上 下
17 / 220
第一章 神殺しと巫女

特訓(3)

しおりを挟む
 四日目。特訓メニューは、美哉との対人戦だ。

 巫女服の美哉。彼女の手から、矢に形成された氷の塊が飛来してくる。



「――っ!」



 それを避け、時に撃ち落とし相手に攻撃を入れる。という特訓だが、しかし美哉の容赦のない射撃に為す術もなく体のあちこちに矢を受けてしまう。着ているジャージはいくつも穴が空き体の至る所に傷を作る夏目。



「……っ!」



 避けようにも速すぎて視界に捉えられない。撃ち落とそうとするも空を切り、腕や肩を掠めるだけ。



(くそっ……! 速すぎて避けるのも、防ぐこともできない!)



 ギリッ、と歯軋り苦しげな表情の夏目。それでも休む暇なく続ける。



「一点だけを見つめない! 周りにもっと目を配りなさい! 足は止めず、常に動き回りなさい!」



 と、美哉から注意を受ける中、放つ矢は一直線のものと弧を描き背後から襲う二本。目の前の矢ばかりに気を配り、背後から襲い掛かる矢に意識が及ばず射たれ倒れ込む。



「がはっ……」



 前のめりに倒れ動けない夏目。体力、スタミナを考え休憩を挟む。

 道場の壁に背を預け、美哉から受け取った飲料に口をつけ息を吐く。夏目の隣に座った美哉から言われる。



「すぐに何もかも上達できるわけではありませんが、少なくとも敵の攻撃にある程度は避けるか防ぐことはできてもらわないと。そして、戦闘中にスタミナ切れを起こして殺される、なんていう可能性をなくします」

「……そう、だな。あの時、俺は何もできなかったわけだし……」



 そのための特訓であり、自ら望んだことでもある。それは理解しているが、美哉との対人戦の特訓は結構くるものがある。正直、キツイと思う夏目。



「なあ、美哉」

「なんですか?」

「どうして、ここまで付き合ってくれるんだ? 食事面からマッサージとか何かと面倒をみてくれて」



 ずっと、疑問だった。美哉にも自身の時間があるはず、何も全てに付き合う必要はないのではないかと。その質問に美哉は笑顔で答える。



「ただの世話焼きなんですよ、私。それに、夏目が強くなりたいと望んでくれたことが嬉しいから、何でもしたくなっただけです」

「そうか」

「ええ」



 そう言われ、昔からこんな感じだったけかと美哉との思い出を振り返る。一緒に遊ぶ時も、子供の足では遠くには行けないがそれでも冒険だと言って隣の町まで行くことも、何をする時も必ず美哉は夏目の隣にいた。



(懐かしい記憶だな)



 などと呑気に思い出に耽ける夏目に、



「さあ、休憩は終わりです。特訓を再開しますよ。夏目」

「えっ、あ、ああ……」



 その後も美哉の手加減抜き、容赦のない射撃に必死に食らいつき反撃しようと何度も試したが、一度も入れることはできず四日目が終わった。



 五日目、この日も昨日と同じく対人戦の特訓。

 前日に美哉から言われたことを思い出しながら、氷の矢を避けされるよう動き回りながら目線は道場内を常に配らせる。



 道場の端から端まで動き、飛来する矢をギリギリで避けるが追尾型に切り替えられ背後、または死角から襲い掛かる。



「……っ! ま、まだっ!」



 体を反らし、拳を握り飛来する矢を撃ち落とす。



(――っ! 今だ!)



 腕を真っ直ぐ伸ばし、道場の床に矢を落とすことに成功。ただし、十回に一度の確率で撃ち落とせるようになった程度だが。まだまだ、夏目の動きにはムラが多い。



「うしっ……!」



 と、撃ち落とせたことに喜ぶ夏目に、美哉は隙きがあり過ぎると言わんばかりに二本、三本と連続で放ち肩と脇腹に刺さる。



「ああっ! いつっ……!」



 実戦に近い形式での特訓のため殺傷力もそれなりにある美哉の矢。そのため受けた箇所から、新しい傷を作り血が流れていく。



「ううっ……」



 一本、撃ち落とせただけで喜んでいる場合ではないことを美哉の攻撃で思い知り、痛みに耐えながら一発でもいいか当てられないか、思考を巡らせる夏目。

 美哉には隙きがない。四方へ警戒を配らせ、夏目の動きを先読みし封じてくる。



(どうにかして背後か死角から攻撃を入れられたら……)



 と思案し足に力を込め床を蹴り、道場内を一杯に使い駆けた。

 馬鹿正直に突っ込まず、角度をつけ駆け回り美哉の背後へ回り込む。そして、左足で重心を取り右足で蹴りを入れた。



「……っ⁉」

「その調子で思考を止めず、向かってきてください。夏目」



 右足首を左手で掴み阻まれ攻撃が入らなかった。夏目の動きを完全に読み切り、防ぎながら言い女性とは思えないほどの力量で足首を掴み上げ、夏目の体は宙に浮き放り投げられ道場の壁に激突。



「がはっ、うぐっ……」



 背中を打ちつけ肺から空気が吐き出される。



(あ、あの細い腕のどこに、あんな力があるんだよ……⁉)



 すぐには立ち上がれず、内心で驚きと悔しさが滲み出た。その後も、特訓は晩まで続く。



 特訓が終わったのち、部屋の布団の上にて美哉から治療を受ける夏目。

 傷口に消毒液を垂らしガーゼと包帯を巻かれる。他にも、掠り傷や打撲など全身の至る所に絆創膏や湿布が貼られていく。



「特訓する前に比べれば動きも良くなりましたし、体力とスタミナもついてきましたね」

「そうなのか?」

「ええ」



 自分ではよく分からないが、美哉がそう言うならそうなのだろうと思う。



「しかし、力不足なのは変わりません。使徒とどこまで戦えるのか、神殺しとぶつかった際はきっと苦労するでしょうね」

「………………」



 美哉の言葉に何も言えない夏目。

 弱いままでは何もできず、奪われ失うのはもうごめんだ、と口にはせず両手を握りしめ強く思うのだった。



「これで終わりです。今日はゆっくり休んでください。明日も、特訓ですから」

「あ、ああ……」



 そう言い残し部屋を出て行く美哉の背中を見つめる。



(あれ? てっきり、今日も布団に潜り込んでくるものだと思ってたんだが……)



 さすがに傷まみれで連日の特訓で疲労も溜まり残すわけにもいかないと、配慮し美哉は自室へ戻った様子。

 布団に潜り目を閉じれば、すぐに睡魔が意識を持っていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

処理中です...