転生少女の暇つぶし

叶 望

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009 暴露

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「リズレット嬢、話がある。」

 真剣な顔でレオナードはリズレットに向き合った。その顔には覚悟のようなものが見てとれる。

「…お話とはどのようなものでしょうか?」

「君の提案だが、私と君が友人というだけでは今回の件、無理があると思う。」

「……それ、今ここで言いますか。」

 リズレットは小さく溜息をついた。

レオナードの言葉にランドリックはどういう事なのかと視線で訴えて来る。

「それで、殿下はどのようにしたいと考えておいでなのですか?そもそも、ランドリック様は殿下のお気持ちをご存じなので?」

「いや、それは言ってなかった。」

 言葉の語尾が小さくなりレオナードはランドリックに向き直る。

「ランドリック、私は父上や兄上の力になりたくてここまで来た。」

「存じておりますとも殿下。」

 ランドリックは立ち上がって臣下の礼を取る。

「私は、王となる兄を支えたい。その為に力を貸してくれないか。」

「…殿下、確かに順当にいけば兄君が王となるのは当然の事。しかし、兄君を支持する者は少ないという事もご理解されていますか。」

「分かっている。だけど、私は兄を廃そうという気持ちなど全く持っていないのだ。」

「では、ここに来たのは間違いでしたな。貴方が国の未来の為にとはいえ、動くべきではなかった。まず国王である陛下、そして次期国王となる兄君に相談なさるべき内容でした。ですがすでに動いてしまった以上…まさか。」

 カシウスはここまで言ってリズレットを驚いたように見る。

リズレットの初めのころの態度と先ほど品物の説明をしていた態度では聞いていた噂と齟齬を感じたからだ。

「リズレット嬢、君に汚名を着せて全て無かった事にするなど私には出来ない。」

「では、どのように為さりたいとおっしゃるのですか?」

「私の婚約者になって欲しい。」

「………は?」

 突然の婚約者宣言にリズレットは固まった。

「婚約者であれば屋敷を訪ねることに不都合はない。それに、私の事を案じてここまでしてくれる優しい君となら生涯を共に歩んでも良いと思う。」

 権力目当てや物語の王子様を勝手に重ねて気持ちを押し付けてくる令嬢を数多く見て来たレオナードにとってリズレットは斬新な令嬢だった。

初めて出会った時には男であると信じて疑わない程に完ぺきに成りきっていた。

 しかし、女性であると知った今ではあの生き生きと大人顔負けに指示を出し、今もこうして心配してくれているリズレットであれば生涯を共に生きるのも悪くないと考えたのだ。

元々兄の婚約が決まり王位に就くまでは婚約者を持たないつもりだったレオナードだ。

 婚約者の席は問題なく空いている。

「何か、勘違いをなさっているのではありませんか?私が提案したのはあくまで、父が治めているこの領地で問題が起こるのは困るからです。私であればすでに悪評は広がっていますし、貴族で懇意にしている友人もおりませんので、これ以上私の評判は落ちようがないのですわ。」

「だけど、あの場所で震える私に温かいミルクを出してくれた。先程も私を押し倒して演技でごまかしながらも私の顔色を見てくれたのだろう?君はとても優しいよ。」

「…それと、これとは話が別で。」

「私も兄を王位につけたい。だから君が婚約者になることで私に悪評が立つというのなら構わない。リズレット嬢、どうせ堕ちるなら、私と共に堕ちてくれ。」

 レオナードはリズレットの手を取ってそう告げた。

「それは随分と斬新なお誘いですわね。ですが、婚約は殿下の一存では決められないでしょう。それに…。」

「リズ、ここまで殿下がおっしゃっているのだ。条件などと言える立場ではないのだぞ。」

 アルフォンスがリズレットの言葉を遮る。

「条件?条件とは何のことだ。」

 レオナードが押し黙ったリズレットを見て首を傾げた。

「娘は常々婚約話が持ち上がる度にある条件を告げて相手の方を困らせて来たのです。」

「どんな条件なのだ?」

「なんでも物語のような英雄が好きで、グリフォンの祝福を受けて婚約したいと。それにリズレットが出すものは何でも口にすることだったか?」

「お父様!」

 思わずといった風にリズレットが声を上げた。

若干顔が青ざめているのはそういう理由かとレオナードは合点がいった。

「なるほど、そうやってリズレット嬢を軽んじている者たちを退けていたのだな。」

「殿下?」

「カシウス、我が王家の象徴として掲げている物は何だ?」

「グリフォンでございますね……なるほどグリフォンの祝福とは、そういう事でしたか。婚約を結ぶ際に貴族であれば国王の裁可を仰ぐのは当然の事。確かにあの様子のリズレット嬢を見れば誤解しても無理はありませんな。」

「本当の条件は最後の方なのだろう?それも問題なく達成しているな。」

 レオナードはリズレットの差し出した物を毒見もなく口にした。

それはわざわざ助けに来てくれたリズレットが自分を害する理由がないからだ。

「ですが、婚約は…。」

「両親には私から伝えるさ。それに父の方針で兄も私も婚約者は自分で選んでよいと言われているのだ。問題はないだろう。」

 がっくりと項垂れたリズレットはハタと思い出したように顔を上げた。

「そうだ、伝令が…。」

「ん?伝令とは何のことだ?」

「ランドリック様、伝令はすでに出してしまわれたのですよね。」

「あぁ、殿下が見つかってからすぐに見つかった事を伝えるように別の者を遣わせたが…。」

「殿下、ご両親を心配させてはいけませんわ。お手紙を書いて無事を知らせねば。」

「あぁ、勿論後で書こうと思っているが、なぜだ?」

「やはり、緊急であっても伝令以外の伝達方法は無いのですね。」

 リズレットは面倒なことになったと頭を抱えた。

王族が行方不明になったのを知って第二王子派の貴族やレスター辺境伯爵領の急激な発展を妬んでいる貴族が動くと面倒だと感じたからだ。

 領民にこれまで以上迫られても困るし、無理やり聞き出そうと動かれては困る。

本当は出したくないのだが、そうも言っていられない状況らしい。

 すでに初めに向かった伝令が手紙をいくつか出していたという連絡がここに来る前に輝く星から報告として入ってきている。

「殿下、スクロールを書いたことは?」

「ある。だが、何でだ?」

「殿下が行方不明だと貴族が大勢押し寄せて来られても困るので先に手を打ちたいのです。」

「それは分かるがなぜスクロールなのだ?」

「…輝く星で使われている緊急の連絡手段の一つですわ。スクロールに書いた文字が光となって相手に情報を伝えますの。本当は出したくなかったのですが、そうも言っていられない状況ですので。」

「どういう事だ?」

「先の伝令が別の場所に手紙を送ったのです。きっと殿下が行方不明だと知らせる手紙でしょう。普通は任務中に私的な手紙など出さないはずですが。」

 レオナードの周りについている護衛騎士は第二王子派に所属する者が当然多い。

だからこそ一大事だと手紙を送ったのだろうが、リズレットからすれば迷惑な話だ。

「分かった。手紙を書こう。」

 レオナードが頷いたのでリズレットはポシェットから紙を取り出した。

その紙を見てまたランドリックが驚く。

「それはスクロールに使う羊皮紙ではないではないか。」

「えぇ、これは最近出回っている新しい紙と兄弟のようなもの。特殊な素材を使っているのと数があまりに少ないので外には出回らせていませんが。」

 色々と聞きたげなランドリックに笑顔で何も答えるつもりはないと伝えて黙らせる。

「これに伝える相手の顔を思い浮かべながら魔力を込めて文字を書いてくださいませ。」

「だが、王都まではかなり離れているぞ?大丈夫なのか?」

「必要な魔力が溜まらないと発動しませんもの。問題はないでしょう。」

 リズレットの言葉に首を傾げながらもレオナードはペンを走らせ始める。

魔力を回復させる物など存在しない。

 傷を治すポーションが無いのと同じ理由だ。

時間経過で回復させるくらいしか魔力は回復手段がないのだ。

 思った以上に魔力を持っていかれているのかレオナードは若干辛そうに見えた。
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