偽りの神人 ~神造七代の反逆と創世~

ゆー

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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

第四幕 秘密の特訓と決闘直前(1)

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 部活を終えた夏目は、燐の案内のもと秋山家にお邪魔していた。



 離れの道場に通される。美哉と特訓の時もそうだったが、巫女の家系は道場を持っているのが当然なのかと思ってしまう夏目。



 秋山の道場は床が畳仕様、雪平の道場は床が木仕様と中身は違うよう。夏目は学校指定のジャージに、燐は道着に着替え向き合い座る。



「フェンリル、訊いてもいいか?」



 燐から、フェンリルへ質問が飛ぶ。



「構わぬ。何が聞きたい?」

「夏目の実力はどれほどなのか知りたい」



 その問いにフェンリルは素直に夏目の実力について喋る。



「そうだな。覚醒した当初に比べれば強くはなった。が、使徒と戦闘に入った場合の勝率は五割程度。体力もスタミナ、力も足りていないのが現状だ。神殺しと殺り合えば、負けるだろうな」

「うぐっ……」



 弱いままなのは事実だが、面と向かってそう評価され項垂れる夏目。それを聞いた燐は、腕を組みしばし考え込む。



「夏目。武器は何を使うんだ?」

「えっ、武器? あー、ないかな。強いて言うなら、拳くらいか」



 燐に訊かれ、首を軽く振り己の手を見つめながら答える。難しい顔つきになって夏目を凝視し一度頷く。



「そうか。なら、肉体強化が必須だな。夏目、先輩から受けた特訓内容を教えてくれ」

「そうだな。まず――」



 特訓漬けだった一週間を振り返りながら語りそれから、フェンリルとの特訓も燐に教える。

 内容から新たな特訓メニューを考えつく。それには、まず神殺しとなれば誰でも扱える能力がどれほど行使できるか知る必要があった。



「夏目。神通力はどれほど扱える?」

「ん? なに?」

「だから、神通力だ」

「へっ? 神通力ってなんだ?」

「はっ?」



 言葉の意味を分かっていない夏目は、首を傾げ冗談でも悪ふざけでもなく本当に分からない様子で何度か瞬きをし、アホ毛が疑問符の形になる。



 その反応と奇妙な動きをするアホ毛を数秒、見つめたあと頭を抱え深いため息が出る。神通力くらいの知識は持っていると思っていたのだが、あまりの無知に困り果てる燐。



「すまない。主は、こちら側の知識が全くないのだ。我輩が教えようと思ったのだが、まずは身を護る術の方が良いかと思うてな……」

「いや、フェンリルが謝る必要はない。そうだよな、一般人で記憶を一時的に失って、覚醒してすぐに使徒に襲撃されれば知識を教える暇もないな……」



 何故か燐に同情される夏目だったが、それさえも理解できていないため固まるだけ。



「故に、主は神通力も知らなければ扱えるはずもないのだ」

「夏目には知識もつけてもらう。いいな?」

「お、おう」

「神通力とは、神殺しと覚醒すれば誰でも扱える能力だ。神殺しに備わっている一部の力と覚えればいいだろう」

「分かった」



 燐から神通力について説明を受けることに。



「破壊、治癒、火なども自由に操ることが可能。そうだな、体に纏えば身を護る鎧のような効果が得られるし岩を簡単に砕き、殴るだけで人を殺めることもできる破壊力になる。体内に巡回させれば傷を癒やす効果もある。他にも、水や風を操ることも」



 と、聞きそれができれば拳に火を纏うこともできるのだと知る。神通力は、矛であり盾でもあるのだと。

 ただしこれだけは覚えておくといい、と指を立て忠告する燐。



「神通力とは元来、神が扱う力だ。神から授けられた神殺しも扱えるが、それは。そして神獣が持つ本来の力を、神殺しだからといって扱うことは危険だ。命を一瞬で失う。例えば、会長の契約神獣のフェニックスの業火をその身に纏うことはできない」



 神通力には、が存在する。

 燐の言うように、神やその血を引く神の子が持つ神通力こそが純粋の能力。天変地異を起こせるのはもちろん、失った肉体の部位を再生させられるのも元来のもの。



 もう一つが、神が与えた借り物の神通力だ。こちらは、破壊力や己の治癒能力を上げる。火や水、風を操ることが可能でもその威力は何千分の一と劣る。



 神獣の中には、神の血を引くものもいればそうでないものもいるということ。だからこそ、人間が扱うには命の危険がある。



「どうしてだ? 業火によって体が保たないとか?」

「そうだ。神獣の力は、人の身には重すぎる上に肉体や命がいくらあっても足りない」

「纏うにしても、直接ではなくグローブなどの道具を使って小さな火種程度だろう」



 と、フェンリルがつけ加える。



「それも一時的、威力も何十分の一といったところか」

「フェンリルの言う通りだ。会長もそれは理解しているからこそ、確実に仕留める時や必殺技のように使う」

「そ、そうなのか……」

「夏目も、フェンリルの力に頼り切るのはダメだ。命を無駄にしかねない」

「肝に銘じるよ」



 燐とフェンリルの説明に息を呑み頷く。



「とにかくだ。時間がないから特訓を始めるぞ」



 そう言い、立ち上がった燐の最初の指示は美哉と同じ基礎。これは、特訓を始めてからずっとやっていることなので、夏目からしてみれば苦になるようなことはない。

 その間に燐は準備に取り掛かる。持ってきたのはサンドバッグ。



「夏目。これに打ち込め」

「これに?」

「ああ」



 燐からグローブを受け取り、両手につけ鎖に繋がれた黒いサンドバッグに向かって拳を突き出し打ち込む。



「いっ、つうっ……!」



 打った右手はグローブ越しでも痛みが走り声が出る。打ち込まれたサンドバッグは、微かに揺れる程度。それなりに力を込め打ったつもりでも威力が出ていない。



「夏目には、これくらいの打撃を打ち出せるようになってもらうぞ」



 と、構えた燐は左腕を伸ばし打ち込む。パァンッ、と乾いた音が道場内に響き、打ち込まれたサンドバッグは素手の打撃だけで激しく揺れる。衝撃波が、夏目の元まで届き髪の毛が逆立つ。



 そして、サンドバッグは打撃と衝撃波で真っ二つに破壊。



「ほう。燐は見かけによらず中々の打撃力を持っているのだな」



 フェンリルは、燐の打撃を見て感嘆する。細い腕にたったの一撃で、これほどの力があるとは思っていなかった様子。



(おいおいっ⁉ 細い腕のどこにこんなバカ力があるんだ⁉)



 口を開けて驚愕する夏目。



「わたしは、父直々に幼少期の頃から鍛えてもらっているからな。これくらい朝飯前だ」



 と、ちょっと自慢げに言う燐へフェンリルから冷静なツッコミが入る。



「そうか。だが、燐よ。破壊してしまっては、主の特訓にならぬぞ」

「あっ! しまった!」



 指摘に慌てる燐。自分で破壊したサンドバッグを片づけ、また新しい物を急いで用意する羽目に。今度こそ、サンドバッグを使った特訓が始まる。
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