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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

エピローグ

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 決闘を見守っていた御三家の一つ、東雲家の当主は一言。



「青春ですね」



 春人と桜の母親、東雲陽乃しののめはるのは頬に手を当て笑顔。息子が敗れ重症の身ではあるが、これは子供の喧嘩ではなく神殺しの決闘。いくら母親であり当主だからと、相手の夏目を憎むことも責めることもない。



 むしろ、内心では春人を東雲の都合で振り回し望まぬ未来を押しつけようとした今回の縁談を、どういう経緯や形であれ白紙にしてくれたことに感謝すら感じるほどだ。



 陽乃の隣で静観していた秋山家当主、燐の父親の秋山橙次あきやまとうじは目線をある人物に当て問う。



「これでも尚、引き裂きたいかね?」



 と、唇を噛み夏目を窓から睨みつける雪平幸助ゆきひらこうすけへ。



 幸助は、美哉の父親だ。そして、この縁談を押し進めた張本人。彼は、鬼の形相で認めたくない様子。



 実の息子の独断で仕出かした此度の件について、今まで孫娘を道具とし我が物としようとしたことで父親失格と判断した玄也。



 巫女、権力、欲望、己の欲にまみれたとしても娘を大切に思う気持ちがあるのだと信じていたかった。故に、幸助の判断に任せていたがこれ以上は見過ごせない。



「幸助。雪平当主として、此度の独断に秋山家と東雲家を巻き込んだ件、責任を取ってもらうぞ。この場でお前を雪平から破門とし、家族の縁を切る。今後、雪平の門を潜ることも美哉に近づくことも許さぬ。もし近寄ろうものなら、雪平の権力を以て排除する。よいな?」

「なっ……⁉」



 有無を言わさない圧を掛ける玄也に何も言えない幸助。まさか、破門と絶縁を言い渡されるとは予想していなかったよう。



「……っ! くそったれ!」



 実の父親、当主に告げられ辺りに怒り散らし出て行く幸助。その後姿を誰も引き止めることはなかった。



「愚かな息子よ……」



 玄也はそうこぼす。

 こうして、神殺し同士の決闘は幕を閉じる――。





 数日後、美哉は超がつくほどのご機嫌で荷解きをしていた。鼻歌を口ずさむほどだ。



「~~♪ ~~♪」

(すっごい、機嫌がいいな美哉)



 と思う夏目。あれから色々とあり、玄也から正式に許可を得て同棲が決まった。

 決闘後、燐から聞いた話では今回の決闘を望み敗北を求めたのは春人自身。美哉との縁談を壊して欲しかったらしい。



 春人曰く、美哉とは友人として今後も関係を築きたい、一度も彼女を異性として見たことはなかったそうだ。なにせ、好みのタイプではない上に自分も本気の恋愛というものを経験したい、神殺しとして東雲の者としての役目に縛られ続けるのは受け入れ難い、それが彼の想いだったようで。



(生徒会長も大変なんだな)

(御三家の者となれば、何かと自由が利かないのだろう)

(そういうものか……。まあ、本気で縁談を望んでいなかったのは俺としてはホッとしたけど)

(だからか、敵意や殺意が感じられなかったのだろうな。とはいえ、あの者は強くなるぞ)



(ん? どういうことだ?)

(分からぬか? 縁談の決闘とはいえ、主にあれほどやられて敗北したのだ。この敗北という気持ちを糧に精進すると、我輩は見た)

(あれより強くなるのか生徒会長は⁉)

(うむ)

(俺、もう生徒会長とは戦いたくない……)



 などと、フェンリルと念話で話す夏目は肩を落とす。死にかけて、大量に血を出して吐いてやっとの思いで勝利を掴んだというのに、またそれも相手が強くなってぶつかり合うのは心の底から拒否したい。



 噂の春人は今も療養中。いくら神殺しとはいえ、神の子であるフェンリルが持つ本来の力をその身に受ければただでは済まない。傷の治りが遅く、体力も気力もほどんど残っておらずフェニックスも完治するまで時間が必要。



 そのそばで桜が献身的に世話をしているそうだ。

 燐も、橙次に「良くやった」と褒められ本格的に夏目の護衛の役目を直々に担うことに。



 美哉の父、幸助は今回の件の責任を取る形で雪平家を破門と絶縁という形で処罰されたと。



(俺の知らないところで、色んなことが起きてるな)



 事の顛末を、これも燐から聞いたことに御三家も一般人には分からない決まりやら縛りがあるのだと知る夏目。

 荷解きが終わった美哉がこちらへ。



「もういいのか?」

「はい。うふふ。これで、心置きなく夏目と一緒に過ごせますね」



 嬉しそうに言う。



「そうだな。また、美哉の手料理が食べられるし」

「あら、それだけですか?」

「ん? ああ、楽しい時間を共有できる、とか?」

「……違います」

「え?」



 頬を膨らませ不満気な美哉。他に何があるのか考えるが、これといって思いつかず首を傾げてしまう。



「分からないのなら、今から実践して理解させてあげます」

「はい? それってどういう――」

「ふふっ」



 美哉の手が伸び、頬に触れると同時に顔を近づけさせ視界を覆う。



「――んっ、んんっ⁉」

「んっ、ちゅっ……」



 美哉のため用意した部屋で、荷物を運び終え突っ立ていた夏目へ体を密着させ抱きつきキスを交わす。唇を押し当てるだけの軽いもの。



「うふふ。こういうこと、ですよ夏目」

「……なっ、ななっ⁉」



 顔を離し笑う美哉に、きっと耳まで赤くし口をパクパクさせ動けない夏目に宣言する。



「これからは思う存分に夏目を誘惑、夜這いしますね」

「そ、そんな宣言はいらんわっ!」



 即答で声を張り上げ返す。



「でも、私の心もこの体も全て夏目に捧げると決めたことですし」

「それは……まあ、なんだ……ちゃんと、責任は取る」



 あのプロポーズとも取れる告白をした以上、覚悟の上だ。ただ、やはりこういうことにはまだ奥手のようで自分で言った言葉に小恥ずかしくなって顔を逸らしてしまう。



「夏目。末永く、よろしくお願いします」

「ああ。こちらこそ、よろしく。美哉」



 そんな夏目の手を取り、花が咲くように綻び嬉しそうな笑顔で言う美哉の手を握り返し微笑み答える。
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