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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

第五幕 決闘と誓い(1)

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 フェンリルと共にグラウンドへ向かえば、燐と桜が既に待機していた。そして、生徒会長こと東雲春人も傍らに火の鳥を従えて。



「あれがフェニックス……」

「そうだ」

「大きい上に、離れていても分かるくらい熱いというか暖かいな」

「業火の影響であろうな」



 羽は広げず地面に立つフェニックスは、オレンジ色の炎を纏い金色の目を夏目に向ける。体長はおよそ五メートルほど。



 フェンリルは自在に大きさを変えられる。戦闘時はだいたい三メートルでいることが多い。だが、今回は相手が神獣のため本来の大きさに戻るだろう。



 茶髪の少し長めの髪を一つに束ね、垂れ目の茶目からは敵意を感じられない。笑顔で夏目を迎え入れる真意が読めず警戒する。

 高身長、見た目は細身で戦闘向きの体格ではないのだが隙きがない。



「やあ、逢真夏目くん。僕は、桜の兄の東雲春人。神山学園の生徒会長を務めている。あとは、東雲家の次期当主候補でもある。よろしくね」



 笑みを絶やさず、春人は軽く自己紹介。夏目も名乗る程度で返す。



「逢真夏目だ」



 たったの一言。しかし、春人は何故か夏目に期待の眼差しを向ける。



(なんだ? この視線というか目は? どうして、敵意とか向けない?)



 それが逆に怪しく映り、何かきっと裏があると警戒と敵意を向けるが春人本人は、そんな夏目の態度など気にも留めない。



 春人の視線は、夏目からグラウンドの端に遅れて集まった美哉たち、校舎から決闘を見守る御三家に向け言う。



「さて、全員揃ったようだし確認しよう。決闘には、僕と逢真くん以外の介入を許さない。これはあくまで、僕たちの一騎打ち。御三家も同様に」

「邪魔はさせないってことか……ですか?」



 先輩であり会長ということを思い出し言い直す。



「そう。グラウンド全体が決闘場であり、契約している神獣を戦わせても構わないよ。勝敗は、相手が負けを認めるか戦闘不能になるまで。または、死ぬまで続ける。一回限りの決闘、勝敗の異論はなし。ここまでで何か質問はあるかい?」



 この説明に思うところはない。

 誰にも介入されないのなら、後ろから卑怯な手で殺される心配がない。

 逆に言えば、夏目が死にかけても美哉はむろん燐も助けに入れないということ。



(フェンリルと、俺自身の力で窮地に陥ってもなんとかするしかないってことだよな?)



 と、相棒のフェンリルに念話で訊く。



(そうだ。相手は厄介な不死鳥と神殺し)

(殺らなきゃ殺られる……)

(怖いか?)

(まあ、それなりに。使徒と殺り合った時とは、空気感が全然違うし生徒会長からは何とも言えない圧を感じる)



 夏目の視線は春人に向けられ、隙きがない上に実力は自分より強いとこうして顔を合わせ纏う雰囲気、余裕のある笑み、威圧から感じ取る。



(畏れるな、我輩がいる。主はもう弱く何もできない頃の主ではない)

(フェンリル……)

(大丈夫だ。相棒たる、この我輩の言葉は信じられぬか?)



 その言葉に顔を下へ。フェンリルは、真っ直ぐ夏目を見つめ安心させるかのように笑って見せていた。



(いいや)



 首を横に振り言い切る。



(信じてる。だって、俺の唯一無二の相棒の言葉だからな!)

(ならば、ゆくぞ!)

(おう!)



 意気込み、顔を上げる。



「いや、ない。始めよう、生徒会長」

「そうか。では、時間が勿体ないからさっそく始めよう」



 そう言うと、傍らに鎮座していたフェニックスが羽を広げ頭上へ羽ばたく。

 フェンリルも本来の大きさ、体長七メートルを超える巨躯へ。



 神殺し、神獣が睨み合う。



 グラウンドの端で幼なじみの勝利を信じて祈ることしができない美哉、強くなりたいと望む夏目へ特訓をつけこの縁談を破壊してくれと願う燐、いくら神殺しとしての強さを持ち不死鳥と契約を交わしたとしても何が起きるか分からず兄の身を心配する桜。



 校舎には御三家当主が見ている。雪平家から玄也と美哉の父親、秋山家から燐の父親、東雲家から兄妹の母親が。



 玄也は髭を擦りながら、美哉が選んだ夏目の実力を間近で見られるこの機会を楽しみしていた。横目で、息子を見れば不機嫌な顔と思い通りにいかない苛立ちが態度から滲む。



 東雲家と秋山家も、静観の様子だが結果次第ではどう出るか。

 そんなことを考える玄也が見守る中、二人の神殺しによる譲れないもののため自らの命を懸けた決闘が始まろうとしていた。
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