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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス
第二幕 縛られる巫女(1)
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夏目の家へ強引に同居を始めてしまったことに関して少々、詳しい経緯も話さずやり過ぎたと思う美哉。
幼なじみが、自分の強引さに折れることを理解した上で押し進めた。
「嫌な女、ですね。私……」
引けない理由があった。いずれ、夏目にも知られることだろう。
美哉に、自由も未来もないことを。
「はあー……」
ため息一つ、重い足取りで向かった先は生徒会室。
ノックを数回し入室する。そこには、一人の青年がいた。
デスクに向かい山積みの書類を処理する茶髪、少し長めの後ろ髪を一つに束ね、茶目の男子生徒。神山学園の生徒会長で同じく二年、桜の兄である東雲春人だ。
彼は昔から穏和で常に笑顔でおり、気遣いもでき優しく面倒見も良い。おまけに妹を大切にする妹思いでもあることを美哉だけが知る一面。
時々、大切にするあまり行き過ぎた言動を取り思考回路が飛躍するブラコン。
逆に言えば、春人も美哉が夏目に夢中で強引かつ求めていることを知っている。
「春人」
「ん? ああ、美哉。ごめんね、急に呼び出して」
美哉に呼ばれ顔を上げる。少し疲れた顔で謝る春人。
呼び出された理由が、縁談の件ということは美哉も分かっていた。
ソファーに腰掛ける美哉を見て、穏やかに笑う春人は一言。
「妹のこと、よろしくね」
「ええ。分かっていますよ」
春人の頼み事に、美哉も笑みを浮かべ返答する。
走らせていたペンを一旦、置いた春人の口から発せられる。
「実家から、高校卒業後すぐに婚姻しろと言われたよ」
「――っ!」
それは、春人だけではない。美哉もまた、父親からそう告げられていた。それに反抗するべく家出をしたが意味をなさないことに怒りが沸き立つ。
「ごめんね。東雲家は、雪平や秋山と違って歴史が浅い。雪平との縁談でより東雲の力を強めようという思惑がある。その結果、僕と美哉の意思など無視して縁談を進めているみたいなんだ」
「春人が謝る必要はないはずでしょう?」
と、表情を殺した美哉が言う。
「それはそうだけど……。こうも勝手に進められてもね……」
ため息混じりの春人。お互いに打つ手なしの状態、ただ言うことを聞くだけの人形のよう。
美哉は、春人にはっきりと告げる。
「私は、春人と結婚するつもりはありません」
「あはは。言うね」
それに対して苦笑いで答える。
「でも、美哉。僕らの意思なんて関係なく、この縁談は進むよ」
その言葉に押し黙る美哉へ言葉を続ける。
「巫女の役目の一つ、恩恵で授かった能力を絶やさないこと。ただの人間との子孫ではなく……」
間を開けて美哉を見つめる春人の目が細められ真剣な顔つきで言う。
「神殺しの血を入れて引き継がせることだろう」
「…………っ」
美哉は奥歯を噛み締め、グッと指に力が入り爪が手の平に食い込む。
春人のことは別に嫌いではない。が、それは友人としての感情しか持たない。ただの家同士の付き合い。
そこに恋心などありはしない。それでも美哉は雪平家、巫女から逃れられない役目に吐き気がする。
「用はそれだけですか? それ以上ないのなら私は失礼します」
そう言い立ち上がると苛立ちを隠そうともせず生徒会室を出て行く。その後ろ姿を見送る春人は軽く手を振りながら。
扉が閉まり、一人になってから大きなため息を吐く。
「はあー……」
深く腰掛け、天井を仰ぎ見る。
手を額に当て、
「逢真夏目くん、君には何ができるのかな……」
などと呟くのだった。
幼なじみが、自分の強引さに折れることを理解した上で押し進めた。
「嫌な女、ですね。私……」
引けない理由があった。いずれ、夏目にも知られることだろう。
美哉に、自由も未来もないことを。
「はあー……」
ため息一つ、重い足取りで向かった先は生徒会室。
ノックを数回し入室する。そこには、一人の青年がいた。
デスクに向かい山積みの書類を処理する茶髪、少し長めの後ろ髪を一つに束ね、茶目の男子生徒。神山学園の生徒会長で同じく二年、桜の兄である東雲春人だ。
彼は昔から穏和で常に笑顔でおり、気遣いもでき優しく面倒見も良い。おまけに妹を大切にする妹思いでもあることを美哉だけが知る一面。
時々、大切にするあまり行き過ぎた言動を取り思考回路が飛躍するブラコン。
逆に言えば、春人も美哉が夏目に夢中で強引かつ求めていることを知っている。
「春人」
「ん? ああ、美哉。ごめんね、急に呼び出して」
美哉に呼ばれ顔を上げる。少し疲れた顔で謝る春人。
呼び出された理由が、縁談の件ということは美哉も分かっていた。
ソファーに腰掛ける美哉を見て、穏やかに笑う春人は一言。
「妹のこと、よろしくね」
「ええ。分かっていますよ」
春人の頼み事に、美哉も笑みを浮かべ返答する。
走らせていたペンを一旦、置いた春人の口から発せられる。
「実家から、高校卒業後すぐに婚姻しろと言われたよ」
「――っ!」
それは、春人だけではない。美哉もまた、父親からそう告げられていた。それに反抗するべく家出をしたが意味をなさないことに怒りが沸き立つ。
「ごめんね。東雲家は、雪平や秋山と違って歴史が浅い。雪平との縁談でより東雲の力を強めようという思惑がある。その結果、僕と美哉の意思など無視して縁談を進めているみたいなんだ」
「春人が謝る必要はないはずでしょう?」
と、表情を殺した美哉が言う。
「それはそうだけど……。こうも勝手に進められてもね……」
ため息混じりの春人。お互いに打つ手なしの状態、ただ言うことを聞くだけの人形のよう。
美哉は、春人にはっきりと告げる。
「私は、春人と結婚するつもりはありません」
「あはは。言うね」
それに対して苦笑いで答える。
「でも、美哉。僕らの意思なんて関係なく、この縁談は進むよ」
その言葉に押し黙る美哉へ言葉を続ける。
「巫女の役目の一つ、恩恵で授かった能力を絶やさないこと。ただの人間との子孫ではなく……」
間を開けて美哉を見つめる春人の目が細められ真剣な顔つきで言う。
「神殺しの血を入れて引き継がせることだろう」
「…………っ」
美哉は奥歯を噛み締め、グッと指に力が入り爪が手の平に食い込む。
春人のことは別に嫌いではない。が、それは友人としての感情しか持たない。ただの家同士の付き合い。
そこに恋心などありはしない。それでも美哉は雪平家、巫女から逃れられない役目に吐き気がする。
「用はそれだけですか? それ以上ないのなら私は失礼します」
そう言い立ち上がると苛立ちを隠そうともせず生徒会室を出て行く。その後ろ姿を見送る春人は軽く手を振りながら。
扉が閉まり、一人になってから大きなため息を吐く。
「はあー……」
深く腰掛け、天井を仰ぎ見る。
手を額に当て、
「逢真夏目くん、君には何ができるのかな……」
などと呟くのだった。
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