上 下
83 / 220
第四章 神山学園のレヴィアタン

風紀委員長の襲来(3)

しおりを挟む
 美哉に指示された校舎方面へ向かう夏目。しかし、後ろから息を切らすこともこの上なく楽しげな顔と笑い声が迫る。



 駆ける速度も体力もアスリート選手以上のものに恐れを抱く。



「な、なんでっ、息を……切らすこともなく、速度も落ちずっ、追いかけ続けられるんだよ!?」



 夏目は、苦しそうに息を切らし体力が底を尽きそうで走る速度も落ちてきていた。



『言葉より脚を動かすがよい!』

「む、無茶なっ……!」



 フェンリルンに急かされ、立ち止まり脚を休ませる暇もなく走り続ける。



「こ、校舎が見えてきた……!」



 校舎が見え、美哉との合流地点だと胸を撫で下ろす夏目に思いもよらないことが起きた。

 一歩、踏み出した瞬間に地面がぬかるみ右足を取られ前のめりに転けたのだ。



「おわっ!? うげっ!」



 右足を見えれば水を含んだ地面に飲まれ抜けない。



「な、なんでっ!?」



 昨日、雨は降っておらずそれどころか晴天だった。今日も昨日同様に雲一つない晴天。

 ましてや、踏み込んだ一箇所だけがぬかるむなどありえない。



 何が起きてどうしてこうなったのか、足に力を入れても抜けず手で引っ張っても抜けない状況に脳内はパニックを起こす。



(な、なんだよこれ!? なんで抜けないんだ! ちょっ、早く抜けろ!)



 そこへ、背後に誰かが立つ気配がする。追いかけ回していた先輩だ。



「中々、楽しめたわ後輩くん。同じ神殺しとの鬼ごっこもいいわね」



 彼女は、夏目を見下ろし笑いかける。その言葉に、頭の中に浮かび上がる人物が一人。



 ――風紀委員長。



(た、確か風紀委員長も同じ神殺しだって、美哉から聞いた気が……)



『この地面、神獣の能力によるもので間違いない』



 フェンリルも念話で夏目に伝え、ヨルムンガンドはぬかるむ土を頭で必死に掻き出し右足を抜こうとするが、どこからとなく水が止めどなく溢れ出し上手くいかない。



「これ、ただの水じゃないよ! 夏目の足首に纏わりついてどうにもできない!」



 叫ぶその声は、背後に立つ彼女にも聞こえている様子で口の端を吊り上げる。



「当然でしょ。その水は、私の神獣の能力よ。そう簡単にどうこうこなんて、できやしない。さて、怖い幼なじみが来る前にさっさと終わらせましょうか」



 そう言って、夏目の目の前に移動ししゃがみ込み手を伸ばす。



「…………っ!」



 その手は顔へ近づき、目を開き固まった。鼓動が早く脈を打ち危機感を募らせる夏目。



 むぎゅっ、と頬を片手で挟まれ唇が尖り間抜けな顔に。



「??????」



 頬を挟まれた状況に、ますます脳内がパニックを起こしアホ毛が動く。グルグル回転し、疑問符をいくつも浮かび奇妙な動きをするアホ毛。



 それを見ていた彼女が、もう片手でそのアホ毛を掴み上げ引っ張った。

 脳天に痛みが走り、苦痛な表情になり叫ぶ夏目。



「いっ!? いはい! いはいいはいっ!」



 アホ毛を掴む彼女の手首を夏目も掴み、引き離そうと力を込めるが手放されることはなくむしろ余計に上下左右に引っ張られた。



「この髪の毛、どういう仕組で動いてるわけ? 生き物?」

「いはいって! はなへ!」



 グイグイと引っ張られ、涙目の夏目を助けようとフェンリルが影から小型犬サイズとなって姿を現し吠え、ヨルムンガンドも透明化を解き同時に彼女へ威嚇。



「主から離れよ小娘!」

「夏目をいじめるな!」



 二体の神獣を見ても動じず、むしろもっと楽しくなってきたじゃないと言いたげにニヤリと笑って見せる。



「ようやく姿を見せたわね。じゃあこっちも」



 彼女の影が揺らめき、そこから白い鱗と翼を持った手足のない小型の龍が現れた。



「「「――――ッ!?」」」



 これには、夏目を含む誰もが驚く。まさか、龍が出てくるとは思っていなかった。フェンリルは、己が持つ知識から白い龍を検索する。



 ヒットしたのは二体。白い竜とレヴィアタン。



「少し遊んであげな」



 自らの神獣に命ずると、白い鱗を持つ龍はフェンリルとヨルムンガンドを見つめ体から水を出す。



 その水は、意思を持つかのように鞭となり襲い掛かる。

 頭上から叩きつけるように振るわれ、フェンリルとヨルムンガンドは夏目から引き離され退避。



「に、兄さん! 夏目から離されたよ!」

「分かっておる!」



 地面に当たりバシャンッ、と水が弾けるがその水は土に吸い込まれることはなく鞭の形へ戻り、夏目の神獣に攻撃を続け、木にぶち当たり弾けても元に戻る。



 フェンリルの反撃で爪を繰り出すが、水のため切れず意味をなさない。

 ヨルムンガンドは、威力を抑え猛毒を白い龍に向けて吐き出す。



 しかし、白い龍は水の塊を口から吐き出し猛毒を包み込む。水の中で、浄化されてしまい無力化されヨルムンガンドには打つ手なし。

 これには夏目は冷や汗が流れ、フェンリルは焦りを覚える。



(な、何かないか!?)



 いくら思考を巡らせても案が浮かばず、それどころか身動きが取れない夏目。



「夏目!」



 そこへ、聞き慣れた声がする。



「チッ。早いお出ましで」



 彼女も声がする方へ視線を向け舌打ちをし、自身の神獣へ攻撃をやめるよう顔で命ずる。



 フェンリルとヨルムンガンドも、現れた美哉の姿を見て一安心。

 美哉は、夏目の頬とアホ毛を掴む彼女へ珍しく殺意を向け言い放つ。



「その手を放してください。これ以上、夏目を傷つけるのなら容赦はしませんよ?」



 この場の空気が、美哉の放つ冷気で文字通り凍てつく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...