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癒しが欲しい

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 さて、やってきました広場の隣の建物。ボロボロで今にも崩れそうな建物なので、人っこ一人住んではいない。ま、当然だね。
 さて、建物を魔力で包み込んでまるっと解体。そして分解して使えそうな素材は回収しておく。使えないものは殆どないのだけど。
 一気に更地になった場所で考える。うーん温泉っぽい建物ってどんな形なんだろう。日本のお屋敷っぽい感じでいいのかな。
 白い漆喰は無いから石の白っぽいやつで作って。瓦は焼くのが面倒なので石でそれっぽく成型。黒い瓦が出来上がり。なんだかお城みたいな建物だね。
 内装はぜんぜん出来てないけど。とりあえず見た目はこれでOKと。
 2階建てで1階が荷物を置いたり着替えたりする脱衣場。地下がお風呂。2階が休憩所って感じで寛げるスペースにする。
 ついでにステージも作って宴会なんかができると良いね。お風呂は男湯と女湯で分けて、脱衣所にはロッカーが必要だね。
 あ、露天風呂もいいな。でも地下だから室内でそれっぽく楽しめる場所を作ろうかな。映像を使えば風景を楽しみながらのお風呂が出来るだろうし。
 それから温泉を引く管を作る。問題は温泉が出るかだ。地熱であったまった水でも十分温泉になるだろうし、ひたすら掘れば出るよね。
 では、モグリュー先生お願いしますね。モグリューが土の中を掘り進む。ぐんぐん掘って、掘って、堀まくる。
 地下2,000メルまでひたすら掘る。すると、温かいお湯がモグリューを押し出してきた。ザパーっとヤバイ。温泉が溢れる。
 あわあわとしながらパイプの栓を繋ぎ、しばらく排水。綺麗なお湯になるまではしばらく放水しておく。
 綺麗なお湯が出てきたところで温度調節のために施設内をパイプで繋いで温泉の温度を下げつつ、いい感じの温度に調整して完成だ。
 お湯の質が問題ないか確認できる術がないので、とりあえず見えないところでバッチテスト的なものをしておく。明日にでも温泉をみんなに楽しんでもらおう。
 入浴方法とか文字と絵で分かるようにしておいた方がいいよね。マナーが大事だ。
 できれば石鹸やシャンプーにリンスとか欲しいな。温泉を使った化粧品もありかな。
 考えると色々出てくる。ふわふわのタオルも準備しないと。
 ここでもスライムたちが大活躍。わがスライム工房はいまや世界中の食べ物を生産できる。肉と魚意外だけど。
 なので、綿花も簡単に手に入る。それを紡いで糸にしてタオルを作ってもらおう。あと、石鹸の材料は油と灰汁。これも問題なく作れそうだ。
 完成度は上手くいくか分からないけど。シャンプー用に薄めて他の植物油とか香草を煮た液とか混ぜてそれっぽく作れればいいかな。
 せっかくだしトレーニングルームを作っておこうかな。運動してお風呂。これ最高だよね。後は温泉と言えば卓球とか。娯楽部屋も必要だな。
 ついでとばかりに部屋を拡張して作っておく。ちょっとやり過ぎた感があるような気がするけど、皆が喜んでくれたらいいよね。
 完成した温泉から出てみると、なぜか眉間にしわを寄せてお怒りのレオナードとなぜか遠い目をしているリューさんがいた。

「あ、ちょうど良かったレオナードお兄さんとリュートさん。温泉出たんで入ってみませんか。」

「おい、アッシュ。」

「なんです?」

「俺は前に言ったよな、あんな魔法ひょいひょい使うんじゃないって。」

「そういえばそうだったね。」

 ぽんと手を打ち付けて、そんな事もあったなぁと回想する。

「そうだったね。じゃねーだろ。どうすんだよこれ!明らかに場違いだろうが。」

「えー温泉っぽく作ったのに。」

「どこが温泉っぽいんだ。明らかに異物だろうが。ここがどこか忘れたのか!」

「あー、うっかりやっちゃった。てへ。」

 周囲を見渡して明らかに浮いた雰囲気の建物は見事に目立っていた。

「はぁ、作ったもんは仕方がねぇ。それで、中はどうなった。」

「じゃあ案内するね。2名様ご案内~。」

「………。」

「へっ?何でぐりぐりするの?ちょっ、い、痛い、痛いって!!頭が割れちゃう。割れちゃうから~。」

 レオナードに無言でぐりぐりと締め上げられて、涙目になる。ちっとは反省しろと今回はデコピン付きだった。
 何はともあれ、中を案内する。まず入り口は1人ずつしか入れない仕掛けになっていて、魔力を流すことで入場できるようになっているよ。
 ここでは『クリーン』の魔法が掛かるように魔道具を設置しているんだ。まぁちょっとした病気対策だと思ってくれたらいいよ。
 あと、その魔力を登録してどんな人物が入ってきたのか判別できるようにしている。
 まぁ、実際にこれが使われることなんてそう無いと思うんだけど、いずれスラム以外の人間を受け付ける際に必要になる予定。

「スラム以外の人間を入れるってどういうことだ。」

 ふと、疑問に思いレオナードが口を挟む。

「何れはここで風呂屋としてお金を稼げる場に出来ればいいかなって。まだ先の話だけどね。」

「なら、人が必要になるってことだな。こういうのならやりたいやつが山ほど居ると思うぞ。」

「そう。それに今は子供たちだけで隣の家を使っているけど、いつかは料理屋として使えればいいかななんて考えていたりして。」

「確かに、使えそうだな。」

「でしょ。そのためには従業員宿舎とか作ってみんなでそこに移ればいいと思うんだ。もちろん従業員特典を付けてね。」

「まぁ、まだ先の話だな。従業員にするなら教育も必要だしなぁ。ん?でもあいつら読み書き計算は普通に出来るから問題ないか。」

「いや、礼儀作法が必要だよ。接客するんだし。」

「なんでだ。客は客だろ。貴族の屋敷じゃあるまいし。」

「礼儀作法は大事だよ。寛いで気分良くお金を落として貰わないと。」

「そんな店、高級レストランとか貴族お抱えのところくらいだろ。」

「良い所には人が集まるよ。何度も何度も足を運びたくなる特別な場所になると、みんなが幸せになる。」

「よく分からんが、誰が礼儀作法なんて教えるんだよ。」

「そこだよね。うーん僕とかレオナードお兄さんにリュートさんくらいかな?教えてあげられるのは。」

「……俺はごめんだ。」

「まぁ、もっと詳しく内容を考えてからだね。とりあえず、中の案内をしようか。」

 落ち着いた雰囲気の内装に軽くせせらぎの音が流れている。室温もちょうど良い具合になっている。

「案内所で受付をして、それから中に入る。1階は男女別に別れていて、中には脱衣所がある。男女とも同じようなつくりになっているから、今回は男風呂の方で案内するね。」

 まずは、ここが靴箱。靴を脱いで靴用のロッカーに入れる。ロッカーの番号の鍵を抜くと鍵が閉まる仕掛けになっていて、こうした鍵の予備は入り口の案内所の中に置いてある。
 そこから奥に入ると脱衣所がある。それぞれのロッカーに服と荷物を入れておく。
 ここのロッカーの鍵は手首に付けられるようにしてあるから付けた状態で風呂に入る。風呂は地下にあるから階段を転ばないように気をつけて降りてね。
 風呂の入り口には、タオルとバスタオルがあるからそれは自由に使って良い。まぁ、ここに絵も書いてあるから一度くれば覚えることが出来ると思うよ。
 案内できる人も付けた方が良いかもしれないけど暫くは皆で教え合いっこだね。
 風呂に入る前にここで、かけ湯をして、そこの洗い場で体や頭を洗う。ここには石鹸とシャンプー、リンスを用意してあるからしっかりと汚れを落としてお風呂に浸かる。
 長く入りすぎるとのぼせるからそれも注意だね。で、奥の間が露天風呂風お風呂だよ。
 魔道具で映像が出る部屋。
 2階には宴会スペースがあって寛げるようになっているのと、休憩所に鍛錬場と娯楽室があるよ。

「………どこから突っ込めばいいんだ。」

 説明を聞いたレオナードとリュートが先程よりも更にげんなりした様子だ。

「あれ、おかしな所でもあった?」

「おかしい所だらけだろうが!全部だ全部。おまけに石鹸なんて高級なもん、なんでこんなに置いてあるんだよ。何だ映像の出る露天風呂って!規格外にも程がある。封印だ。この露天風呂は封印しろ!」

「ええ!!なんで。いいじゃん、映像が出る露天風呂。」

「ヤバイだろこれ、おい。リュート何とかしてくれ…。」

「レオナード様…あの。無理です。」

 はぁ。二人してため息をついているし。風呂屋って言ったらこれ普通だよね。おかしいな。むしろプールも作ろうか悩んだくらいなのに。

「とりあえず、二人とも温泉入ってみたらどう?」

「そうだな。おい、リュート行くぞ。」

「はい。レオナード様。」

 靴を脱いで脱衣所に二人が向かったところで、私も準備に入る。なんせ、二人ともお風呂初心者だ。色々と教えてあげないとでしょう。

――――…

「で、何のまねだ?」

「うん。洗うの手伝ってあげようと思って。」

「その格好でか。」

「そう。この格好で、だよ。」

「………。」

 風呂場に着くとなぜかリュートさんは帯剣したまんまだった。
 錆びるから置いてくるように伝える。誰か来ればすぐ分かるようにしているし心配要らないよ。
 護衛対象と同時に風呂に入ることは出来ないそうで後で入ると言っていた。ちなみに先程レオナードが指摘した服と言うのは浴衣だ。
 背中に「ゆ」と白く大きな文字が入っている紺色の浴衣を着て黒色の帯を締めている。一人で風呂なんて入ったことが無かったレオナードは案の定洗うところで戸惑っていたようだ。
 レオナードの癖のある金の髪を軽く流す。シャンプーを付けてシャカシャカとあわ立てながら洗う。ずいぶんと洗っていなかったのか、2回目、3回目でやっと綺麗になった。
 心なしか金の髪が今まで以上に綺麗に見えて今までくすんだ色になっていたのがよく分かる。
 体に石鹸を泡立ててタオルでゴシゴシこする。下のほうは自分でやって貰おう流石に。一応私も女性だし、子供ではあるけれどなんだかいけないことの様な気がするし。
 洗い終わったら魔道具で作ったシャワーで洗い流す。さっぱりしたのか気持ちよさげにお風呂に浸かるレオナード。
 うん。満足してもらった用で良かった。
 ふと、悪戯を思いついたような意地の悪い笑顔でレオナードが私を呼ぶ。振り向くとおもいっきりお湯をばしゃりとかけられた。

「わわ、いきなり何するんっですか!」

「せっかくだからお前も洗ってやろう。」

「はっ?僕は自分で洗えるし遠慮するよ。」

「遠慮は要らん。お前も大人しく洗われろ。」

 ザパーと音を立てて風呂から出てきたレオナード。

「わわ、良いって。」

「逃げられると思うなよ。」

 ニヤリと明らかにふざけているレオナード。流石にこれは不味いと逃げようとすると、いつの間にか戻って来ていたリュートにぶつかった。

「わぁ!」

「おっと、風呂で暴れるなよ。」

 尻餅をつきそうな私をレオナードががっしりと捕まえる。吃驚して真っ白になった頭でわたわたと暴れる。

「おい、こら!暴れるな。」

「ひゃぁ。ちょ、だ、ダメだって。」

 暴れて浴衣が乱れ、帯が緩む。そして浴衣は肩からずり落ちた。ぱさりとはだけた私と唖然と固まったレオナードとリュート。

「あっ。」

 声が重なる。そしてへたりこんだ私と慌てて視線を外す男二人。

「だから言ったのに。」

 むぅ。と膨れっ面になった私。

「すまん。」

 レオナードは素直に謝った。リュートはくるりと後ろを向いて反省のポーズをとっている。

「まさか、女の子とは。」

 額を押さえてぽつりとレオナードが呟いた。私は乱れた浴衣を直しつつ、声の魔法を解いた。

「では、ご要望通りに頭を洗うことを許しますわ。」

「なっ!」

 ニコリと微笑んで、綺麗にして下さる?と小首を傾げ、上目遣いにおねだりする。うっ、と言葉に詰まるレオナード。
 目を逸らしつつ、女の子のおねだりに押されたのか、結局根負けして丁寧に洗ってくれた。
 ふわりと湯船に銀の髪が流れる。浴衣を着たままぷかぷかと浮かぶ。長い髪がお湯の流れに沿って靡く。

「なぁ、こんな所に来ていて良いのか。」

 湯船に浸かり、腕を広げ寛いだレオナードが問う。ぷかぷかと漂いながら私は瞑目した。そしておもむろに立ち上がりレオナードに向かい合う。

「前にも言ったでしょう。誰も私が消えている事に気づいてないよ。気づいていたとしても、無関心だから問題ないでしょう。」

「無関心って。」

「使用人は正妻の命令に逆らえない。詰まりそういう事なの。」

「だが、辛くはないのか?」

「ふっ、むしろこの程度で済むなら良かったと思うよ。それに、ここに来れば素の僕で居られるんだ。ある意味感謝だね。」

 声を切り替えて不適な笑みを浮かべ答えた私をレオナードはぐいっと自分のほうに引き寄せる。そして、コツンと額をくっ付けた。

「ここは皆お前の家族だ。いつでも帰って来い。」

「………ありがとう。レオナードお兄ちゃん。」

 ぽつりと聞こえた言葉が嬉しくて、涙が一筋流れた。

――――…

 あの後、子供達を温泉に入れて皆が綺麗になった。そして、レオナードが先の事も見据えてスラムの住人に少しずつ温泉を広めていった。皆が温泉の虜になったのは言うまでもない。
 今日は私の誕生日プレゼントにおねだりした事がやっと調整できたとの連絡があり、本邸に来ている。
 何のおねだりだったかと言うと、紋章師の仕事場見学と紋章を乗せた書物を見せて貰う事。
 子供らしくぬいぐるみと言いたいところだが、この世界にはぬいぐるみはないらしい。
 人形はあってミリーナ姉様が以前お誕生日のプレゼントにおねだりしていて、父に贈って貰っていた。
 その人形は陶器の本体に髪の毛は人毛。かわいい洋服を着たこの世界のお人形。
 アンティークと言えば聞こえは良いが、リアル西洋人形なそれを見てホラーだと感じたのは仕方ないと思う。
 ぬいぐるみは自分で作ろうと決意したのは当然の流れだ。そんな訳で、別段欲しいものはないし、せっかくならとデザインの勉強として紋章を作っている所の見学をねだったのだ。
 いつか工房を持つときにも必要だからね。

 それに新しい目標もできたし。

 目標と言うのはスラム町を改革し町を綺麗にする事だ。そして、スラム町がスラムなどと呼ばれないように皆がお腹いっぱい食べられて、生活に困らないように支援することも含まれている。
 ある意味そういったものは領主の仕事なのだが、ただでさえ領主は忙しいのだ。領内全体を考えなければならない。その上でどうしても見切れないものがこうして零れ落ちていく。
 少しでも力になれる事をと考えていたのだが、たまたま知り合ったライリーとシェリー、レオナード達との出会いもありこうして家族と呼べるくらいまでの仲を築くことができた。
 そして、子供たちは自分たちの力で食べられるだけの生き方を覚え、私の手を離れてもきちんと生活している。スラムと今も言われているが、レオナードの努力もありスラム全体で纏まって力を合わせて生きることを覚えたのだ。
 温泉の力も大きいかもしれない。心が癒され、共に過ごす時間があることで仲間意識が芽生えたとも言える。
 そして、次のステップとして施設を利用した商売に向けて最近では大人も子供たちに混じって勉強したり私やレオナードの行儀指導を受けたりしてかなり変わってきている。
 結局レオナードは何だかんだ言いながらも協力してくれるし、性別がばれた事で根は貴族であったからか、前よりも優しくなった気もする。
 もちろん従業員宿舎もどうせだから作ってしまえと準備して、すでに入居が始まっている。目立つことを避けるために表向きは2階建てまでに押さえ、地下にも居住区を広げる。
 こうする事でスラムの殆どを収容できる見た目普通の巨大施設が完成した。
 もちろんスラム全体の概観は変えずに内側に準備中の店舗なども複数作り出している。しかも、地下を通してそういったさまざまな施設に出入りできる従業員専用の通路、そして避難経路を作り出している。
 レオナードが呆れて無言で拳骨を落とすくらいのハイスペックな未来型施設が地下に完成していた。
 内部には居住区だけではなく灯りの魔道具と温泉の温熱を利用した作物を作るための農業施設や加工施設も作られてこの区画に住んでいれば食べるのには困らないくらいのものになっている。
 当然、地下に入るには私の作った指輪形の通行証を必要とする。これは、使用者の魔力を記憶して本人以外が利用できないセキュリティー付きの代物だ。
 なので、スラムに住んでいたレオナード傘下の全ての住人にこれを配っている。開業する為の下準備だ。
 今後を考えるときちんと整理しなければならない事が沢山あるが、それについては追々進めていく事にしよう。
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