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第三章 林間合宿と主なき神獣
主なき神獣は居場所を得る(2)
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ヨルムンガンドを湖に沈め元に戻ることを願う夏目へ、フェンリルから念話が届く。
『主よ。ヨルムンガンドにかけられた洗脳なのだが、より強い力で上書きを施せば洗脳が解けるようだ』
「ほんとか!?」
その話に湖を見つめていると水面が激しく揺れ、奇声を上げるヨルムンガルドが這い出てきた。その目は、未だに洗脳の効果が効きこちらの声が届くような状態ではない。
「ちょっ、あれだけ殴ったのに効いてないぞ!? フェンリル、どうやって上書きとやらをすればいい!?」
『力をぶつける他あるまい』
「それができれば苦労はしないと思うんだが!?」
夏目が訊けば、フェンリルは簡単そう言ってくれる。困り果てる間にも、ヨルムンガンドの攻撃が襲う。
口から吐き出した猛毒の吐息が、周囲の植物を腐植していく。その場から離れる夏目へ、ヨルムンガンドは胴体を地面につけ這う。
距離を一瞬で詰められる速度で背後から生え揃う牙を剥き、頭を振り上げ丸呑みする勢いで口を地面へ叩き落とす。
「んなっ!?」
――ドンッ!
つかさず横へ飛び退き、頭突きと口から難を逃れる夏目。そこには、頭を叩きつけて生まれたクレーター、目は獲物を執拗に狙う捕食者そのもの。
何度も繰り返す頭突きに躱すのが精一杯。地面は、何度も地響きを起こし土煙を巻き上げクレーターが増える一方。夏目は、ヨルムンガンドの背後を取るべく駆ける。
そのあとを這い追うヨルムンガンド。
ボギボギ、バギバギ、と木々を薙ぎ倒し草木を押し潰し、口の端からもれる猛毒の息を吐き続ける。このままだとこの辺り一帯が、神獣の猛毒によって再生不可能なほどの被害を受けかねない。
「…………っ!」
背後から迫りくる神獣へ視線を向け、目の前には植えられた大木に足をかけ補佐の役割にして体を一回転させ、迫るヨルムンガンドの背に飛び降り着地。
目の前の大木も簡単にへし折り、薙ぎ倒し這う行為は止まらない。それどころか、夏目が背中に飛び乗ったことに気づき胴体を起こし振り落とそうと暴れ狂う。
「おわっ!? あ、暴れるな!」
鱗に指をかけ振り落とされないよう掴む夏目だったが、鱗が指の腹に刺さり痛みで力が抜け手が離れてしまい空中へ放り投げられた。
「し、しまっ……!?」
その隙きを逃さない神獣の目は完全に無防備の夏目を捉え、尻尾を体へ叩きつけてみせる。横からきた尾を、防ぐこともできず脇腹へ直撃し視界から風景が消えた。数十メートルと吹き飛ばされ、肋骨からメキメキと嫌な音が聞こえる。
「うぐっ……! いぎっ……!」
受け身を取る余裕もなく、樹木の大小の枝を折って落下し地面に転がる体。
「あぐっ、がはっ……。ごぶっ、げほっ……」
咳き込み、血反吐を吐き出す夏目の視界は回り気持ち悪い。さっきの一撃で肋骨の数本が折れた、と内心で思う。
すぐには立ち上がれず、ジャージの至る所が破れ肌が露出しそこから血が流れ衣服を赤く染めていく。脇腹の肌は、紫色に変色し見るからに痛々しい。
神通力を纏っていながらもこの傷に歯軋りをする夏目。そこへ、ズンズンと地面から伝わる振動に顔を上げた。
「こ、これはやばいかも……」
虚ろな目をしたヨルムンガンドと目が合う。口から唾液を垂れ流し、牙を剥き出し夏目の頭上から頭を落とす。体を動かせず避けられない夏目はそのまま口の中へ。
噛み砕こうと顎に力を込め、それを何とか腕と脚で踏ん張り防ぎ耐える。しかし、喉の奥から猛毒を吐かれ吸い込んでしまう。
「ぐぬぬっ……! 喰われてたまるか! ……って、おいおい!? まさか、毒を……いつっ! うんんっ!」
体から力が抜け、肩と脚に牙が食い込み苦悶の声がもれた。ヨルムンガンドは、牙から伝わる感触に頭を振り乱し、その勢いで口の中にいた夏目の体勢を崩す。
倒れた体に、生え揃う牙が襲いかかる。
「ガァブゥッ」
口を閉じるヨルムンガンドとその様子を見ていたフェンリル、燐と桜が同時に叫ぶ。
「主!」
「夏目!」
「夏目くん!」
相棒を喰らう弟の口の隙間から赤い鮮血が滴り落ちていく光景にフェンリルは怒り心頭。
「ヨルムンガンドッ!!」
地を蹴り、高く跳躍し弟の横顔へ頭突きを見舞う。爪を剥き出して鱗を引っ掻き、太く鋭い爪が鱗を剥ぎ取り露わになった皮膚へ、容赦も情けもかけず青い炎を吐き焼く。
「ウウッ、ハアッ!」
「ギャァァアアアアアアアアアアアッ!」
引っ掻かれ、剥ぎ取られ、焼かれる痛みから盛大に苦痛の声を上げ口を大きく開けた。その際に口の中へ飛び込むフェンリルは、舌の上で横たわる夏目の首根っこを咥え回収。地面へ着地し、何度も呼び掛ける。
「主! しっかりしろ、主!」
全身、血まみれだが息をし意識があった夏目はフェンリルの呼び掛けに反応。
「フェ、フェンリル……。し、死ぬかと思った……」
血の塊を吐き出しながらこぼす。
「すぐ治療する! もうしばらく耐えよ!」
夏目とフェンリルの元へ駆け寄る燐と桜。
フェンリルにありったけの神通力を流してもらい傷を癒やす。穴が空いた肩と脚といよりも太ももを中心に塞ぐ。
「よく四肢が無事だったな……」
燐は傷を見て一言。これには夏目も、本当にな、と答える。
「とはいえ、夏目くん一人にヨルムンガンドの相手をさせるのは間違いね」
「ああ、そうだな。わたしたちも戦うぞ。どうにかして、ヨルムンガンドの洗脳を解かなければ、お互いにとって最悪の結果になる」
「それなんだが、俺に考えがある」
「主よ、どうするつもりだ?」
傷を癒やし終わったフェンリルに訊かれた夏目は、体を起こしゆっくりと立ち上がる。
「より強い力で上書きだろ? だったら、俺とフェンリルの必殺技で解く。蒼炎を使って、ヨルムンガンドを何が何でも連れて帰るんだ」
「くくっ! なるほど、蒼炎ならばいけるであろうな」
返答を聞いたフェンリルは、口の端を吊り上げ笑い応えてくれる。そんな相棒に夏目も笑みを浮かべ強く頷いた。
『主よ。ヨルムンガンドにかけられた洗脳なのだが、より強い力で上書きを施せば洗脳が解けるようだ』
「ほんとか!?」
その話に湖を見つめていると水面が激しく揺れ、奇声を上げるヨルムンガルドが這い出てきた。その目は、未だに洗脳の効果が効きこちらの声が届くような状態ではない。
「ちょっ、あれだけ殴ったのに効いてないぞ!? フェンリル、どうやって上書きとやらをすればいい!?」
『力をぶつける他あるまい』
「それができれば苦労はしないと思うんだが!?」
夏目が訊けば、フェンリルは簡単そう言ってくれる。困り果てる間にも、ヨルムンガンドの攻撃が襲う。
口から吐き出した猛毒の吐息が、周囲の植物を腐植していく。その場から離れる夏目へ、ヨルムンガンドは胴体を地面につけ這う。
距離を一瞬で詰められる速度で背後から生え揃う牙を剥き、頭を振り上げ丸呑みする勢いで口を地面へ叩き落とす。
「んなっ!?」
――ドンッ!
つかさず横へ飛び退き、頭突きと口から難を逃れる夏目。そこには、頭を叩きつけて生まれたクレーター、目は獲物を執拗に狙う捕食者そのもの。
何度も繰り返す頭突きに躱すのが精一杯。地面は、何度も地響きを起こし土煙を巻き上げクレーターが増える一方。夏目は、ヨルムンガンドの背後を取るべく駆ける。
そのあとを這い追うヨルムンガンド。
ボギボギ、バギバギ、と木々を薙ぎ倒し草木を押し潰し、口の端からもれる猛毒の息を吐き続ける。このままだとこの辺り一帯が、神獣の猛毒によって再生不可能なほどの被害を受けかねない。
「…………っ!」
背後から迫りくる神獣へ視線を向け、目の前には植えられた大木に足をかけ補佐の役割にして体を一回転させ、迫るヨルムンガンドの背に飛び降り着地。
目の前の大木も簡単にへし折り、薙ぎ倒し這う行為は止まらない。それどころか、夏目が背中に飛び乗ったことに気づき胴体を起こし振り落とそうと暴れ狂う。
「おわっ!? あ、暴れるな!」
鱗に指をかけ振り落とされないよう掴む夏目だったが、鱗が指の腹に刺さり痛みで力が抜け手が離れてしまい空中へ放り投げられた。
「し、しまっ……!?」
その隙きを逃さない神獣の目は完全に無防備の夏目を捉え、尻尾を体へ叩きつけてみせる。横からきた尾を、防ぐこともできず脇腹へ直撃し視界から風景が消えた。数十メートルと吹き飛ばされ、肋骨からメキメキと嫌な音が聞こえる。
「うぐっ……! いぎっ……!」
受け身を取る余裕もなく、樹木の大小の枝を折って落下し地面に転がる体。
「あぐっ、がはっ……。ごぶっ、げほっ……」
咳き込み、血反吐を吐き出す夏目の視界は回り気持ち悪い。さっきの一撃で肋骨の数本が折れた、と内心で思う。
すぐには立ち上がれず、ジャージの至る所が破れ肌が露出しそこから血が流れ衣服を赤く染めていく。脇腹の肌は、紫色に変色し見るからに痛々しい。
神通力を纏っていながらもこの傷に歯軋りをする夏目。そこへ、ズンズンと地面から伝わる振動に顔を上げた。
「こ、これはやばいかも……」
虚ろな目をしたヨルムンガンドと目が合う。口から唾液を垂れ流し、牙を剥き出し夏目の頭上から頭を落とす。体を動かせず避けられない夏目はそのまま口の中へ。
噛み砕こうと顎に力を込め、それを何とか腕と脚で踏ん張り防ぎ耐える。しかし、喉の奥から猛毒を吐かれ吸い込んでしまう。
「ぐぬぬっ……! 喰われてたまるか! ……って、おいおい!? まさか、毒を……いつっ! うんんっ!」
体から力が抜け、肩と脚に牙が食い込み苦悶の声がもれた。ヨルムンガンドは、牙から伝わる感触に頭を振り乱し、その勢いで口の中にいた夏目の体勢を崩す。
倒れた体に、生え揃う牙が襲いかかる。
「ガァブゥッ」
口を閉じるヨルムンガンドとその様子を見ていたフェンリル、燐と桜が同時に叫ぶ。
「主!」
「夏目!」
「夏目くん!」
相棒を喰らう弟の口の隙間から赤い鮮血が滴り落ちていく光景にフェンリルは怒り心頭。
「ヨルムンガンドッ!!」
地を蹴り、高く跳躍し弟の横顔へ頭突きを見舞う。爪を剥き出して鱗を引っ掻き、太く鋭い爪が鱗を剥ぎ取り露わになった皮膚へ、容赦も情けもかけず青い炎を吐き焼く。
「ウウッ、ハアッ!」
「ギャァァアアアアアアアアアアアッ!」
引っ掻かれ、剥ぎ取られ、焼かれる痛みから盛大に苦痛の声を上げ口を大きく開けた。その際に口の中へ飛び込むフェンリルは、舌の上で横たわる夏目の首根っこを咥え回収。地面へ着地し、何度も呼び掛ける。
「主! しっかりしろ、主!」
全身、血まみれだが息をし意識があった夏目はフェンリルの呼び掛けに反応。
「フェ、フェンリル……。し、死ぬかと思った……」
血の塊を吐き出しながらこぼす。
「すぐ治療する! もうしばらく耐えよ!」
夏目とフェンリルの元へ駆け寄る燐と桜。
フェンリルにありったけの神通力を流してもらい傷を癒やす。穴が空いた肩と脚といよりも太ももを中心に塞ぐ。
「よく四肢が無事だったな……」
燐は傷を見て一言。これには夏目も、本当にな、と答える。
「とはいえ、夏目くん一人にヨルムンガンドの相手をさせるのは間違いね」
「ああ、そうだな。わたしたちも戦うぞ。どうにかして、ヨルムンガンドの洗脳を解かなければ、お互いにとって最悪の結果になる」
「それなんだが、俺に考えがある」
「主よ、どうするつもりだ?」
傷を癒やし終わったフェンリルに訊かれた夏目は、体を起こしゆっくりと立ち上がる。
「より強い力で上書きだろ? だったら、俺とフェンリルの必殺技で解く。蒼炎を使って、ヨルムンガンドを何が何でも連れて帰るんだ」
「くくっ! なるほど、蒼炎ならばいけるであろうな」
返答を聞いたフェンリルは、口の端を吊り上げ笑い応えてくれる。そんな相棒に夏目も笑みを浮かべ強く頷いた。
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