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第四章 神山学園のレヴィアタン

第三幕 もう一つの証(1)

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 襲撃を受けたその夜、雪平家に集まる面々の表情は暗く空気が重い。



 その理由は明白だ。ニュースで報道されている内容、ネットにも取り上げられSNSでも様々な意見が飛び交う。

 報道では、ショッピングモール内の飲食店から火災が発生し火は瞬く間に燃え移り、周囲の店にも被害を出し原因不明の爆発と崩落。



 休日で客が多く、一部の通路が崩落し鎮火と救助が遅れたと。

 ネットの記事は報道と変わらないが、SNSでは違う意見が呟かれていた。



『黒い巨人を見た』

『地震のような地響きがあったわ』

『誰かが放火したんだ』

『ヤクザ絡みの乱闘だな』



 などと書き込まれている。御三家が働きかけた結果、真実は一般市民に知られることはないがそれでもこの町に、爪痕を残していった神獣スルト。



 幸いにも死者は出ておらず、しかし御三家は怒り心頭。現当主たちが集まり話し合っている最中。

 重い空気の中、春人が口を開く。明るい声で、ここにいる全員へ。



「事情は聞いたけれど、このままというわけにはいかないね。この借りは、きっちりと返さないと。倍返しで」



 春人の発言に真冬が不敵な笑み作り、バシッと拳で手の平を軽く叩く。



「ええ、それはもう倍以上で返す。あぶり出すために、組んだ一日だったけどここまでされればさすがに頭にくるわ」



 笑ってはいるものの、声には怒りが込められていた。いくら作戦とはいえ、何より大切な陽菜にも危険が及んだことが真冬の怒りを買ったようだ。

 徹底的に、神殺しも神獣も叩きのめす気でいる真冬。



「しかし、これで向こうも本気でこちら側を殺しにくるでしょうね」



 そう言うのは美哉だ。敵も、契約を交わした神獣スルトを一時的にとはいえ戦闘不能にしたのだ。このまま、黙っているはずがない。



「スルトが完全に回復するまでは目立つ動きはしないはずです。その間に、敵の神殺しとスルトを閉じ込め周囲に被害が及ばない戦いの場を作る必要がありますね。それと同時進行で、あの巨人を殺せる手段を得るのも」



 と、語る美哉の言葉に誰もが考える。スルトへ与えらる術を持てるのは誰かと。そして、ある一人を見つめた。



 覚醒したとしても、まだ弱くギリギリで勝てる状態。だが、神獣が持つ元来の神通力をその身に纏い扱える。何よりこの短期間で、二体目とも契約を交わしましてやその神獣が神の子であり兄弟。



 その主たる夏目を、誰もが見つめその視線に気づき困惑する当人。

 右見て、左見て固まる夏目は自身で人差し指を向け「俺?」と。



「そうです。夏目しかいませんね」



 美哉の一言に頷く面々に叫ぶ夏目。



「ちょっ!? いやいやいやっ! 無理だろ! あれだけやられた俺なのにっ!?」



 手を左右に振り乱し、首も横に振る夏目の肩に燐がポンッと手を置く。



「大丈夫だ、夏目。わたしもいるしまた、特訓して習得すればいいだけの話」

「そうね。夏目くんには、フェンリルさんとヨルちゃんがいるし、あたしたちもいる。何も一人で戦うわけじゃない。夏目くんを護るのも友人として当然のことよ」



 などと、燐と桜が励ますかのように言う。

 ちなみに、桜はヨルムンガンドのことをヨルちゃんと呼び可愛がっていてくれてたりもする。



 それでも、夏目はスルトにボコボコにされ勝てるイメージが全く浮かばない上に次の敵は神殺しもいる。

 そう考えると、やはり無理だと頭を横に振りアホ毛も拒否を示す。

 頑な夏目へ美哉がそばに寄り、胸へ抱き寄せ頭を撫でる。



「み、美哉!?」



 今この状況で何をするんだと、引き剥がそうとするが美哉は優しい声で言う。



「大丈夫ですよ。夏目ならできます。今までもそうだったはず。使徒とぶつかり、春人とも戦い夏目は勝利しているでしょう?」

「そ、それは……」



 言い淀む夏目の言葉を被せるように美哉は続ける。



「何も問題はありまあせん。私がそばで支えます。今も、これから先も。一度の敗北で折れる夏目ではないこと、私が一番知っていますから。それに、ボコボコにされたからには倍でやり返しているじゃないですか」

「…………」



 美哉の胸に抱かれ押し黙る。勝てる自信はない。ないが、ここまで言われても無理だなど口にできない。

 怖い。あの炎で体を溶かされたら、攻撃が一切通用せず、殺される恐怖がある。



 今までは運が良かっただけとも思う。

 燐や桜、何より美哉がいたから勝てたのだと。



(――っ! 本当にそれだけか……?)



 そこまで考え、ハッとする。燐も桜も言っていたではないか。夏目は、一人で戦うのではない。



 そばには誰がいる? その身を全て任せられる、相棒を忘れてはいないか?

 頭に浮かび、顔を上げる夏目の視線と、微笑む美哉との視線が絡み合う。

 フェンリルとヨルムンガンドも傍らにいる。



(そっか、そうだよな。俺は一人じゃない)



 一度、美哉を強く抱きしめゆっくりと離れ前を向く。



「分かった。何とかできないか、フェンリルとヨルムンガンドと一緒に編み出してみる」

「ええ。夏目たちなら必ず編み出せます」



 根拠なんてない。それでも、美哉は信じているのだ。ずっとそばで見てきた夏目なら、必ずやり遂げてくれると。

 だから、彼女は笑顔で彼の背中を押す。



 こうして、敵の神殺し並びにスルト対策に新たな必殺技となり得る力を編み出す特訓が始まろうとしていた。
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