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第三章 林間合宿と主なき神獣

第四幕 弟の暴走(1)

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 林間合宿二日目。



 燐と桜と共に、使徒をどう退けるか話し合う。一応、林間合宿中に出された課題の一つに取り組みながら。



「あの洞窟が一番怪しいが、既にわたしたちに割れている以上、もぬけの殻だろう」



 燐曰く、あの洞窟へ行ったとしても何も得られるものはないと。それには夏目と桜も同意見だ。



 湖にも、ヨルムンガンドを保護した以上これといって用はなく行く意味がない。使徒を見つけ、撃破が今の現状では難しい。



「一般生徒を巻き込むわけにはいかないもの。後先考えずに行動は以ての外、向こうからの襲撃も視野に入れておいた方がいいわね」



 そう考慮する桜。ヨルムンガンドはこのまま、夏目のそばに置くことになるがそうなると狙われている神獣と共にいる夏目にも危険が及ぶ。常に、そばに置き共に行動をしている。おまけに、夏目は一度訳も分からない能力で記憶と動きを封じられている。



 燐と桜の二人は揃って腕を組み考え込む。



「三人で動いた方がいいな」



 そう意見を出す燐に桜もそうねと答える。



「賛成。いつ使徒に襲撃を受けるか、あたしたちが分断される可能性もあるし」

「もし、分断されるとするなら夏目を一人にしてわたしと桜が一緒というのが一番、可能性が高い。わたしが使徒なら、その手を取る」

「あたしも、そうした上で夏目くんを孤立させて無力化を狙うわ」

「やはり桜もそう考えるか」

「ええ」



 そう話し合いながら、二人してうんうんと頷く。



 会話に加わらない夏目は、マフラーみたいに首に巻きつくヨルムンガンドの頭を撫でながら何故か四つ葉のクローバーを探していた。



 最初は、二人の話を聞いてはいたが作戦を練り始めた頃には丸投げ。経験も浅く、素人に近い自分があれやこれやと口を挟むより作戦の指示に従い動く、その方がいいと考え美哉へ幸せのクローバーを贈ろうと、地面にしゃがみ込み探している最中。



「四つ葉のクローバー、見つからないな……」



 などと呟く夏目。課題のオリエンテーリングは無視で。教師から渡される地図とコンパスを使って設置されたポイントを通過、学校行事の一環なので競うものではなくどれだけ正確にポイントを回収できるかというもの。



 夏目は、燐と桜と同じチーム。そして、今はそのオリエンテーリングの時間なのだが三人共、取り組んでますよという見せかけだったりする。傍から見て、地図を広げコンパスを片手に持ち、足を止め確認しているように見えるだろう。



 実際には、作戦を練っているのだが。



 夏目の首に巻きつくヨルムンガンドはテンションが高い。昆虫や鳥を見つけては、目を光らせはしゃぐがただしその内容が狂気に満ちていた。



「あの昆虫、ガワは硬そうだけど足は小気味のいい音がしそう。中身は、どんな味がするのかな? お菓子みたいなものかな?」

「……………………」

「……はあー……」

「あっ、鳥だ! 小さいけど胴は肉つきが良さそうだね。丸焼きにして羽も全部、食べたいなあ」

「……………………」

「……はあー……」



 こんなことしか言わないため、返答に困り果てる夏目とフェンリルは、何も言わずただため息ばかりを吐く。



 ヨルムンガンドの頭の中が狂気と闇しか感じられず、決して生態には近づけないでおこう、と真剣に思う夏目。



「夏目」

「ん?」



 作戦を練っていた燐が話し終えたようで夏目のそばへ。



「作戦は決まったか?」

「ある程度はな。それはそうと、気になっていることがあるんだが」

「気になること?」



 顔を上げた夏目へ、燐はずっと気になっていたことを訊く。



「ああ。中学時代はどんな少年だったんだ?」

「はい?」



 素朴な疑問だ。燐からそんなことを訊かれるとは、思っていなかった夏目は一瞬だけ戸惑う。それにヨルムンガンドも気になったのか元気よく言う。



「それ、ボクも知りたい! 夏目はどんな風に過ごしてたの?」



 フェンリルも知りたい様子で、影から頭を出していた常態から小型犬のサイズとなり姿を見せる。



「そうだな~……」



 別に隠しているわけでもない中学時代を思い返し語る夏目。



「中学も美哉と同じ学校だったよ。クラスは三年間、別だったけどお互い部活には入らず帰宅部だったな」



 小学校の頃は、高学年になって友人と呼べる何人かと仲良くなった。小中と繰り上がる生徒が多く、クラスにも数人の友人がいた。しかし、その関係はすぐに崩れ落ちる。



 成長と共に美哉は可憐に美しくなり、異性から好意の眼差しを向けられる回数が格段に増えた。容姿で同性からの視線も、むろん性的な意味でも見られるように。



 おまけに、雪平の娘ということもあり玉の輿狙いで教師でさえも美哉に気に入られようと。その邪な思考を生徒も教師まで持ち、それを美哉が知らないわけも気づかないわけもなく。誰も近寄らせず、裏があると考えてしまい厚意すらも一切合切を拒絶した。



 学校で女子からの人気者、サッカー部やバスケ部などの運動部のエースと呼ばれる者たちが告白しても一刀両断の如く玉砕。



 そして美哉は、ずっと好きでいた夏目のそばに居続けた。結果、特に男子生徒はこれといって特に取り柄もない夏目を妬み卑下し、成績も普通でスポーツで活躍する能力もない、どこからどう見ても凡人そのもの。



 とはいえ、中には夏目と純粋に仲良くなろうとしてくれた生徒もいるにはいた。同じ掃除当番で話す機会があり、日直も重なることがあった。けれど、相手が女子だったため美哉は見せつけるように夏目との仲をアピール。オーラで近寄るな、馴れ馴れしくするなと女子を脅しそこで終了。密かに女子の間で広がり、恐怖から近寄らないように。



 この件について、夏目本人はあとで知り美哉の嫉妬に驚く。



 そうして男子たちの不満、鬱憤が行動に出る。クラスメイトも同級生も、夏目を見下し友人だったはずの彼らとは会話さえなくなり距離を開けられる。



 夏目自身、入学した一年は理由が分からず困惑したが進級し知る。二年生から、一人でいることを選び友人を作ることをやめた。



 昼休み、放課後は美哉と一緒にいるのが当たり前。いじめられることはなかったが、ぼっち中学生となり今でも友人を作ろうとは思わず、ぼっち歴を更新中。



「とまあ、こんな感じだな。まあ、面白い話でも何でもないだろ?」

「「「…………………………」」」



 軽いノリで話す夏目。表情からして、別に気にもせずこれといって何も思わないのは分かるのだが、相棒のフェンリルもヨルムンガンド、聞き出した燐の誰もが何を言えばいいのか戸惑うのだった。
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