45 / 220
第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス
秘密の特訓と決闘直前(4)
しおりを挟む
学校が休みの土曜日。今日は、今朝から秋山家にお邪魔し神通力を纏い打撃の特訓に精を出していた。
一昨日に神通力を初めて纏い、昨日もその特訓に時間を費やしたお陰で初歩的なイメージなしで両手に纏えるようになった夏目。
「ふっ、つっ……。はあ!」
――パンッ、バシュッ ドゴンッ!
サンドバッグは軽く揺れる程度だったのが、神通力を纏った拳で殴ることで激しく揺れ中身をぶち撒けるほど威力を出せるように。燐に教えられた通り、体の重心や腕の使い方から中心線を狙い抉るように拳を打つ出す。
それを意識しながら数時間、ひらすらに打ち込み続ける。そのぞばで見守るフェンリル、燐は道場にはおらず出かけている。
お昼時、桜に呼び出しを受けた燐は神山学園へ。生徒会室に来て欲しい、とメッセージを受け取り赴く。
ノックをしてから入室する燐だが、集まっている人物を見てその表情は険しく嫌な予感がした。
「失礼します」
一礼する燐。生徒会室には、呼び出した桜と会長の春人、そして美哉の三人。
(空気が重いな……。まさかと思うが、わたしと夏目の計画がバレたのか……?)
背中に嫌な汗が一筋、流れていく。
春人は、燐が来たことに笑顔で訊く。
「逢真くんの特訓は上手くいっているのかい?」
「――っ⁉」
その言葉に美哉と桜が同時に燐へ視線を向けた。
燐は、春人の問いにすぐには返答できず悟る。
(やはり、会長は気づいていたのか!)
美哉、桜を欺くことができても春人の目は欺けなかった。夏目に特訓をつけ、この縁談を壊そうとしていること。
額から汗が流れる。どう返答をすればいいのか思考を巡らせる燐。静まり返った生徒会室に、春人の声がやけに大きく聞こえる。
「燐くん。あと一日だ」
「は、はい……?」
何を言っているのか分からない燐へ春人は告げた。
「月曜日の夜、僕と美哉の縁談が行われる。その時間しか、両家が集まれなくてね。だから、その前に学園へ集まろうか」
「………………」
「逢真くんを連れておいで。そこで彼と決闘をしよう」
「なっ……⁉」
春人の笑顔の提案に、思いもよらず開いた口が塞がらない燐。それはここにいる誰もが同じ反応。桜も兄の提案に驚き声を上げた。
「お、お兄様、それはどういうことですか⁉」
「春人、何を考えているんですか?」
と、美哉も険しい表情で問う。
そんな二人の質問に春人は笑顔のまま答える。
「彼も神殺しだ。そして、僕にも譲れないものがある。なら、力で奪い護るしかないじゃないか」
燐に視線を向け言葉を続ける春人。
「秋山家も、雪平家の思い通りにならないため裏で動いているのだろう? だからこの場を、最後の望みを叶える場所にしようと思っただけだよ」
笑顔で語る春人の目は、有無を言わさない圧が込められていた。
「それに、美哉も結果次第では心を決められるだろう?」
「……っ。そ、それは……」
婚約者の言葉に何も言い返せず黙り込む美哉。
誰もが驚き言い返せない空気が包む中、驚きから冷静さを取り戻した燐は内心、願ったり叶ったりだ。この提案を飲まない理由はない。
(これで夏目が、会長に勝てば縁談を阻止できる! もちろん、そんな簡単なことではないが。それでも、夏目ならきっと……!)
拳を握りしめ、夏目を信じる燐は春人の提案に乗った。
「分かりました。逢……夏目にもそう伝えておきます。後悔しないでください、会長」
逢真と呼びかけたが、もう隠す必要を感じない燐は名前を口にし不敵な笑みで春人に向け言い放つ。
「楽しみにしているよ」
その笑みに、春人も見るからに余裕でこちらも楽しげな笑みで返す。
燐は一礼してから生徒会室をあとにする。早足で自宅へ、この話をすぐにでも夏目に伝えたい思いに駆られ帰ってくるなり道場へ直行。
「なっ……、えっ……」
扉を開け、そこで目にした光景に驚きと少しだが恐怖心が全身を身震いさせた。
汗だくになりながらも、夏目は一心不乱にサンドバッグを殴り続けていた。道場の畳の上に転がる残骸たち。この特訓のためにと、それはもう大量に注文しストックしていたサンドバッグが見るも無残なものへと。
真っ二つになったもの、穴がいくつも空き中身をぶち撒けたもの、中心の一箇所を穿ち萎んだもの、原型を留めていないものと様々。
「お、お嬢……。彼はいったい何者ですかい……?」
燐の存在に気づいた従者が、サンドバッグを道場へ運び待機していたがその破壊する夏目の姿に驚愕し固まり動けない。
「な、夏目は神殺しだ……。だが、この数をたった数時間の間に破壊したのか……?」
変わり果てたサンドバッグたち、見える範囲だけでも数は二十を超えている。
夏目の両手は赤く腫れ上がり、血が滲み痛々しい。それでも彼は神通力を拳に纏わせて殴り破壊を続ける。
「燐か。戻ってきていたようだな」
フェンリルが道場の入り口に突っ立ている燐に気づき近寄り声を掛ける。
「フェンリル……。これはいったい……」
「うむ。主は、何としてもこの力をものにしたいと一心不乱に打ち込んでいる。その結果、拳に纏わせることなら難なく可能だ。そして、打撃による威力を出す感覚を体に叩き込むために無我夢中で殴り続けているといったところか」
「それで、この数を……」
「ああ。今の主は、覚醒した頃の弱い主ではないぞ? まだ打撃にむらがあり威力も低いが、何もできないと思うでない。主は確実に強くなっている」
フェンリルの誇らしげな顔、言葉、何より神通力を纏い破壊行為をやめない夏目の姿を見て燐は思った。
(これなら、美哉先輩を救える……!)
春人との決闘まで残り一日。
一昨日に神通力を初めて纏い、昨日もその特訓に時間を費やしたお陰で初歩的なイメージなしで両手に纏えるようになった夏目。
「ふっ、つっ……。はあ!」
――パンッ、バシュッ ドゴンッ!
サンドバッグは軽く揺れる程度だったのが、神通力を纏った拳で殴ることで激しく揺れ中身をぶち撒けるほど威力を出せるように。燐に教えられた通り、体の重心や腕の使い方から中心線を狙い抉るように拳を打つ出す。
それを意識しながら数時間、ひらすらに打ち込み続ける。そのぞばで見守るフェンリル、燐は道場にはおらず出かけている。
お昼時、桜に呼び出しを受けた燐は神山学園へ。生徒会室に来て欲しい、とメッセージを受け取り赴く。
ノックをしてから入室する燐だが、集まっている人物を見てその表情は険しく嫌な予感がした。
「失礼します」
一礼する燐。生徒会室には、呼び出した桜と会長の春人、そして美哉の三人。
(空気が重いな……。まさかと思うが、わたしと夏目の計画がバレたのか……?)
背中に嫌な汗が一筋、流れていく。
春人は、燐が来たことに笑顔で訊く。
「逢真くんの特訓は上手くいっているのかい?」
「――っ⁉」
その言葉に美哉と桜が同時に燐へ視線を向けた。
燐は、春人の問いにすぐには返答できず悟る。
(やはり、会長は気づいていたのか!)
美哉、桜を欺くことができても春人の目は欺けなかった。夏目に特訓をつけ、この縁談を壊そうとしていること。
額から汗が流れる。どう返答をすればいいのか思考を巡らせる燐。静まり返った生徒会室に、春人の声がやけに大きく聞こえる。
「燐くん。あと一日だ」
「は、はい……?」
何を言っているのか分からない燐へ春人は告げた。
「月曜日の夜、僕と美哉の縁談が行われる。その時間しか、両家が集まれなくてね。だから、その前に学園へ集まろうか」
「………………」
「逢真くんを連れておいで。そこで彼と決闘をしよう」
「なっ……⁉」
春人の笑顔の提案に、思いもよらず開いた口が塞がらない燐。それはここにいる誰もが同じ反応。桜も兄の提案に驚き声を上げた。
「お、お兄様、それはどういうことですか⁉」
「春人、何を考えているんですか?」
と、美哉も険しい表情で問う。
そんな二人の質問に春人は笑顔のまま答える。
「彼も神殺しだ。そして、僕にも譲れないものがある。なら、力で奪い護るしかないじゃないか」
燐に視線を向け言葉を続ける春人。
「秋山家も、雪平家の思い通りにならないため裏で動いているのだろう? だからこの場を、最後の望みを叶える場所にしようと思っただけだよ」
笑顔で語る春人の目は、有無を言わさない圧が込められていた。
「それに、美哉も結果次第では心を決められるだろう?」
「……っ。そ、それは……」
婚約者の言葉に何も言い返せず黙り込む美哉。
誰もが驚き言い返せない空気が包む中、驚きから冷静さを取り戻した燐は内心、願ったり叶ったりだ。この提案を飲まない理由はない。
(これで夏目が、会長に勝てば縁談を阻止できる! もちろん、そんな簡単なことではないが。それでも、夏目ならきっと……!)
拳を握りしめ、夏目を信じる燐は春人の提案に乗った。
「分かりました。逢……夏目にもそう伝えておきます。後悔しないでください、会長」
逢真と呼びかけたが、もう隠す必要を感じない燐は名前を口にし不敵な笑みで春人に向け言い放つ。
「楽しみにしているよ」
その笑みに、春人も見るからに余裕でこちらも楽しげな笑みで返す。
燐は一礼してから生徒会室をあとにする。早足で自宅へ、この話をすぐにでも夏目に伝えたい思いに駆られ帰ってくるなり道場へ直行。
「なっ……、えっ……」
扉を開け、そこで目にした光景に驚きと少しだが恐怖心が全身を身震いさせた。
汗だくになりながらも、夏目は一心不乱にサンドバッグを殴り続けていた。道場の畳の上に転がる残骸たち。この特訓のためにと、それはもう大量に注文しストックしていたサンドバッグが見るも無残なものへと。
真っ二つになったもの、穴がいくつも空き中身をぶち撒けたもの、中心の一箇所を穿ち萎んだもの、原型を留めていないものと様々。
「お、お嬢……。彼はいったい何者ですかい……?」
燐の存在に気づいた従者が、サンドバッグを道場へ運び待機していたがその破壊する夏目の姿に驚愕し固まり動けない。
「な、夏目は神殺しだ……。だが、この数をたった数時間の間に破壊したのか……?」
変わり果てたサンドバッグたち、見える範囲だけでも数は二十を超えている。
夏目の両手は赤く腫れ上がり、血が滲み痛々しい。それでも彼は神通力を拳に纏わせて殴り破壊を続ける。
「燐か。戻ってきていたようだな」
フェンリルが道場の入り口に突っ立ている燐に気づき近寄り声を掛ける。
「フェンリル……。これはいったい……」
「うむ。主は、何としてもこの力をものにしたいと一心不乱に打ち込んでいる。その結果、拳に纏わせることなら難なく可能だ。そして、打撃による威力を出す感覚を体に叩き込むために無我夢中で殴り続けているといったところか」
「それで、この数を……」
「ああ。今の主は、覚醒した頃の弱い主ではないぞ? まだ打撃にむらがあり威力も低いが、何もできないと思うでない。主は確実に強くなっている」
フェンリルの誇らしげな顔、言葉、何より神通力を纏い破壊行為をやめない夏目の姿を見て燐は思った。
(これなら、美哉先輩を救える……!)
春人との決闘まで残り一日。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる