上 下
105 / 220
第四章 神山学園のレヴィアタン

レヴィアタンと陽だまり(6)

しおりを挟む
 大鎌を構えた真冬は、スルトへ向かって突貫。



 スルトも、そんな真冬に対して脚を振り上げグラウンドの地面を割る。

 轟音を響かせ、突っ込む真冬の足止めを狙ったがレヴィアタンの援護で意味をなさない。白い胴体を伸ばし、脇の下へ滑り込ませ体を持ち上げ上空へ。



 スルトの真下に捉え、真冬を落とすレヴィアタン。大鎌を大振りに横へ、肉体を真っ二つに狙う。



「はあっ!」



 真冬の狙い通りに大鎌の刀身は胴体へ、しかしスルトは斬られまいと筋力を膨張させ硬化の影響で阻まれ刃が通らない。



「ちっ! 面倒ね!」



 舌打ちをし、何度も斬り込みを繰り返し振るうがやはり水の大鎌の刃は通らない。そこへ、レヴィアタンも参戦し追加攻撃を入れた。



 頭上から滝の如く大量の水が、スルトの纏う炎を鎮火させようと浴びさあせたのだ。真冬も、その水を頭から被る格好となるが気にせずタイミングを見計らう。



「ウブッ、ンン、グッ……」



 唐突の水量に、スルトの炎がようやく鎮火。それを待っていた真冬、手にする大鎌の柄を握りしめ体を捻り遠心力をつけ刀身を腹部に目掛け振る。

 鎌の切っ先は、スルトの脇腹へ斬り込みを入れ腹部に刀身が届き肉を深く抉った。



「ウウッグゥッ!」



 血飛沫が互いの間から吹き出し、真冬の視界を赤く染め上げる。膝をつくスルトへ、首を狙いもう一撃を振るうが炎を纏わせた手の平で防ぐ。



「……っ!?」



 水を掴むことなど不可能なはずだが、スルトの神通力は健在で触れただけで消失させる。口からもれ出す火に気づいた真冬は、柄から手を放し後方へ飛び退く。



「――っ!」



 スルトは、大口を開け火を吹く。それはまるでドラゴンが炎を吐き出す光景、火力は強く距離を取った真冬を飲み込むほど。



 腕を交差させ顔を庇う体勢になるが、衣服を溶かし皮膚を焼く。

 数秒の出来事に、見守っていた陽菜が泣きそうな声で叫ぶ。



「ま、真冬ちゃん……!」



 火の本流から飛び出した真冬の両腕は重度の火傷を負う。腕全体の皮膚は爛れ、肉を溶かし骨が見える箇所もある。



「つっ……! ふーっ、ふーっ、んぐっ!」



 真冬は歯を食いしばり、激痛に耐えながらも肩から腕が垂れ下がり動かせない。息も荒く、よく意識を保っていられるなと自分でも不思議なほど。

 陽菜とレヴィアタンがそばへ駆け寄る。



「ま、真冬ちゃん、待ってて、すぐ治すから!」



 両腕に淡い緑色の光が、傷口を包み込み癒やす。

 レヴィアタンは、スルトを睨みつけ牙を見せ威嚇。



 治癒の巫女の力のお陰で傷は癒え元通りに、大鎌は真冬の手から放れたと同時に物体のない液体へと変わり、割れた地面へ流れ染み込む。

 スルトの方も、傷を神通力で癒やし塞ぐと立ち上がった。



「ありがと、ヒナ」

「ううん。これくらいしか、できないから」

「それでもよ。危ないから、下がってて」

「うん」



 真冬は、一呼吸置いてレヴィアタンを見つめ目だけで伝える。



 意図を読み取ったレヴィアタンは真冬へ、大量の水を全身に被せびしょ濡れにする。

 武器を持たず、最初と同じように弾丸の如く突っ込む真冬。



 スルトの元へ、一瞬で距離を詰め回し蹴りを見舞う。腕で防がれても動じず、連続の殴打へ切り替えてもそれさえ手の平で防がれた。

 今度は、地面に両手をつき逆立ちからの連続の蹴り技を繰り出す。



 しかしだ、どの攻撃も威力が弱い上にスルトの腕や手で防がれダメージが入らない。



「弱イ。弱スギル。力ヲ、使イ果タシカ。小娘?」



 遂には、足首を掴まれ持ち上げられる真冬の体。

 至近距離で、火を吹こうとするスルト。その攻撃を待っていた真冬は、ニヤリと笑う。



「この瞬間を待ってたのよ!」



 そう叫び、自らスルトの顔へ抱きつく。逆さ吊りのまま腕を頭に回し力を込め、離れないよう固定する。



「無駄ナ、足掻キヲ」



 スルトは構わず、大口を開けて火を吹く。

 ゼロ距離からの攻撃を受けた真冬の体は焼かれ、絶え間ない激痛が襲い燃え上がる。



 ――はずだった。



「ナニッ!?」



 燃え上がるどころか吹く火を消し、体が水の球体へと変わっていくではないか。

 スルトの頭から首元まで水の球体が包み込み、鼻や耳から口へと水が流れ込む。



「ングッ、ゴボボッ、ウウッ……!」



 球体を引き剥がそうともがき、手で掴もうとするが何も掴めない。呼吸が苦しく、目からも水が流し込まれ上手く炎も神通力も扱えないスルト。



 真冬本体は、陽菜のそばにいた。その場所から、水を操作し球体の水をスルトの穴という穴に流し込み続ける。



「内側からの攻撃には、耐えられないでしょ!」



 真冬の作戦はこうだ。



 まず、レヴィアタンの水で分身を生み出す。そのために全身、水を被り肉体を形成。

 そして、スルトへ向け分身を放ちわざと捕まえさせる。次に、呼吸器官の顔全体を覆うためにへばりつかせ、球体の形へ変えるだけ。



「あとは、大口を開けたその口と穴という穴へ水を流し込み続けるだけ。どう? 苦しいでしょ?」



 必ず殺すための行動を起こすと確信し、口を開ける瞬間を待っていたのだ。

 真冬の予想通りとなり、スルトは息もできずもがき苦しむ。



 火を吹こうにも空気を吸い込めない今の状況では不可能。球体を壊そうとするも、手はすり抜け為す術なく封じられる。



「さて、レヴィアタン。仕留めるわよ」



 その言葉に頷き、大鎌を創り出しそれを受け取った真冬とレヴィアタンが駆けた。

 スルトの背後に回った真冬は腰から腹部を深々と貫き、レヴィアタンは正面に回り尻尾を器用に槍のように真っ直ぐ心臓を狙い貫き引き抜く。



「――――ッ!?」



 正面と背後からの同時攻撃を受け声にならない声を上げ、完全に肉体の行動が停止するスルト。

 その場に倒れ込み、大鎌の刀身が抜けとめどなく血が流れていく。その様子を見ていた真冬とレヴィアタンは、お互いに手と尻尾でハイタッチ。



「さあ、私の方は終わったわよ」



 そう呟き、視線を神殺し同士の対決へと向けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

処理中です...