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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス
本当の気持ち(2)
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燐の言葉に、しばし沈黙が流れた。
夏目はどう反応すればいいのか困り果て、フェンリルは塞がらない口をようやく塞ぎ燐を見つめ思案。
そんな夏目とフェンリルの反応を見て信じてもらおうとまた語り出す。
「わたしは、父から秘密裏にある頼まれごとを受けた。その内容だが――」
詳しく説明する燐の口から、秋山家当主である燐の父と美哉の父とは学生時代の同級生らしく、しかし性格が合わず仲が良いとはお世辞にも言えない。だが、古くから続く名家である以上、それなりにお互い付き合い、立場上の関係は築かなければならず。
秋山家は、基本的に本人の意思を尊重し自由にやらせてくれるのだとか。役目の一つ、恩恵を絶やさず受け継がせることに関しても、相手がそれ相応の人間ならば燐の好きにしていいと。
美哉が家出をした当日に、秋山家に訪れ燐の父にある相談という建前の排除の協力を持ちかけてきたのだ。
美哉の父は、彼女が大切にしている夏目が目障りだと。ただの人間なら捨て置けばよかったのだが神殺しとなった今、障害にしかならず娘も自分の命令を利かずこれ以上の勝手は許さない。いくら神殺しとなったとしても一般人、普通の血には意味も価値もないと考え故に、夏目を殺してでも己の目的を遂行したい。
雪平の権力をより強く、神山町を牛耳るだけではなく国をも支配できるだけの力を求めた。それが、美哉の父の野望。
娘の美哉が、生きた屍になろうと子を成し血と恩恵が受け継げればそれで構わない。
「――という、話を聞いた父は表向きにその話に乗りわたしを遣わせた。が、父は内心、腸が煮えくり返ると怒り心頭だ。実の娘を道具としか見ていない、挙げ句の果てには国を支配などとバカげた話だ、くだらないと吐き捨てていたくらいだ」
一呼吸を置いて続きを話す。
「父は、先輩と逢真を護るためわたしに命じた。一時的にでも先輩を実家に戻し、雪平にも東雲にも悟られず逢真の護衛につけと。このまま、あの男の思惑通りに事を運ばせないために」
包み隠さず全てを語る燐。
夏目とフェンリルは、燐から聞かされた話に怒りを感じた。まさか、美哉の父がここまで人でなしとは思いもしなかったのだ。
そして、何も知らないとはいえ一時でも美哉を拒絶してしまった己に一番、怒りを覚え唇を噛み血が一筋流れていく。
(俺は……。くそっ!)
奥歯を噛みしめ今にも殴りたい気持ちを抑える夏目。
(主……)
そんな夏目の心情を察し心配そうに見上げるフェンリル。
「このままだと先輩は、操り人形となるだろう。だが、わたしは秋山の巫女だ。先輩を救えない。それどころか、東雲会長には歯が立たない……。だから、逢真の力を貸して欲しい。そのあとで、わたしを煮るなり焼くなり好きにしてくれていい」
燐も夏目同様に昨日の件に関して、もっといい方法があったのではないか、別のやり方なら傷つけずにできたのではないのか、と己を責めているのだろう。
「秋山……。そこまでする必要はない」
燐の言葉を夏目は首を横に振り拒否する。その価値すら自分にはないのか、と顔を凍てつかせる燐に言葉を続けた。
「俺に殴る気はない。むしろ、本当のことを教えてくれてありがとう」
「お、逢真……⁉」
燐に向かって頭を下げる夏目に驚く。その上で頼み込む。
「頼みがある。弱い俺を強くするために、秋山に特訓をつけて欲しい! 力を貸して欲しいのは俺もだ。美哉を傷つけてばかりだけど、今度こそ護りたい! だから、秋山の手を貸してくれ! お願いだ!」
夏目の行動に呆気に取られていたが凍てついた表情は綻び、燐は笑ってしまいながらも「ああ」と彼の願いに応える。
「縁談の当日まで日はないが、わたしにできる最大限のことをしよう! 逢真を、今よりも強くすると約束する!」
「秋山……! ありがとう!」
顔を上げ夏目も笑った。
立ち上がった燐は右手を差し出す。それに夏目も応じ握手を交わす。
「逢真、これからよろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。俺のことは夏目って呼んでくれていいから」
「そうか? じゃあ、夏目と呼ばせてもらおうかな。わたしのことも、燐で構わない」
「分かった。燐」
お互いに笑みを浮かべる。その様子を見守っていたフェンリルも、フッと笑みを浮かべた。
夏目はどう反応すればいいのか困り果て、フェンリルは塞がらない口をようやく塞ぎ燐を見つめ思案。
そんな夏目とフェンリルの反応を見て信じてもらおうとまた語り出す。
「わたしは、父から秘密裏にある頼まれごとを受けた。その内容だが――」
詳しく説明する燐の口から、秋山家当主である燐の父と美哉の父とは学生時代の同級生らしく、しかし性格が合わず仲が良いとはお世辞にも言えない。だが、古くから続く名家である以上、それなりにお互い付き合い、立場上の関係は築かなければならず。
秋山家は、基本的に本人の意思を尊重し自由にやらせてくれるのだとか。役目の一つ、恩恵を絶やさず受け継がせることに関しても、相手がそれ相応の人間ならば燐の好きにしていいと。
美哉が家出をした当日に、秋山家に訪れ燐の父にある相談という建前の排除の協力を持ちかけてきたのだ。
美哉の父は、彼女が大切にしている夏目が目障りだと。ただの人間なら捨て置けばよかったのだが神殺しとなった今、障害にしかならず娘も自分の命令を利かずこれ以上の勝手は許さない。いくら神殺しとなったとしても一般人、普通の血には意味も価値もないと考え故に、夏目を殺してでも己の目的を遂行したい。
雪平の権力をより強く、神山町を牛耳るだけではなく国をも支配できるだけの力を求めた。それが、美哉の父の野望。
娘の美哉が、生きた屍になろうと子を成し血と恩恵が受け継げればそれで構わない。
「――という、話を聞いた父は表向きにその話に乗りわたしを遣わせた。が、父は内心、腸が煮えくり返ると怒り心頭だ。実の娘を道具としか見ていない、挙げ句の果てには国を支配などとバカげた話だ、くだらないと吐き捨てていたくらいだ」
一呼吸を置いて続きを話す。
「父は、先輩と逢真を護るためわたしに命じた。一時的にでも先輩を実家に戻し、雪平にも東雲にも悟られず逢真の護衛につけと。このまま、あの男の思惑通りに事を運ばせないために」
包み隠さず全てを語る燐。
夏目とフェンリルは、燐から聞かされた話に怒りを感じた。まさか、美哉の父がここまで人でなしとは思いもしなかったのだ。
そして、何も知らないとはいえ一時でも美哉を拒絶してしまった己に一番、怒りを覚え唇を噛み血が一筋流れていく。
(俺は……。くそっ!)
奥歯を噛みしめ今にも殴りたい気持ちを抑える夏目。
(主……)
そんな夏目の心情を察し心配そうに見上げるフェンリル。
「このままだと先輩は、操り人形となるだろう。だが、わたしは秋山の巫女だ。先輩を救えない。それどころか、東雲会長には歯が立たない……。だから、逢真の力を貸して欲しい。そのあとで、わたしを煮るなり焼くなり好きにしてくれていい」
燐も夏目同様に昨日の件に関して、もっといい方法があったのではないか、別のやり方なら傷つけずにできたのではないのか、と己を責めているのだろう。
「秋山……。そこまでする必要はない」
燐の言葉を夏目は首を横に振り拒否する。その価値すら自分にはないのか、と顔を凍てつかせる燐に言葉を続けた。
「俺に殴る気はない。むしろ、本当のことを教えてくれてありがとう」
「お、逢真……⁉」
燐に向かって頭を下げる夏目に驚く。その上で頼み込む。
「頼みがある。弱い俺を強くするために、秋山に特訓をつけて欲しい! 力を貸して欲しいのは俺もだ。美哉を傷つけてばかりだけど、今度こそ護りたい! だから、秋山の手を貸してくれ! お願いだ!」
夏目の行動に呆気に取られていたが凍てついた表情は綻び、燐は笑ってしまいながらも「ああ」と彼の願いに応える。
「縁談の当日まで日はないが、わたしにできる最大限のことをしよう! 逢真を、今よりも強くすると約束する!」
「秋山……! ありがとう!」
顔を上げ夏目も笑った。
立ち上がった燐は右手を差し出す。それに夏目も応じ握手を交わす。
「逢真、これからよろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。俺のことは夏目って呼んでくれていいから」
「そうか? じゃあ、夏目と呼ばせてもらおうかな。わたしのことも、燐で構わない」
「分かった。燐」
お互いに笑みを浮かべる。その様子を見守っていたフェンリルも、フッと笑みを浮かべた。
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