上 下
38 / 220
第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

本当の気持ち(2)

しおりを挟む
 燐の言葉に、しばし沈黙が流れた。



 夏目はどう反応すればいいのか困り果て、フェンリルは塞がらない口をようやく塞ぎ燐を見つめ思案。

 そんな夏目とフェンリルの反応を見て信じてもらおうとまた語り出す。



「わたしは、父から秘密裏にある頼まれごとを受けた。その内容だが――」



 詳しく説明する燐の口から、秋山家当主である燐の父と美哉の父とは学生時代の同級生らしく、しかし性格が合わず仲が良いとはお世辞にも言えない。だが、古くから続く名家である以上、それなりにお互い付き合い、立場上の関係は築かなければならず。



 秋山家は、基本的に本人の意思を尊重し自由にやらせてくれるのだとか。役目の一つ、恩恵を絶やさず受け継がせることに関しても、相手がそれ相応の人間ならば燐の好きにしていいと。



 美哉が家出をした当日に、秋山家に訪れ燐の父にある相談という建前の排除の協力を持ちかけてきたのだ。



 美哉の父は、彼女が大切にしている夏目が目障りだと。ただの人間なら捨て置けばよかったのだが神殺しとなった今、障害にしかならず娘も自分の命令を利かずこれ以上の勝手は許さない。いくら神殺しとなったとしても一般人、普通の血には意味も価値もないと考え故に、夏目を殺してでも己の目的を遂行したい。



 雪平の権力をより強く、神山町を牛耳るだけではなく国をも支配できるだけの力を求めた。それが、美哉の父の野望。

 娘の美哉が、生きた屍になろうと子を成し血と恩恵が受け継げればそれで構わない。



「――という、話を聞いた父は表向きにその話に乗りわたしを遣わせた。が、父は内心、腸が煮えくり返ると怒り心頭だ。実の娘を道具としか見ていない、挙げ句の果てには国を支配などとバカげた話だ、くだらないと吐き捨てていたくらいだ」



 一呼吸を置いて続きを話す。



「父は、先輩と逢真を護るためわたしに命じた。一時的にでも先輩を実家に戻し、雪平にも東雲にも悟られず逢真の護衛につけと。このまま、あの男の思惑通りに事を運ばせないために」



 包み隠さず全てを語る燐。



 夏目とフェンリルは、燐から聞かされた話に怒りを感じた。まさか、美哉の父がここまで人でなしとは思いもしなかったのだ。

 そして、何も知らないとはいえ一時でも美哉を拒絶してしまった己に一番、怒りを覚え唇を噛み血が一筋流れていく。



(俺は……。くそっ!)



 奥歯を噛みしめ今にも殴りたい気持ちを抑える夏目。



(主……)



 そんな夏目の心情を察し心配そうに見上げるフェンリル。



「このままだと先輩は、操り人形となるだろう。だが、わたしは秋山の巫女だ。先輩を救えない。それどころか、東雲会長には歯が立たない……。だから、逢真の力を貸して欲しい。そのあとで、わたしを煮るなり焼くなり好きにしてくれていい」



 燐も夏目同様に昨日の件に関して、もっといい方法があったのではないか、別のやり方なら傷つけずにできたのではないのか、と己を責めているのだろう。



「秋山……。そこまでする必要はない」



 燐の言葉を夏目は首を横に振り拒否する。その価値すら自分にはないのか、と顔を凍てつかせる燐に言葉を続けた。



「俺に殴る気はない。むしろ、本当のことを教えてくれてありがとう」

「お、逢真……⁉」



 燐に向かって頭を下げる夏目に驚く。その上で頼み込む。



「頼みがある。弱い俺を強くするために、秋山に特訓をつけて欲しい! 力を貸して欲しいのは俺もだ。美哉を傷つけてばかりだけど、今度こそ護りたい! だから、秋山の手を貸してくれ! お願いだ!」



 夏目の行動に呆気に取られていたが凍てついた表情は綻び、燐は笑ってしまいながらも「ああ」と彼の願いに応える。



「縁談の当日まで日はないが、わたしにできる最大限のことをしよう! 逢真を、今よりも強くすると約束する!」

「秋山……! ありがとう!」



 顔を上げ夏目も笑った。

 立ち上がった燐は右手を差し出す。それに夏目も応じ握手を交わす。



「逢真、これからよろしく頼む」

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。俺のことは夏目って呼んでくれていいから」

「そうか? じゃあ、夏目と呼ばせてもらおうかな。わたしのことも、燐で構わない」

「分かった。燐」



 お互いに笑みを浮かべる。その様子を見守っていたフェンリルも、フッと笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

処理中です...