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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

秘密の特訓と決闘直前(5)

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 燐が帰ってきたことで特訓を一時中断し、生徒会長との決闘の話を聞く夏目。

 明後日の月曜日、神山学園で一騎打ち。それまで残り一日ということ。



「…………」



 両手に薬を塗ってもらう夏目は内心、どこまで通用するのか不安があった。そんな心情を察したフェンリルが頭に乗る。



「そこまで不安がる必要はない。主には我輩がいる。全てを出し切り、主の望みを叶えよう」

「フェンリル……! ありがとう」



 それに燐も夏目へ伝える。



「夏目ならやれる。相棒のフェンリルと今までしてきた特訓の成果を、会長に見せつけてやればいい」

「燐……。ああ!」



 フェンリルと燐の力強い言葉に笑って頷き答える夏目。

 大丈夫、俺は一人じゃない。と相棒と友人の言葉に改めて実感し、不安だった気持ちが晴れていく。



「決闘の前に、先輩へ会える時間をわたしが作る。今のわたしにできる償いはこれくらいだろうからな」

「燐。いいや、俺が神通力を扱えるだけの拳を手にできたのは燐のお陰だ。だから、そのなんだ……。償いとか、これくらいだとか、言わないでくれ。俺は、燐に感謝してるんだからさ」

「夏目……」



 照れくさそうに言う夏目。その言葉に、笑みがこぼれた燐。



「そうか。わたしの方こそ、わたしを信じてくれてありがとう」



 お互い顔を見合わせ笑い合う。

 治療を受け終わった夏目は、フェンリルへ念話である相談を持ちかけた。



(フェンリル。ちょっと、いいか?)

(む? どうした、主)

(フェンリルが吐く、あの青い炎って俺でも使えるか?)

(なに? あの炎をか?)

(ああ)

(主よ、あの炎は人間には危険過ぎる代物。いくら、主であってもその身に何が起きるのか分からぬのだぞ)

(それでも、だ)



 警告するが、夏目は引き下がらない。これには何か、考えがあって言っているのだろうと。



(危険は承知の上で、俺に貸して欲しい。できることは全てしていたい、少しでも可能性があるのなら俺はそれに賭ける)



 フェンリルの警告を蹴ってもまで成したいことがあるのだと。夏目の申し出に、しばし思案し折れた。



(よかろう。主がそう強く望むのなら、それを叶えるのも我輩の務めだ。して、何を考えているのかくらい教えてくれるのだろう? 主よ)

(フェンリル……! ああ、もちろん。実はだな――)



 その質問に、夏目は念話のままで語った。

 その話を聞いたフェンリルは言葉が出てこない。一歩、間違えれば夏目の肉体も魂さえも死を意味しているからだ。



(あ、主よ。どうやってそんなことを思いついたのだ?)



 そう訊けば、夏目はここ数日の神通力を纏う特訓とフェンリルが毎日、馴染むようにと体に流し続けていたことで思いついたのだと。



(あと、美哉の戦っている姿を思い出したからかな)

(それだけで、その考えに行き着くのか)

(それに、フェンリルとならできそうな気がしたんだ。だって、俺は相棒のことを信じてこの身を預けられる)



 夏目の疑いのない表情、信じ切った言葉で言われてしまいフェンリルはおかしくなってつい「ククッ」と笑い声がもれるほど。

 ここまで信じ身を任せようとしてくれる夏目に応えたいと思ったフェンリルも自信満々に言い切ってみせる。



(主と我輩ならば可能であろう。ただし、試す時間がないゆえぶっつけ本番になるぞ。それでも構わぬな?)

(ああ! 問題ないさ!)

(うむ!)



 夏目の中では、必ず成功させて見せるのではなく、させると意気込む。



 念話で会話をしているため、燐には夏目とフェンリルの会話が分からず首を傾げる。だが、相棒同士の間に何やらやり取りを行っているのは感じ取れた。



「作戦か何かなのだろうな。さて、これ以上は禁物だ。今日はこれで切り上げよう。明日は特訓の疲れを取るため休みだ」

「分かった。じゃあ、俺はこれで……」

「いや、今日はこのまま泊まっていけ。明日、車で送る」

「そうか? じゃあ、お言葉に甘えて」

「ああ」



 というやり取りがあり泊まっていくことに。

 夕食を頂き、疲れが溜まっていたのだろう客室に案内され布団に潜り寝転ぶとすぐに睡魔が襲い眠ってしまう。



 翌朝、車で家へ送ってもらい燐とはそこで分かれた。

 家に帰ってくるなり、夏目はフェンリルと共に相談した例の件について話す。



「試せないが、イメージを描くことは可能であろう」

「俺がどうしたいのか、どう使いたいのかを頭の中で描けばいいってことだな」

「うむ。あとは我輩が、時間が許す限り神通力を流す」

「やるか!」



 リビングのソファーに座り、頭の中に思い描く。その間にフェンリルは夏目の膝の上に座り、前足の肉球を胸に当て流す。

 ぶっつけ本番、かつ失敗は許されない。もし、失敗してしまえば夏目の命はない。フェンリルとの契約も切れ、彼もこの世から消えることだろう。



 何より、夏目の意思と手で美哉へ一生、消えない傷と絶望を与えることに。

 それだけは絶対にあってはならい、と夏目もフェンリルもこの日の許す限りの時間を費やす。



 夏目とフェンリル、美哉が望む未来を手に入れるため。
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