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第四章 神山学園のレヴィアタン

その身に纏うのは(4)

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 あれから二日後。



 習得部屋では、特訓に精を出す夏目とヨルムンガンド。一度、融合し体を実際に動かしたお陰で上手くいく回数が増えた。



「夏目って飲み込みが早いよね」

「そう、なのか?」

「うん。ボクはそう思うよ」

「俺個人だとあまりそうは思わないけど」



 休憩を挟みそんな会話をする。

 初めての融合から、お互いに話し合い決めたことがある。両方の五感を利用するには、脳への負荷が大き過ぎるためどちらか片方を使うことに。



 人間より優れているヨルムンガンドの五感を、夏目が使うという方向へ。極端な話、夏目の五感全てをヨルムンガンドの五感に上書きするというもの。



 景色を見る目、音を聞く耳、嗅ぎ分けられる鼻、肌に感じる感触、その全てを上書きし夏目が感じ取る。



 そんなイメージだろうか。

 とまあ、そんなこんなで何度も繰り返し慣れさせていく。



「さて、休憩終わり! 続けようか」

「うん! いつでもいいよ!」



 夏目とヨルムンガンドが融合し、五感がもう一人の相棒のものへと上書きされた。



 見慣れた部屋の中、もう吐き気や気持ち悪さはない。視界も良好、見える景色も鮮明で窓から数メートル先の建物の窓のや電柱の数もはっきりと認識可能。窓辺に近づき、窓を開け音を拾う。車のエンジン音、下校する子供たちの会話、カラスの鳴き声、自転車が走り去る音、どれも聞き取り理解できる。



 嗅覚も、夕食の準備だろうか魚を焼く香ばしい匂い、他にも醤油ベースのタレに絡ませ焼く肉の美味しそうな匂いにお腹が空いてくる。



「ああ~、美味そうな匂いがあちこちからしてくる……!」

『お肉の匂いと魚を焼いてる香ばしい匂いが……!』



 どうやら、上書きは成功のようだ。

 匂いばかり嗅いでいる場合ではない。名残惜しい気持ちを置いて、脱衣所へ向かう。



 確かめるためだ。鏡の前に立ち、金色に変わったままの瞳を見て、頬や手の甲を見ると蒼く澄んだ鱗が現れていた。



 全身も確かめるべくワイシャツと下に着込んでいるTシャツも脱ぎさると、胸元や脇腹の周りから背中を鏡に映せば肩甲骨にも鱗が。



「こ、これはまた……」

『すごい……。まさか、ここまでボクの影響が出るなんて……』

「鱗が現れる箇所が増えたな」

『うん』

「これは嬉しい成果だぞ、ヨルムンガンド!」

『そうだね! 頑張った甲斐があったよ!』



 鱗に触れてみると、ヨルムンガンドと同様に硬いが温かくて皮膚に突き刺さることはない。



「これさ、尻尾が生えたりしないかな?」



 ふと、思い口にする夏目。



『できそう。生やしちゃおう!』



 それにヨルムンガンドは楽しげに反応。

 一人と一匹は、むむむ、と唸り同じイメージを脳内に描く。鱗に覆われた尻尾、それが夏目の腰から生えるそんな姿を。



 すると、腰回りに違和感を覚えた。内側から、何かが這い皮膚を突き破ろうとする感覚。不快とは感じずむしろ、モゾモゾとして落ち着かないのだがそれでも続けてみるとプチッ、と痛みはないが皮膚が裂ける感触と何かが体の内側から這い出てくる。



 視線を腰へ向ければ、そこにはピョコと鱗に包まれた小さな尻尾が生えているではないか。

 これには夏目とヨルムンガンドが大声を出して驚く。



「うぇぇえええええええええっ!?」

『ほ、ほんとに生えちゃったよ!?』



 尻尾が生えないか試そうと言い出したお互いが、それを見て馬鹿みたいにおかしな反応をする。



 脱衣所で叫ぶ声に、帰宅したばかりの美哉と彼女の護衛についていたフェンリルの両方が、何かあったと心配し飛んでくる。



「夏目、どうかしましたか!?」

「愚弟、どうした!?」



 と焦った声と共に夏目を凝視。上半身、裸であちこちに鱗が現れ腰には小さな尻尾が生えている姿に、美哉とフェンリルもどう反応を返せばいいのか本気で困り果てる図へと。
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