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第一章 神殺しと巫女

使徒との再戦(5)

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 七海が落ちていく姿を、その場で座り込み傷口を押さえながら眺めたままの夏目。



 フェンリルが矢の群れに対して、なりふり構わず青い炎で焼き払うのを視界の隅に捉え反撃に出たのだ。相棒なら、必ず七海を仕留めてくれるという確信があったからこそ。



 結果、七海はフェンリルに気づかず焼かれ落ちていったのだから。



「神殺しの肉体ならば、再生が早いから死にはしない」

「そ、それでもめっちゃくちゃ痛いけど……」

「それは我慢しろ、としか言えん」



 そう言って、脇腹の傷から流れる血を舐め取るフェンリル。あまりの痛みに泣きそうな夏目はただ耐える。



「ううっ……。特訓してもこの体たらくなんて、情けないな俺……」



 己の弱さに泣き言を口にする夏目にフェンリルは、



「二度目で死なず、使徒と渡り合えたのだ。及第点だろう」



 と、励ましてくれる。その言葉に、笑みを浮かべるだけの元気が回復する夏目。上着を脱いで脇腹に巻き止血し立ち上がる。



 七海を倒した今、美哉と合流すべく山を降りる。そう思い、フェンリルの背に乗ろうとしたと同時に眩しいくらい輝く光る矢の雨が降り注ぐ。



「――っ⁉」

「主!」



 ドスッ、ドスッ! と地面に刺さる無数の矢。

 矢から夏目の身を引き離そうにも予期せぬ攻撃に、フェンリルは自らの体を盾にするしか考えが及ばなかった。しかし、その選択は誤りだ。



「ワォォオオオオオオオオオッ!」



 遠吠えに近い咆哮で防ぐが、数本は肉体に突き刺さる。その痛みと傷は、全て夏目にいってしまう。

 全身に激痛が走り、立っていられなくなりよろめきながら口から血を吐き出す。



「ごふっ」



 咄嗟に口元を手で覆うが、隙間から溢れこぼれる鮮血。



「ゆるざないぃぃっ!」



 斜面から焼けた臭いと焦げた腕が伸びる。重度の火傷を負った七海が、斜面から這い上がってくる。その姿はさながらホラー映画のゾンビのように、殺意と憎悪と怒りを込めたギラつく目を向けて。



「小娘⁉ チッ。まさか、生きていたとはな!」



 舌打ちと共に面倒くさそうに吠えるフェンリル。



(し、使徒も神殺し同様にタフなんだな……)



 左手で傷口を押さえ、右手は血に濡れ思い知る夏目。

 七海は、鬼の形相で夏目とフェンリルを睨みつけ同じ言葉を繰り返す。



「殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!」



 フェンリルは、戦えるはずが夏目にとって枷となり痛みと傷を背負わせて逆に足を引っ張る形に、戦えるフェンリルの邪魔でしかならず役に立たないことに悔しくて堪らない夏目。お互いが歯痒い思いを抱えてしまう。



(だけど、今は自分にできることを考えろっ!)

(これ以上、主に背負わせるわけにはいかぬ!)



 お互い、己に喝を入れ思考を巡らせる。七海を今度こそ、仕留める方法を模索する。



「死んじゃええええええええええええっ!」



 そう叫び、上空に百本の矢を生み出し狙いは夏目とフェンリルに向け雨の如く降り飛来してくる。

 フェンリルは反撃ではなく、夏目を咥え逃げの一手。



「逃さないから!」



 空を切り、地面に突き刺さり消えていく矢だがまた新たに生み出され襲いくる。木々の間を器用かつ速度を上げ駆け抜けるフェンリル。駆け抜ける風が、傷口に触れ痛むが耐え思案し続ける夏目。



(何か、何かないのか⁉ あいつを仕留める方法は⁉)



 ふと、視界に入るフェンリルの足に巻きつけられた紐が。

 今更ながら足枷に目がいく。



(これ、外せるのか?)



 もし外すことができれば、何かに使えるのではと考える夏目。

 フェンリルと七海の距離は開き、一時的に身を隠せる場所を見つけそこへ向かい夏目を降ろす。



「フェンリル」

「どうした?」

「この足枷は外せるのか?」



 地面に降り立った夏目はフェンリルに訊く。



「枷をか? 外すことができれば使えるだろう」

「じゃあ、取ろう」

「む? これはそうそう簡単に外すことはできぬ。以前にも話した通り、これはグレイプニル、魔法の紐だ」

「でも、外せるかどうか試してみないと分からないだろ?」

「それはそうだが……」



 フェンリルの足元にしゃがみ込み、足枷が取れないか弄り始める夏目。引き千切ることは不可能、ならとあやとりでもするかのように解く。すると、足枷の紐が解け取れた。他の足にも巻きつく紐を全て解く。



「よし。全部、解けたぞ」

「まさか、取れるとは……」



 さすがのフェンリルも驚く。今まで解けなかった足枷がなくなり、体が軽くなる感覚と本来の力が戻ってくるのを感じる。



「して、主よ。それをどう使う気だ?」

「これで七海を無力化できないか?」

「ふむ……。グレイプニルなら可能であろう」

「なら、これを七海の手足に嵌めてやる」

「なるほど。よかろう」



 夏目の考えに賛同するフェンリル。

 今度は逃げるのではなく、反撃開始だと言わんばかりにフェンリルの背に乗り不敵な笑みを浮かべる夏目に釣られてフェンリルも笑う。



「やられた分を返してやる」

「その意気だ。主」

「んで、あいつらが持っている情報も一緒に引き出そう」

「情報を引き出してから殺す、ということでよいな?」

「ああ」

「心得た」



 フェンリルの背の毛に掴まり、七海から焦げた臭いを嗅ぎ分けこちらから迎え撃ちに森を駆ける。
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