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第四章 神山学園のレヴィアタン

風紀委員長の襲来(2)

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 その頃、燐と桜は風紀委員会室に来ていた。呼び出しを受けてこうしてやって来たのはいいが、まさかの呼び出した当の本人こと風紀委員長が不在。



 なら何故、昼休みに呼び出したんだ! と内心で怒る燐。

 せっかく、夏目くんが誘ってくれてみんなで昼食が摂れると思ったのに……。と桜も内心でショックを受ける。



 風紀委員長が生徒を振り回す、困った人でもあるのだ。



「不在なら、放課後にまた来る」

「そうね。そうしましょうか」



 そう言い、出て行こうとする二人を委員が引き止める。



「委員長ならすぐ来ますのでここでお待ちを」



 扉の前を陣取る二人の委員と引き止める一人。



「……呼び出しの理由は?」



 燐が問うても、返答はなく無言を貫かれる。

 怪しい。理由も、留められる訳も、何一つ語らない委員たち。そして、不在の委員長。



「桜」

「なに?」



 小声で話す。



「強行突破する」

「分かったわ。でも、そのあとは?」

「とりあえず、生徒会室へ向かう。あそこなら先輩と会長もいるはずだ」

「風紀委員のこの態度といい、委員長の不在も気になるものね」

「ああ。いくぞ」

「ええ」



 話し終えると、燐は出入り口を塞ぐ二人の元へ力づくで退かす。二人の委員の腕を掴み上げ、もう一人の元へ突き飛ばす。



「悪いが、お前たちに付き合う暇はない」

「燐、行くわよ」



 風紀委員会室を出て、早足で生徒会室へ向かう。




 美哉は、というと生徒会室に来ていた。春人から、風紀委員長が動き出したという情報を得たからだ。



 生徒会室には、テーブルとソファーが置かれている一角がある。そこに、向かい合う形で座る美哉と春人。



「そろそろ動き出す予感はしていたんです」

「まあ、彼女なら放っておくなんてことできないだろうから」



 二人共、風紀委員長を思い浮かべながらため息が吐き出された。なにせ、彼女は困った性格の持ち主。何事にも楽しむ、それはいい。



 なのだが、楽しむ方向性が厄介なのだ。楽しむあまり壊してしまう癖があった。それはもう、迷惑をかけるほどに。



 それは、人の私物だったり学園が管理する物だったり、時には役職などなど。風紀委員長の座も、前任から奪い今まであったルールさえも壊して一から新しいルールを作り、メンバーも再編成するという暴君っぷり。



 まあ、一般生徒からの支持は高いが。風紀のルールの服装や髪型、部活で必要な物でさえ不要と独自に判断し没収されるなど細かい上に厳しいという不満の声が上がっていたのだ。



 それらを一新させ、他の生徒に迷惑をかけないのなら髪型は自由、服装も少しなら着崩し、下に着込むのもOK。部活で必要であり授業中に触れないのであれば持ち込みも可能。



 漫画、ゲーム機、その他諸々。

 さて、話を戻すと本人には壊したとしても全く反省も、気にもしないため扱いに注意がいる。



 その反面では、仲間思いで何かと手を貸してくれる。

 何より、重要なのが彼女も神殺しの一人ということだ。



「彼女が動いた理由はやはり」

「美哉の想像通りだろうね。逢真くんだよ。まだ覚醒して二ヶ月。それなのに、使徒を倒し僕にも勝利を掴み取ったんだ。彼女が放っておくことはないだろう。何より、新たな神獣と契約を交わした規格外の存在」

「……はあ~。本当に困った人ですね」



 頭を抱え深いため息を吐き出し言葉同様に困り果てる美哉。



 美哉にも、彼女が動く理由に心当たりがあるのは確かだ。誰であろうと興味を示さず、春人との縁談を拒絶していたはずの自分が、夢中になる男が現れたと知れば面白がるに違いない。



 夏目へ勝手に接触される前に彼女を紹介した方がいいと考える美哉と春人の元へ、ノックと共に燐と桜が生徒会室へやって来る。



「桜? どうかした? お昼休みに生徒会室へ来るなんて珍しい」

「それが、実は――」



 桜へ、訪れた理由を訊けば簡潔に答える。



「はあ~……」



 その説明に美哉は嫌な予感がし、春人も同じのようで珍しく額に手を当て深いため息を一つ。

 二人の様子に燐と桜は顔を見合せた。



 美哉はスマホを取り出し、夏目へ電話を入れる。数秒後、スマホから夏目の焦りと恐怖が入り交じる声が聞こえた。



『――み、美哉か!?』

「夏目? 何かあったのですか?」

『――あった! あったよ! 笑いながら先輩の女子に追いかけられてるんだ! なんだよあの人!? 走るの速いし、なんか怖いし!』



 美哉の頭の中に、そんな奇行じみた行動をするのは一人しかいない。



『――笑い声が後ろからずっとしてて! いつまでも追いかけ回すんだよ! 楽しげに笑って、ヨルムンガンドのことも見えてた! フェンリルが危険だって、それで逃げてるんだ!』



 荒い息遣いで話す夏目。今も、追いかけ回され逃げている最中なのが声だけで分かる。



 美哉と春人は確信する。彼女は、燐と桜を夏目から引き離しその上で接触し逃げる彼を追いかけて楽しんでいるのだと。



 美哉の表情が変わっていく。笑顔だが、目が一切笑っていない。



「夏目、校舎の方へ向かってください。すぐ、私も合流します」

『――わ、分かった!』



 電話を切り立ち上がる美哉は、生徒会室の扉でがなく窓際へ向かう。



「せ、先輩? 出て行くならあっちじゃ……」

「あの美哉先輩?」



 二人の話に聞く耳を持たない美哉は、そのまま身を乗り出し飛び降りた。



「ちょっ、先輩!?」

「美哉先輩!?」



 その行動に驚く二人。

 春人は、やれやれといった様子で肩を竦めまたため息が出る。



「二人共、すぐ美哉のあとを追いかけた方がいいよ」



 困った笑顔で言い、燐と桜は慌てて生徒会室を扉から出て行く。

 静かになった生徒会室に一人残り、追いかけ回されて怖い思いをしているであろう夏目へ。



「この学園きっての厄介者に狙われてしまったね。逢真くん」



 と、紅茶を飲みながら同情してしまう。
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