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第三章 林間合宿と主なき神獣

林間合宿の準備(3)

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 部室を飛び出し、生徒会室へと突撃する美哉。



 ノックもせず、生徒会室の扉を開け春人が座るデスクの前へ。他の生徒会メンバーは、美哉の唐突な登場に驚き作業を止めて凝視。



「どうしたんだい? こんな急に生徒会室へ来るなんて」



 と、笑顔で春人は普通に対応する。視線は書類に落とし、手にはペンを持ちながら訊く。



「春人。私も夏目と一緒に林間合宿へ行きます」



 笑顔で訊く春人へ突拍子もないことを堂々と言い放つ。それに対して、生徒会メンバーは困惑する中、美哉へ一言。



「うん。ダメだよ」



 しかし、そんな一言で引く美哉ではない。



「あのような写真を寄越しておいて、私を行かせない気ですか? 夏目に何か遭ってからでは遅いのですよ!」



 会長専用デスクを叩き、前のめりになった美哉は春人へ訴える。

 その姿をただ見守る生徒会メンバーたち。口を挟むべきか、美哉を止めるべきかと悩んでいるのが表情から見て取れる。



 副会長、会計、書記二人が生徒会メンバーだ。副会長と会計は美哉や春人と同じ二年、書記の二人は一年。何故、三年がいないかというと春人が生徒会長に就いたと同時に、メンバーを一新させた結果。



 前期の会長は仕事を副会長に任せ切り、会計も部費を当時の会長を支持する部活へ多めに割り当てるというあるまじき行為、副会長は勉学と生徒会の仕事に板挟みとなり体長を崩すという事態に。



 それを知った春人が一年でありながら立候補し、生徒から信頼を勝ち取り当選したと同時に悪事を暴き解散へと。



 そういう経緯から、生徒会メンバーを決める際は春人の意見が通るようになった。

 何より、美哉がこの二年で春人へ無茶な頼みをしてくるのは一度や二度ではないことを副会長と会計は知っている。



 部活を立ち上げる際にも、強引に進めようとし春人が注意したが聞かず挙げ句、その頃はまだ入学していない妹の桜と燐を巻き込む始末。

 二人共、神山学園を受験すると知っていた美哉が取った手だ。



 誰の言うことも聞かない強引さとわがままに振り回された春人が折れ、神話オカルト研究会が生まれた。



 話は戻り、春人は美哉へ告げる。



「美哉、彼を一番に信頼しないでどうするんだい? 逢真くんは弱くない、それに桜と燐くんもいる。僕は問題ないと判断し、任せるつもりだよ」

「…………っ」



 春人の言い分に押し黙る美哉。一番に信頼しないでどうするんだい、という言葉に何も言い返せない。



 その通りだと、内心では分かっている美哉だがやはり離れるのも林間合宿中に何が起きるのか不安が残る。



「そういうことだから、美哉は大人しく学園に残らなきゃダメだから」

「むぅ~」



 子供っぽく頬を膨らまし不満な表情の美哉。結果、美哉による春人への直談判は失敗に終わるのだった。



 その後、部室に戻り夏目と共に帰宅した美哉は未だに不服な様子。



「仕方がないだろ? 生徒会長の言い分が正しい」

「夏目は、春人の肩を持つのですか? 恋人の私ではなく?」

「あのなー……。美哉は一年じゃないだろ。二年の美哉が一緒に来てどうするんだよ。それに、燐と桜も一緒だし大丈夫だと思うけど」

「私は、夏目と離れるのが嫌なんです」



 駄々をこねる美哉に、困った子だと肩を竦める夏目。



「それに、渡されたあの写真に写っているのはおそらく神獣です」

「えっ……?」



 そう語る美哉の言葉に首を傾げる。



「神獣って、契約者なしでも現れるものなのか?」



 神獣に詳しいであろう、影に潜む相棒のフェンリルへ問う。



「うむ。稀にだが今回のようなケースが起きることはある。だが、契約者なしだと力が安定せず暴走を引き起こしやすい。そのため、そういう神獣は危険と判断され討伐対象となる。他にも、契約を求める者やその力が強力かつ危険性があると理解しながら、利用しようと企む者も多くいるな」

「なるほど。それで、生徒会長も捕縛または抹殺って言ってたのか」



 夏目の足元の影から姿を見せ説明するフェンリルの話に納得する。つけ加えるように美哉も言う。



「神獣は、神話に名を連ね語られている存在ですからその力も強大なんです。しかし、何故よりによって夏目たちが向かう林間合宿場に現れたのか……」



 駄々をこねていた表情とは変わり、真剣な顔つきで腕を組み考え込む美哉。それにフェンリルも気になっているため夏目へ伝える。



「主よ、警戒に越したことはないぞ?」

「そうだな」



 と、夏目も頷く。



「まあ、この件は一旦、置いておいて」

「ん? 美哉?」



 座っていたソファーから立ち上がる美哉は夏目の手を取り、そのまま歩き出し風呂場へ向かうその行動に慌てふためく。



「ちょっ⁉ み、美哉!」

「うふふ」



 引く手を振り払おうとするが、逃さまいと強く掴まれ振り解けず美哉を止められない夏目をフェンリルは見て見ぬふり。



「ま、待て!」

「待ちません。林間合宿へ行くまでは、お風呂も眠る時も常に一緒がいいんです」

「いや、それ普段と変わらないから! あと、風呂は省こう⁉」



 美哉曰く四六時中、共にしなければ気が済まないようで強引に夏目とお風呂へと入る。案外、力がある美哉にされるがまま脱衣所に連行されバズタイムへ。

 頭から体と綺麗に洗われていく。腰にタオルを巻き、左足の義足を取り外したため美哉の手を借りながら先に湯船へ浸かる夏目。



「やれやれ……。結局、されるがままになった」



 と柚子香る入浴剤の湯船に浸かり呟く。美哉は、ほどよい力加減で頭や体を洗ってくれるから気持ちよく、最初は拒否するも最後は任せてしまう。



「ふぅー……」



 息を吐き、横目で見る。湯気で見えにくいが、引き締まった腰と脚、動く度に揺れる豊満な胸、細い腕に白い肌、それとは対象的に目を引く紫色の黒髪。



(ほんと、美哉って人間離れした美しさを醸し出すよなあ……。あれって、恩恵を授かった巫女だからか?)



 などと考えてしまう。視線を水面へ移し、手で湯船のお湯で遊ぶ夏目の前に白い脚が映る。



「一人で水遊びですか?」



 洗い終わった美哉が、裸体を晒し目の前に浸かる。



「えっ、ああ、まあ……」



 向き合う形で浸かるため全部、見えてしまい目のやり場に困り視線を天井へと逸らす。



「ふふっ」



 美哉はというと、視線を逸らすどころか夏目の体を見て微笑み胸板に手を伸ばし触れた。



「ひゃぁあっ⁉」



 触れられた感触と撫でる指に素っ頓狂な声が出る。



「お、おいっ、美哉!」

「くすぐったいですか?」

「そ、そりゃあ、そうだろ!」

「うふふ。心臓の鼓動もこうして触れていると分かりますね」

「つっ……! て、手を退けてくれないか!」



 左胸に手のひらを押しつけ鼓動を確かめる美哉。夏目の視線はどこを見ればいいのか泳ぐ、何せ前を見れば裸体が上から下まで見える。



 見られて恥ずかしくない美哉は平気な顔で触り続け、夏目の方が耳まで顔を赤くしてしまう羽目に。その反応を目にした美哉の内心で、悪戯心が芽吹き次なる行動へ出た。



 スーッ、と夏目へ身を寄せ密着すると耳へ息を吹きかけ甘噛みされ体が震える。



「ふー、あむっ」

「ほわぁあっ⁉」



 変な声まで発してしまい風呂場に反響し、ますます顔を赤くしていく夏目。



(くっ。いつまでもやられてばかりだと思うなよ!)



 このままやられてばかりは癪だと、反撃に出ることに。身を寄せおまけに密着している状態の美哉も無防備だ。髪を結い上げ、首筋から肩まで露わになり隠すものはない。



 そこへ、お返しと言わんばかりに夏目は顔を近づけ吸いつき甘噛みをして赤い痕を残してやる。



「ちゅっ、ぁがぶっ」

「っ⁉ つっ……んっ、ぁあっ……」



 耳元で美哉の口から小さな喘ぎ声がもれた。綺麗に赤い痕を残せたことに、してやったりとドヤ顔を見せる夏目。



「どうだ! 俺だってやる時はやるんだぞ」



 勝ち誇るような顔、美哉からでは見えない箇所に痕をそれも奥手な夏目から残したという事実に、嬉しくなり自身も残したい欲求に駆られ同じことを返す。



「って、ちょっと待て! 仕返しされたら意味がないだろ!」

「私も、夏目に痕を残したいのでじっとしてください」

「つっ……!」



 暴れる夏目の動きを両手で封じ、首筋に噛みつき吸いついて赤い痕を残す。口を離し満足気に微笑み手を放すと今度は首に腕を回す。



「同じ痕が残りましたね」

「これじゃ、俺が仕返した意味がないだろうに」

「夏目……」

「ん?」



 至近距離で見つめ合う格好の夏目と美哉。



 ゴクッ、と息を飲む夏目へ小さく呟き目を閉じ顔を近づける美哉。その行動が何を意味しているのか気づき、一瞬だけ目を開いたがゆっくりと夏目も目を閉じる。



 湯船に浸かり密着した状態、隠すものもなく互いの体温を肌で感じ色々と当たる中でキスを交わすのだった。



 その頃、リビングのソファーを独り占めしていたフェンリルは寛ぐ。



「くわぁー……。のぼせない程度に楽しむが良い」



 恋人の時間を邪魔するつもりなど毛頭なく、欠伸を一つしてそう呟く。
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