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第一章 神殺しと巫女

第三幕 使徒襲撃(1)

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 翌日、放課後に旧部活棟の部室にて美哉と共にこれからのことを考える夏目。

 悪神と使徒との戦いに備える必要があることは分かったが、何をどうすればいいのかは分からない。



 そんな夏目のため、美哉から提案がある。



「夏目。まずは、夢でも見ていたあの狼を喚び起こすことから始めてみてどうですか?」

「喚び起こす? どうやって?」

「そうですね。本来であれば自然と表に具現化するのですが……」



 夏目が訊けば、そう答えるのだがその兆候は全く見えない。それに対して思うことがあるのか、顎に人差し指を当て考える美哉が指摘する。



「夏目自身が、心のどこかであの狼を恐れているのが原因なのかもしれませんね」



 その指摘に、あの過去が原因だろうということはすぐに分かった夏目。しかし、頭では分かっていても心はすぐに切り替えられない。



「そこは夏目自身でどうにかしなければ意味がないですね。私にはどうにもできませんから」

「そ、そうだよな……」

「能力を行使するには、契約を交わした神獣が必要不可欠です。それには完全な意思疎通が重要」



 神獣、とは神話などに記されし獣や蛇、鳥、巨人、精霊などの総称。

 有名な神獣ならフェンリルや八岐大蛇、フェニックス、レヴィアタン、グリフォン、ウンディーネなどが挙げられる。



「意思疎通ができれば次の段階へ。狼を具現化させ戦わせます。今の段階では分かりませんが、神獣の能力にある程度の制御が必要かもしれません。制御できなければ、暴走し手に負えなくなりますから」



 そう美哉から説明を受ける夏目だが、いまいちその説明にピンとこない。



(意思疎通とか言われてもどうやればいいんだ? そもそも本当にそんなことが可能なのか? 会話ができるとか?)



 と疑問が次々に浮かぶ。

 アホ毛が疑問符の形成に、その反応を見ていた美哉はクスクスと笑ってしまう。考えていることが丸わかり、何より奇妙な動きや形を成すアホ毛が面白いようだ。



「ふふっ。とにかく、意思疎通から始めるしかありませんね」

「あ、ああ」



 やるべきことが分かりさっそく試すことに。帰宅後、自室のベッドに寝転ぶ夏目。天井を眺め、美哉の説明を思い出す。



 喚び起こし、意思疎通させ、具現化へ。

 目蓋を閉じ、この身に眠っている狼を連想させる。

 過去と追憶するまで夢に見続けていたあの狼を。



「……………………」



 意識は徐々に現実から切り離されていく。まるで、夢を見るかのようにまどろむ。体は重く感じ、意識が深く沈み込んでいく。

 音が消え、夢なのかそれとも深層へ足を踏み込めたのか狼の遠吠えが遠くから聞こえてくる。現実の重みを感じる体はなく、軽さも何も感じない、肉体があるのかないのかさえ分からないことに目をゆっくり開け確かめる。



「……んっ」



 そこは白と黒が入り交じる空間だった。何もなく、上下左右の感覚も曖昧な場所。



「ここは……。それに、俺の体は……」



 首を下に向け、足から上半身、手、腕と順に見ていく。手を握り開くを繰り返し、動くことを確かめてからまた顔を上げ前を見た。

 すると、最初はいなかったはずの灰色のくすんだ毛並みの狼が目の前で夏目を見下ろしていた。



「――っ⁉」



 息を飲む。動かせていた手が震え、いや全身が震え上がり動かない。

 その眼前に迫る狼の顔と図体に、過去を思い出してしまい恐怖が思考と心を支配していく。灰色の狼は、そんな夏目の感情を読み取り口の端が吊り上がっていく。



『グルルルッ!』

「――――っ⁉」



 威嚇だ。その威嚇に体は自由が効かない。



『グォォオオオオオオオオオッ!』

「――――――っ!」



 眼前で咆哮する狼。

 鼓膜が揺れ、驚き咄嗟に目を閉じる夏目。

 狼の威嚇と咆哮を受け、深層に潜り込んだ意識は吹き飛ばされ現実の体がベッドの上で飛び上がる。



「うおわぁああっ!」



 強制的に戻された夏目の体は全身から汗を掻き呼吸が荒い。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」



 心臓は早鐘を打ち、血が駆け巡り胸が苦しい。



「む、無理だ……。あんなのに、どうやって意思疎通しろって言うんだよ……」



 喰われると本気で思った。

 狼の目は、夏目を敵として認識しているように思え、その上で威嚇と咆哮をされ喰われ殺される。そう思ってしまった以上、心は余計にあの狼に対して恐怖心が強くなってしまう。
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