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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

本当の気持ち(5)

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 先に部室を出ていった東雲桜が向かった先は生徒会室。

 ノックをしてから中へ入る。



「失礼します」



 一礼をし、奥に座る生徒会長の東雲春人を真っ直ぐ見据え報告を。



「美哉先輩にも、逢真にもお互い連絡を取り合っている様子や隠れて会っている様子はありませんでした。むしろ美哉先輩は、逢真を避けている節があります。逢真も、美哉先輩について何か訊かれることもなく」



 淡々と語る桜。

 桜の報告を静かに聞く春人は内心、桜からの報告を楽しみにしていた。婚約者の美哉が、これしきのことでぞっこんで夢中の夏目から手を引く、とはどうしても思えなかったからだ。だが、話を聞く限りお互いに避け合っているようにも思える。



「そうか……。ご苦労、桜。あと、ごめんね。嫌な役回りを押しつけて」

「お兄様が謝るようなことでは……」

「それでも、桜を巻き込んだのは確かだよ」

「お兄様……」



 桜は、夏目の自宅に勝手に押しかけ美哉との関係に亀裂を入れる切っ掛けの一人でもある。それは美哉の父から依頼されたからでもあった。



 秋山家、東雲家に夏目と美哉の関係を壊させようと裏から手を回している。そして、兄の春人からも桜は、夏目の動向を監視して欲しいと頼まれていた。

 燐とフェンリルの読みは当たっていたといわけだ。



 美哉が実家に戻ってからのあの日から、桜は夏目が学校にいる間の動向を監視しこうして春人に報告をしている。



「燐とも仲良くなったようには見えませんでしたし、逢真一人で何かを企むことはできないと思いますけど。燐も逢真の監視を受けたと言ってましたから」



 燐は桜とのやり取りの中で、夏目が縁談の邪魔をしないよう父こと当主に監視をするようにと命令を受けたと説明。それが、建前とは知らず。



「逢真も、神殺しですけどお兄様に勝てるだけの実力はないはず。覚醒して日が浅く、戦闘技術や知識がないみたいですから。いくら、美哉先輩が鍛えたといっても一週間で他の神殺しを圧倒は無理です」



 そう夏目のことを見る桜。

 桜の言う通り、夏目一人でこの縁談をどうにかできるだけの力はない。いくら神喰い狼のフェンリルと契約していたとしても実力が圧倒的に足りない。



 裏で何かを企もうとしても誰の協力なしでは何もできない。

 桜の報告を聞き終えた春人は笑みを浮かべながら小さく呟く。



「本当にそうなのかな」

「お兄様?」



 春人の呟きが聞こえなかった桜は訊き返す。



「いや、なんでもないよ。桜、気をつけて帰るんだよ」

「はい。お兄様もあまり無理は禁物ですから」

「うん。ほどほどにするよ」



 笑って生徒会室を出る桜の背中を見送り一人になった春人は、椅子から立ち上がり窓辺へ。

 日が沈み、暗くなる外を眺めながら口にする。



「逢真くん。僕にはね、君が諦めたとは思っていないよ。必ず、大きかろうと小さかろうとアクションを起こす。そんな予感がするんだ」



 不敵な笑みを作り言葉を続ける。



「なにせ美哉は、君でなければ笑うことも怒ることもしない。感情が動く時はいつも、君が関係していたからね」



 窓ガラスに映る春人の不敵な笑みが徐々に変わっていく。春人もまた、苦しげな表情を浮かべ。



「美哉は雪平の巫女だ。そして、僕も東雲の神殺し。だけどね、僕だって自由は欲しいじゃないか……」



 親の前でも、一番に信頼している妹の桜の前ですら見せない顔。泣きたくても涙を流せず、声を張り上げ怒り散らしたくてもできない。瞳は虚ろに、一切の感情が表情から読み取れない。



「それに、君にだったらこの縁談を――」



 などと長い独り言を並べる春人。彼の目も、何かを望み求めている。しかし、それは己ではどうにもできず雁字搦めだった。

 だからか、語る言葉の裏に情けなさともどかしさが含んでいた。
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