうなの? 普通はありそうなものだけど」

「そうですかね?」



 などと当たり障りない会話をする。抱えていた最後の資料を棚に片づけ終えた夏目。その背後に、音も気配も感じさせず近寄った四音。

 明かりが照らす人影に気づき振り返る夏目。



「ちょっ、近っ!? え、なな何ですか!?」



 驚き固まる夏目へ、四音は顔を近づけ至近距離で言う。



「”フェンリルとヨルムンガンド”とは、随分と仲が良いのね」

「なっ!?」



 四音の言葉に目を開き言葉を失う。



(な、なんで知ってるんだ!? ……っていうか、本当に近い! あと香水の香りがあまり好きじゃないし、何ていうか好みのタイプじゃないし、俺には美哉がいるから近寄られても困るっ!)



 気にするところはそこではないはずなのだが、色々とズレている夏目の内心。



 手を顔の前に出し、それ以上は近寄るなと態度で示すが四音はそのまま続けて言う。



「これなら、ともきっと仲良くなれそうで安心したわ」

「ふへぇっ……?」



 そう妖艶に微笑む四音の言いたいことが全く理解できず、瞬きを数回し固まった夏目。
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