上 下
61 / 220
第三章 林間合宿と主なき神獣

第二幕 調査開始(1)

しおりを挟む
 林間合宿の前日、夏目は自室で事前確認をしていた。



 燐と桜が裏で働きかけてくれたお陰で、班行動は彼女たちと共にする運びとなった。クラスメイトと行動を共にする必要がなくなり、気持ち的に楽で調査にも集中できることだろう。



「えっと、まずは宿舎に到着後は部屋に荷持を置いてロビーに集合っと」



 生徒たちも同様に部屋へ荷物を置いたあと、一日目は生態観察を行う予定だ。林間合宿の周りは森林に囲まれ、様々な生態を見ることができるようでそれらを観察し、レポートを取り提出。



 夏目たちは提出などはなくその間に、未確認生物とされている神獣が撮影された場所へ向かい調査開始。



「手掛かりを探す、といってもそう簡単に見つかるとは思わないが調べないと始まらないか」



 二日目も、調査といった具合いで遊ぶ暇はなさそう。何せ、この二泊三日で解決しなければならない案件だからだ。



「経ったの二日で解決とかハードになりそうだな……」



 少し不安があった。神獣関連となれば、最悪の場合はそれを狙う神殺しや使徒と戦闘となる可能性もある。



 一年ズだけで無事に解決できるのか、と考えてしまう夏目の部屋の扉が開きドライヤーを片手にワイシャツ一枚だけを着た美哉が入ってくる。



「……またその格好か、美哉」

「この格好の方が楽なんですよ? 締めつけがなくて」

「せめて髪くらいは乾かしてから来いよ。風邪引くぞ?」



 お風呂上がりの美哉は首にタオルを巻き、髪の雫を拭き取りながら机に向かう夏目の背後へ。背中に抱きつき甘えてくる。



「なら、夏目が乾かしてください」

「やれやれ……」



 どうせ離れろ、と言っても離れやしないし聞かないことを分かっている夏目は肩を竦めた。

 シャンプーと柑橘系の石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。夏目宅では、柑橘系の爽やかな香りの石鹸を使う。刺激が強い香り系は、夏目が嫌うためである。



「ほら、ベッドの前に座った座った。乾かしてやるから」

「うふふ。お願いしますね」



 ベッドに腰掛け夏目に言われた通り、ドライヤーを渡し背中を見せて足の間に座る美哉はご機嫌な様子。

 ドライヤーのスイッチを入れ、温かい風が美哉の紫色の黒髪を靡かせる。



「痛くないか?」

「ええ。大丈夫ですよ」

「そうか」



 撫でるように髪を指の隙間で梳かし乾かす。

 髪を乾かしてもらう最中、美哉は夏目へあることを伝える。



「そういえば、夏目。フェンリルには、妹と弟がいるんですよ」

「へぇ~、フェンリルに弟妹がいるんだな」



 これといって驚きもなく普通に返す。指に髪を通しながら、根本から毛先にかけ乾かしていく。



「妹はヘラ、弟はヨルムンガンドと言うんです。まあ、詳しくはフェンリルに聞くのがいいでしょうね」

「美哉って、そういうことに詳しいよな。神話とか神獣について」

「ふふっ。神話や神獣について知れば知るほど、奥が深く面白いものですよ」



 笑って返す美哉。今度、フェンリルに訊いてみようと思う夏目。ただ何故、今この時に言ったのか気になって訊く。



「どうして今、それを俺に言うんだ?」

「あの写真からでは断言できませんが、もしかしたら弟のヨルムンガンドの可能性があるからです」

「はっ? はいいっ⁉ えっ、なんで⁉」



 こちらの情報の方がよっぽど驚いた様子で叫ぶ。

 美哉は、何を根拠に言い出したのか。



「ヨルムンガンドの姿は蛇なんです。それに、数年前に目撃情報があり今回その可能性が高いと判断されました。だからこそ、春人は夏目に助力を申し出たのでしょうね。ただ、さっきも言いましたけどあの写真だけで、ヨルムンガンドだと断言はできませんけど」



 そう話す美哉。思いもしないところから、まさかのえにしが巡り会い尚のこと抹殺はしちゃいけないのではと考えてしまう夏目。

 髪を乾かし終わりドライヤーのスイッチを切ると、美哉は振り返り夏目へ。



「もし、ヨルムンガンドなら殺さず味方につけるべきです。何より、兄のフェンリルに弟を殺させるなんて結果は避けてください」



 真っ直ぐ見つめられ、夏目も美哉と同じ気持ちだ。相棒で、これからも先も共にいると決めたフェンリルに弟を殺させたくはない。



「ああ。分かってる」



 見つめ返し力強く頷く。



 翌日、正門の前に集まる一年生たち。

 林間合宿へ向かうバスに乗り込むためだ。



「………………バスか。そりゃあ、そうだよな……」



 バスを目の前に青い顔になる。事前に酔い止めの薬を飲んだが、吐かずに済むか不安しかない。夏目はバス酔いが酷い。車なら平気なのだが、どうもバスのように長い乗り物には弱く幼少期の頃からバスは酔って吐くためエチケット袋は必須。



(この時点で、なんか気持ち悪いような……)



 顔色が悪い夏目のそばに燐と桜が近寄る。



「大丈夫か? なんだか青い顔をしているが」

「夏目くん、もしかして車酔いが酷いとか?」

「あー、いや車は平気なんだが……バス酔いが酷くて」

「バス? ああ、そう言えば伝え忘れていたな。わたしたちが乗るのはバスではなくあっちだ」

「へっ……?」



 首を傾げ、燐が指差す方へ視線を向ければ離れた位置に一台の軽自動車が停まっていた。



「秋山家と東雲家の権限で、別の車を用意させてある。運転はわたしの家の者がしてくれる手筈になっていてだな、わたしたちは先に林間合宿場へ向かいすぐ調査に入る。時間が限られているからな、そのための処置だ」

「な、なるほど」



 燐の説明に顔色が少し戻り、内心ほっと安心する夏目。



「まあ、それが余計に夏目くんをクラスメイトから遠ざけてしまう原因でもあるけど。仕方がないとはいえ一般人とは色々、あたしたちはかけ離れているし」



 そう口にし横目で、集る生徒たちを見る桜。離れているため、夏目たちや用意させた車に気づく生徒はいない。



「と、とにかくだ。いつまでもここにいると面倒だから、そちらに乗るぞっ」

「お、おう」



 桜の言葉が聞こえていない様子の夏目は、燐に連れられ秋山家の者に荷物を預け後部座席に乗り込む。



 隣に桜が乗り、助手席には燐が。こうして、三人を乗せた車は先に林間合宿場へ向け走り出す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...