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017 もう一人の転生者
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王城にある一つの部屋。少女が使っていると思われる愛らしい家具の数々は歳相応とはいいがたい。どうにも拘りがあるらしい彼女の部屋は子供っぽさを大いに残している。
12歳に成った少女はその部屋に不釣合いなほど深いため息を付いた。
もう何度付いたか数えるのも億劫なほどの状況で、少女はこの先に起こりうる出来事を憂いていた。
シェリル・ラジェット・メジエル。ラジェット王家の第一王女にして第一王子の双子の妹である彼女は整えられた髪形が崩れるのも厭わずにテーブルに突っ伏している。
金の髪は緩やかにウェーブがかかっており、赤い瞳は揺れて今にも泣きそうだ。
「なんで私が……。」
呟いた言葉は先には続かず口ごもる。ここは王城、誰がどこで聞き耳を立てているとも限らない。
彼女には今の生を受ける前の前世があった。
その世界に出てくる乙女ゲームの主人公をいじめる悪役令嬢。それがシェリルの役目だった。役目だと考えるのはゲームの主役を引き立てるための役柄だから。
彼女が主人公に行動を起こすたびに彼女の株は上がっていく。
ラジェット学院でそれは顕著に表れるだろう。自身の気持ちとは正反対に。
この世界の強制力で自分の望まないことを行ってしまったならどうしよう。
そんな気持ちが沸きあがってくる。
彼女が前世を思い出したのは7歳のデビュータントの時。
始めて社交界に出るようになったシェリルは自分の婚約者として宛がわれたアルバート・クレストを見た途端、その記憶を思い出したのだ。
その日は卒倒してしまいデビューの日は台無し。
アルバートからは倒れやすい繊細な姫君として扱われる始末。
今はこうして守ってくれる人だけど、学院に通いだして主人公と出会うことですべて変わってしまうのだと思うとやるせない。
ゲームでのアルバートの事は嫌いではない。赤い髪をするりと伸ばし、緑の瞳は深い森を連想させる。顔立ちも整っている上に必死で頑張る姿は好感が持てる。
いや、むしろ好きな方だ。
騎士団長の息子として必死で剣を学んでいるのも知っているし、攻略情報も多少は持っている。全てではないのだが。
なぜかそのルートの部分を忘れてしまっているのが勿体無いと思う事はあったが現実として生きている以上、むしろ忘れていて良かったかもしれないと思うこともあった。
純粋に彼との絆を深められると考える反面、ゲームの仕様でその気持ちも変わってしまったならと考えると突然恐ろしくなる。
その度に震えるシェリルをアルバートは慰めてくれた。
今やシェリルはゲームの攻略対象としてではなく、現実のアルバートとして好きになっていた。だから余計にこの先が怖い。
もしもゲームと同じように明日のパーティで第一王子であるレオンが攫われるようなことがあったならゲームと同じ世界なのだと確定してしまいそうで怖かった。
恐れる心を少しでも落ち着かせようとアルバートに髪を切った方が似合うなんてことも言ってしまったくらいだ。
次の日に髪を切った彼を見て、少しはゲームと違うことになるかもしれないと考えたが、それでも不安は拭えなかった。
不安を抱えたまま、その日は休む事になる。
次の日に大どんでん返しが待っているなんて思いもよらないまま。
――――…
シェリルの気持ちとは関わりなくパーティは始まる。
いつも通りのパーティに見える今日の会場で、シェリルは主人公の姿を見つけてしまった。
そしてゲームと同じようにドレスを汚されてすごすご引き返す様を見たのだが、それまでの事で彼女が何者であるかを悟ってしまった。
明らかに飲み物を零されるように女性陣にぶつかりにいっているその姿は明らかにパーティで浮いていた。
異様な行動を行う女性を遠巻きに見ている人々がひそひそと話をしているところも見かけたが、それ以外は概ね主人公と同じ行動を行っているのだ。
男爵令嬢が高位貴族の集まる場所に紛れ込んだ時点で想定できる内容。
そして勝手にぶつかって飲み物を被って行った怪しげな人物と成り果てていたのだが、間違いなくゲームを知っている人物だとシェリルは感じた。
そして恐れを強くする。
あれは正に獲物を狩る猛獣の瞳。周囲の男性が引くほどに獰猛な獣のようだった。
そして彼女が出て行って暫くすると会場の明かりがすべて落ちた。
シェリルの恐れが当たってしまう。明かりが戻った頃には自らの半身であるレオンの姿はどこにもなかった。
――――…
パーティに呼ばれて会場入りしていたエスティアはフィルシークと供に過ごしていたが、フィルシークは次期当主として顔繋ぎがあるため、父に連れられて行ってしまった。
そして明かりが消えて暗闇になった時に魔力を感知したエスティアはその流れを追って外に出た。
自分と同じ位の背丈の少年を担いだ男を見つけて、人攫いだと考えたエスティアはとりあえず何者なのかを観察しつつ、男たちに向かって歩みを進めた。
エスティアに気が付いた男がエスティアの姿をまじまじと観察する。
「お嬢さん、こんな場所に何のようです?」
「お散歩していたら人攫いを見つけたもので観察していました。」
「観察?」
「えぇ。何をするつもりなのかと。」
「人攫いがやる事は一つしかないと思うが?」
「そうですね。ただ、それにしては奇妙な方々だなと。」
そう告げた瞬間、木の上の男がエスティアの近くに落ちてきた。
人攫いと同じ格好をしている人物は木から落ちたまま眠りこけている。
「な!」
少年を担いでいた男が少年を地面に降ろすと、臨戦態勢をとる。
どうやらエスティアは危険だと判断されたらしい。
だが、すでに遅い。木の上にいた男がなぜ落ちて眠りこけているのか。それに気が付かなかった時点で勝敗は決していた。
ぐらりと傾ぐ男たち。そのままぐぅぐぅと寝息をたてて眠ってしまった。
木の上からエスティアを眠らせようと睡眠薬を飛ばした男は風の魔力を使ってその方向を変更されてしまったのに気が付かないまま眠りに落ちた。
当然、他の二人にも同じように薬を届けていたエスティアは戦闘さえも始まらないまま終わらせた。
そして3人の男たちを拘束してぐるぐる撒きになっている少年を助け出すと、そのままとある場所まで足を運ぶ。
エスティアが向かった先にあったのは一台の馬車。
その扉を開いたエスティアは奥にいた少年を魔法で拘束するとその場から引きずって男たちの元へと連れて行った。
「お前たちやられたのか!」
驚いたように叫ぶ少年はザスティン・ルステリア・グレース。
旧ルステリア王国第1皇子らしい。青い髪に紫の瞳を持つ少年だ。情報を読み取っていたエスティアはなぜそんな人物がこんな場所に来ているのか疑問に思う。
だが、その理由を知りたくて更なる情報を引き出したエスティアは思わず頭を抱えてしまった。
その元凶はかつてエスティアが逃した過激派の魔族であるカルタロフの部下であるバロンという魔族が関わっている事を知ってしまったから。
そして、その人物はエスティアのすぐ傍まで来ていた。
「貴方がバロンかしら?」
突然の声に叫んでいた少年も囚われていた少年もそちらを振り向く。
木々の陰から姿を現したのはザスティンたちに計画を持ちかけた人物だった。
黒髪に赤い瞳を持つその人物をエスティアは睨み付けた。
その情報はもはや確認するまでもない。
黒髪は徐々に変化して白い髪へと変貌する。
撫で付けたように整えられた髪はまるでどこかの執事のように整っている。
「どこかでお会いしましたかな?」
にんまりと笑ってこちらに歩みを進める男はまるで計画が失敗したのにも堪えていないように見える。
ふわりと魔力の風が吹く。
まるで相手にならないとでも言わんばかりにその男は魔法を放とうとしていた。
12歳に成った少女はその部屋に不釣合いなほど深いため息を付いた。
もう何度付いたか数えるのも億劫なほどの状況で、少女はこの先に起こりうる出来事を憂いていた。
シェリル・ラジェット・メジエル。ラジェット王家の第一王女にして第一王子の双子の妹である彼女は整えられた髪形が崩れるのも厭わずにテーブルに突っ伏している。
金の髪は緩やかにウェーブがかかっており、赤い瞳は揺れて今にも泣きそうだ。
「なんで私が……。」
呟いた言葉は先には続かず口ごもる。ここは王城、誰がどこで聞き耳を立てているとも限らない。
彼女には今の生を受ける前の前世があった。
その世界に出てくる乙女ゲームの主人公をいじめる悪役令嬢。それがシェリルの役目だった。役目だと考えるのはゲームの主役を引き立てるための役柄だから。
彼女が主人公に行動を起こすたびに彼女の株は上がっていく。
ラジェット学院でそれは顕著に表れるだろう。自身の気持ちとは正反対に。
この世界の強制力で自分の望まないことを行ってしまったならどうしよう。
そんな気持ちが沸きあがってくる。
彼女が前世を思い出したのは7歳のデビュータントの時。
始めて社交界に出るようになったシェリルは自分の婚約者として宛がわれたアルバート・クレストを見た途端、その記憶を思い出したのだ。
その日は卒倒してしまいデビューの日は台無し。
アルバートからは倒れやすい繊細な姫君として扱われる始末。
今はこうして守ってくれる人だけど、学院に通いだして主人公と出会うことですべて変わってしまうのだと思うとやるせない。
ゲームでのアルバートの事は嫌いではない。赤い髪をするりと伸ばし、緑の瞳は深い森を連想させる。顔立ちも整っている上に必死で頑張る姿は好感が持てる。
いや、むしろ好きな方だ。
騎士団長の息子として必死で剣を学んでいるのも知っているし、攻略情報も多少は持っている。全てではないのだが。
なぜかそのルートの部分を忘れてしまっているのが勿体無いと思う事はあったが現実として生きている以上、むしろ忘れていて良かったかもしれないと思うこともあった。
純粋に彼との絆を深められると考える反面、ゲームの仕様でその気持ちも変わってしまったならと考えると突然恐ろしくなる。
その度に震えるシェリルをアルバートは慰めてくれた。
今やシェリルはゲームの攻略対象としてではなく、現実のアルバートとして好きになっていた。だから余計にこの先が怖い。
もしもゲームと同じように明日のパーティで第一王子であるレオンが攫われるようなことがあったならゲームと同じ世界なのだと確定してしまいそうで怖かった。
恐れる心を少しでも落ち着かせようとアルバートに髪を切った方が似合うなんてことも言ってしまったくらいだ。
次の日に髪を切った彼を見て、少しはゲームと違うことになるかもしれないと考えたが、それでも不安は拭えなかった。
不安を抱えたまま、その日は休む事になる。
次の日に大どんでん返しが待っているなんて思いもよらないまま。
――――…
シェリルの気持ちとは関わりなくパーティは始まる。
いつも通りのパーティに見える今日の会場で、シェリルは主人公の姿を見つけてしまった。
そしてゲームと同じようにドレスを汚されてすごすご引き返す様を見たのだが、それまでの事で彼女が何者であるかを悟ってしまった。
明らかに飲み物を零されるように女性陣にぶつかりにいっているその姿は明らかにパーティで浮いていた。
異様な行動を行う女性を遠巻きに見ている人々がひそひそと話をしているところも見かけたが、それ以外は概ね主人公と同じ行動を行っているのだ。
男爵令嬢が高位貴族の集まる場所に紛れ込んだ時点で想定できる内容。
そして勝手にぶつかって飲み物を被って行った怪しげな人物と成り果てていたのだが、間違いなくゲームを知っている人物だとシェリルは感じた。
そして恐れを強くする。
あれは正に獲物を狩る猛獣の瞳。周囲の男性が引くほどに獰猛な獣のようだった。
そして彼女が出て行って暫くすると会場の明かりがすべて落ちた。
シェリルの恐れが当たってしまう。明かりが戻った頃には自らの半身であるレオンの姿はどこにもなかった。
――――…
パーティに呼ばれて会場入りしていたエスティアはフィルシークと供に過ごしていたが、フィルシークは次期当主として顔繋ぎがあるため、父に連れられて行ってしまった。
そして明かりが消えて暗闇になった時に魔力を感知したエスティアはその流れを追って外に出た。
自分と同じ位の背丈の少年を担いだ男を見つけて、人攫いだと考えたエスティアはとりあえず何者なのかを観察しつつ、男たちに向かって歩みを進めた。
エスティアに気が付いた男がエスティアの姿をまじまじと観察する。
「お嬢さん、こんな場所に何のようです?」
「お散歩していたら人攫いを見つけたもので観察していました。」
「観察?」
「えぇ。何をするつもりなのかと。」
「人攫いがやる事は一つしかないと思うが?」
「そうですね。ただ、それにしては奇妙な方々だなと。」
そう告げた瞬間、木の上の男がエスティアの近くに落ちてきた。
人攫いと同じ格好をしている人物は木から落ちたまま眠りこけている。
「な!」
少年を担いでいた男が少年を地面に降ろすと、臨戦態勢をとる。
どうやらエスティアは危険だと判断されたらしい。
だが、すでに遅い。木の上にいた男がなぜ落ちて眠りこけているのか。それに気が付かなかった時点で勝敗は決していた。
ぐらりと傾ぐ男たち。そのままぐぅぐぅと寝息をたてて眠ってしまった。
木の上からエスティアを眠らせようと睡眠薬を飛ばした男は風の魔力を使ってその方向を変更されてしまったのに気が付かないまま眠りに落ちた。
当然、他の二人にも同じように薬を届けていたエスティアは戦闘さえも始まらないまま終わらせた。
そして3人の男たちを拘束してぐるぐる撒きになっている少年を助け出すと、そのままとある場所まで足を運ぶ。
エスティアが向かった先にあったのは一台の馬車。
その扉を開いたエスティアは奥にいた少年を魔法で拘束するとその場から引きずって男たちの元へと連れて行った。
「お前たちやられたのか!」
驚いたように叫ぶ少年はザスティン・ルステリア・グレース。
旧ルステリア王国第1皇子らしい。青い髪に紫の瞳を持つ少年だ。情報を読み取っていたエスティアはなぜそんな人物がこんな場所に来ているのか疑問に思う。
だが、その理由を知りたくて更なる情報を引き出したエスティアは思わず頭を抱えてしまった。
その元凶はかつてエスティアが逃した過激派の魔族であるカルタロフの部下であるバロンという魔族が関わっている事を知ってしまったから。
そして、その人物はエスティアのすぐ傍まで来ていた。
「貴方がバロンかしら?」
突然の声に叫んでいた少年も囚われていた少年もそちらを振り向く。
木々の陰から姿を現したのはザスティンたちに計画を持ちかけた人物だった。
黒髪に赤い瞳を持つその人物をエスティアは睨み付けた。
その情報はもはや確認するまでもない。
黒髪は徐々に変化して白い髪へと変貌する。
撫で付けたように整えられた髪はまるでどこかの執事のように整っている。
「どこかでお会いしましたかな?」
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