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舞踏会は怖い所
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一通の招待状がヴァレイ子爵家に届けられた。
15歳になる女性へ送られたこれは、2人の王族の婚約者を選ぶ為に開かれるのだと噂されていた。
社交界に出て居ないリリーナがこれを知る事はない。
ただ届けられた招待状に拒否権がない事を知ったリリーナは自室に篭ってげんなりとしていた。
「リリーナただいま。元気にしていたかい?」
帰ってくるなりがっしりとリリーナを抱きしめて、雨のようなキスを落とす兄をなんとか撃退……ではなく、そっと躱してリリーナは久々に帰った兄に挨拶を返した。
「マークお兄様お帰りなさいませ。私はこの通り元気です。」
にっこりと微笑んで向かえると、マークは感極まったようにリリーナに飛び掛ろうとするが、そこをしっかりと父に止められて非常に残念そうだ。
学院から卒業した兄はすでに城に勤めている。
泊り込みになる事が多い研究室に勤めているため屋敷まで帰る日の方が少ない。
なんでもエルダートレントの実が最近になって頻繁に売買されており、その活用法に付いて研究しているのだとか。
その為に研究室に缶詰となっていると愚痴を零した兄。
それを聞いたリリーナはそっと視線を外したのはすでに遠い思い出だ。
「舞踏会に招待されたらしいね。」
いきなり話を切り出した兄にリリーナは黙って頷いた。
「エスコートはもちろん僕だよね。」
にっこりと微笑んでリリーナにエスコートを申し出るマークは微笑んでいるのになんだかちょっと怖い。
「マークがパートナーなら安心だなリリーナ。」
お父様も兄に賛同している。
なんだか二人とも笑顔が怖い。
……なんでだろう。
「お父様、私…来て行くドレスがないわ。」
「もちろん、仕立てれば良いさ。久しぶりの舞踏会だからね。」
「えっと、私自分でデザインしたいのだけど。」
その言葉に一瞬驚いたのか父はにっこり微笑んで許可をくれた。
屋敷に仕立て屋を呼んでリリーナの望むドレスを作ってもらう。
リリーナは窮屈でふりふりのドレスがあまり好きではない。
普段来ている物もドレスというよりもワンピースだと言われたほうがしっくりくるようなデザインの物ばかり。
仕立て屋もリリーナのお願いにかなり悩んでいたがプロとしてしっかりと仕事をしてくれた。
本当に良いのかと何度も聞かれたがリリーナは動きやすい物が好きだ。
本当は皆が来ているようなズボンとか穿いてみたいと考えているのだが周りが許してはくれなかった。
お嬢様はそのままで大丈夫だと何度も言い含められていた。
リリーナが作ったのはシンプルな白いドレス。
青い刺繍が可愛らしい草と花を散らしたようなデザインで薄い半透明の青色の生地を重ねて柔らかな雰囲気を作り出している。
銀の髪は敢えて結わずにおいた。
金の瞳とぷっくりとした唇。
すらりと伸びた背丈に腰はしっかりとくびれリリーナの細さを際立たせている。
柔らかな膨らみはやや小ぶりでこれからの成長を期待させるはずだ。
「リリーナとっても綺麗だよ。」
マークお兄様がリリーナをエスコートして馬車に乗り込む。
デビュー以来外に出て居ないことになっているリリーナは久々の舞踏会という戦場に乗り込んだ。
――――…
煌びやかな舞踏会の会場では、国王であるアーサー・オステア・ラザールの挨拶を皮切りにパーティーが始まった。
リリーナは早く来て最低限の挨拶を済ませると、この日は視線を感じたら即座にその場所を離れるという冒険者として得た察知能力を無駄に駆使して壁の花よろしく過ごした。
人見知りを克服したいのではなかったのかという突っ込みが思い切り刺さりそうな勢いだ。
あまりこういった場が好きではないリリーナはある程度目的を達するとその日はすぐに部屋へと下がった。
帰れないのには理由がある。
次の日も城での親睦会という名のサロンに招待されている為だ。
サロンには兄も付いてくる事は出来ない。
リリーナは知り合いもいない状態で女性の戦場に放り込まれる事になるのだ。
明日も緊張して過ごさなければならないとリリーナはすでに億劫な気持ちになっていた。
その為、部屋に早くに戻ってから明日に備えてすぐに寝てしまった。
次の日の朝、予定通りにサロンの場所へと移動するリリーナだが、今回は早く来たからと言ってすぐさま下がれるような趣旨の集まりではない為、時間通りに会場入りした。
部屋にはリリーナと同じくらいの年の女性たちがそれぞれいくつかの集団を形成していた。
そこに入ることなどリリーナには出来ない。
王族である王子様方が入って親睦会の開催と共に王族である二人に群がる女性陣を遠巻きに見やりながらリリーナはじっと外に気を向けていた。
なぜ見ているのかと聞かれればなんとなくとしか答え様がないのだろうが、その日はなぜか外がやけに気になったのだ。
そんなリリーナの元へ何人かの女性を連れた1つの集団がリリーナを取り囲んだ。
ぞろぞろと連れ立って歩く女性はリリーナの前に立った。
周囲の女性に押し出されまるで示し合わせたかのように人知れず外へと追い立てられた。
一階で開催されたサロンは外へも自由に出入りできる。
部屋から見えない位置まで追い立てられたリリーナは一体何の用があるのかとリーダーらしき女性に目を向けた。
「ちょっと貴方、昨日から何なの?殿方に尻尾を振ってまるで売女だわ。」
突然の言葉にリリーナは目を丸くした。
昨日だって壁の花よろしく兄以外との接点などない。
「あの、何のお話なのか分かりませんが人違いでは?」
「この伯爵家長女であるナタリア・ハイエンスが人違いをしているですって?ふざけないで。」
閉じた扇子をビシッとこちらに向ける様は非常に様になっていてリリーナはびくりと肩を震わせた。
「貴方リリーナ・ヴァレイでしょう。昨日からあれだけ注目を集めて置いてよくそんな口を聞けるわね。」
「注目?」
「そうよ。その奇抜なドレス。なんなのよ!本来なら私が殿方の注目を集めている予定でしたのに貴方のお陰でぶち壊しだわ。」
明らかに言い掛かりな物言いにリリーナはなんと答えたらいいのか分からなかった。
はっきり言うとリリーナにとって、このドレスは動きやすさ以上の機能は求めていない。
ナタリアは自分より注目を集めたらしいリリーナに、どうやら腹が立っているようだ。
だがナタリアは次の言葉を発する事は出来なかった。
城のしかもサロンへなにやら侵入して来た者がいたらしい。
騎士たちが騒がしくなって来てその騒ぎの原因がリリーナたちのいる庭に姿を現した。
騎士の制止を聞かずに進む一人の男性。
明らかに目が狂人のそれだ。
ナタリアたちはリリーナを置いて逃げ出した。
男は真っ直ぐにサロンの方へと歩いていく。
そして王子たちを目に止めると腰に刺した剣を抜き駆け出した。
騎士たちがそれを止めようと抜刀する。
しかしそれに気を取られることもなく男は進んで行った
一人の騎士が止めようと間に入るがありえない力で投げ飛ばされた。
リリーナはその男に絡みつく嫌な魔力に眉を顰める。
なおも止まらない男に騎士たちはついに男に本気で切りかかっていった。
リリーナは絡みついた魔力の元を探っていた。
そして騎士が男を切り倒そうとした瞬間に間に割って入る。
「殺してはダメ!」
狂った男は騎士たちを無視してそのまま歩いていく。
「何をする!」
邪魔をされた騎士がリリーナを怒鳴るが、リリーナは手近にあったテーブルからデザート用のナイフを手に取るとある場所に向かって投擲した。
「な!」
ナイフは一直線に木に向かって飛んでいく。
そしてぐさりと音を立てて何かに突き刺さった。
その瞬間に暴れていた男は糸が切れたように倒れこむ。
「な、何が起こったんだ。」
騎士の呆然とした呟きなど無視してリリーナはナイフが突き刺さったモノの傍まで歩み寄った。
15歳になる女性へ送られたこれは、2人の王族の婚約者を選ぶ為に開かれるのだと噂されていた。
社交界に出て居ないリリーナがこれを知る事はない。
ただ届けられた招待状に拒否権がない事を知ったリリーナは自室に篭ってげんなりとしていた。
「リリーナただいま。元気にしていたかい?」
帰ってくるなりがっしりとリリーナを抱きしめて、雨のようなキスを落とす兄をなんとか撃退……ではなく、そっと躱してリリーナは久々に帰った兄に挨拶を返した。
「マークお兄様お帰りなさいませ。私はこの通り元気です。」
にっこりと微笑んで向かえると、マークは感極まったようにリリーナに飛び掛ろうとするが、そこをしっかりと父に止められて非常に残念そうだ。
学院から卒業した兄はすでに城に勤めている。
泊り込みになる事が多い研究室に勤めているため屋敷まで帰る日の方が少ない。
なんでもエルダートレントの実が最近になって頻繁に売買されており、その活用法に付いて研究しているのだとか。
その為に研究室に缶詰となっていると愚痴を零した兄。
それを聞いたリリーナはそっと視線を外したのはすでに遠い思い出だ。
「舞踏会に招待されたらしいね。」
いきなり話を切り出した兄にリリーナは黙って頷いた。
「エスコートはもちろん僕だよね。」
にっこりと微笑んでリリーナにエスコートを申し出るマークは微笑んでいるのになんだかちょっと怖い。
「マークがパートナーなら安心だなリリーナ。」
お父様も兄に賛同している。
なんだか二人とも笑顔が怖い。
……なんでだろう。
「お父様、私…来て行くドレスがないわ。」
「もちろん、仕立てれば良いさ。久しぶりの舞踏会だからね。」
「えっと、私自分でデザインしたいのだけど。」
その言葉に一瞬驚いたのか父はにっこり微笑んで許可をくれた。
屋敷に仕立て屋を呼んでリリーナの望むドレスを作ってもらう。
リリーナは窮屈でふりふりのドレスがあまり好きではない。
普段来ている物もドレスというよりもワンピースだと言われたほうがしっくりくるようなデザインの物ばかり。
仕立て屋もリリーナのお願いにかなり悩んでいたがプロとしてしっかりと仕事をしてくれた。
本当に良いのかと何度も聞かれたがリリーナは動きやすい物が好きだ。
本当は皆が来ているようなズボンとか穿いてみたいと考えているのだが周りが許してはくれなかった。
お嬢様はそのままで大丈夫だと何度も言い含められていた。
リリーナが作ったのはシンプルな白いドレス。
青い刺繍が可愛らしい草と花を散らしたようなデザインで薄い半透明の青色の生地を重ねて柔らかな雰囲気を作り出している。
銀の髪は敢えて結わずにおいた。
金の瞳とぷっくりとした唇。
すらりと伸びた背丈に腰はしっかりとくびれリリーナの細さを際立たせている。
柔らかな膨らみはやや小ぶりでこれからの成長を期待させるはずだ。
「リリーナとっても綺麗だよ。」
マークお兄様がリリーナをエスコートして馬車に乗り込む。
デビュー以来外に出て居ないことになっているリリーナは久々の舞踏会という戦場に乗り込んだ。
――――…
煌びやかな舞踏会の会場では、国王であるアーサー・オステア・ラザールの挨拶を皮切りにパーティーが始まった。
リリーナは早く来て最低限の挨拶を済ませると、この日は視線を感じたら即座にその場所を離れるという冒険者として得た察知能力を無駄に駆使して壁の花よろしく過ごした。
人見知りを克服したいのではなかったのかという突っ込みが思い切り刺さりそうな勢いだ。
あまりこういった場が好きではないリリーナはある程度目的を達するとその日はすぐに部屋へと下がった。
帰れないのには理由がある。
次の日も城での親睦会という名のサロンに招待されている為だ。
サロンには兄も付いてくる事は出来ない。
リリーナは知り合いもいない状態で女性の戦場に放り込まれる事になるのだ。
明日も緊張して過ごさなければならないとリリーナはすでに億劫な気持ちになっていた。
その為、部屋に早くに戻ってから明日に備えてすぐに寝てしまった。
次の日の朝、予定通りにサロンの場所へと移動するリリーナだが、今回は早く来たからと言ってすぐさま下がれるような趣旨の集まりではない為、時間通りに会場入りした。
部屋にはリリーナと同じくらいの年の女性たちがそれぞれいくつかの集団を形成していた。
そこに入ることなどリリーナには出来ない。
王族である王子様方が入って親睦会の開催と共に王族である二人に群がる女性陣を遠巻きに見やりながらリリーナはじっと外に気を向けていた。
なぜ見ているのかと聞かれればなんとなくとしか答え様がないのだろうが、その日はなぜか外がやけに気になったのだ。
そんなリリーナの元へ何人かの女性を連れた1つの集団がリリーナを取り囲んだ。
ぞろぞろと連れ立って歩く女性はリリーナの前に立った。
周囲の女性に押し出されまるで示し合わせたかのように人知れず外へと追い立てられた。
一階で開催されたサロンは外へも自由に出入りできる。
部屋から見えない位置まで追い立てられたリリーナは一体何の用があるのかとリーダーらしき女性に目を向けた。
「ちょっと貴方、昨日から何なの?殿方に尻尾を振ってまるで売女だわ。」
突然の言葉にリリーナは目を丸くした。
昨日だって壁の花よろしく兄以外との接点などない。
「あの、何のお話なのか分かりませんが人違いでは?」
「この伯爵家長女であるナタリア・ハイエンスが人違いをしているですって?ふざけないで。」
閉じた扇子をビシッとこちらに向ける様は非常に様になっていてリリーナはびくりと肩を震わせた。
「貴方リリーナ・ヴァレイでしょう。昨日からあれだけ注目を集めて置いてよくそんな口を聞けるわね。」
「注目?」
「そうよ。その奇抜なドレス。なんなのよ!本来なら私が殿方の注目を集めている予定でしたのに貴方のお陰でぶち壊しだわ。」
明らかに言い掛かりな物言いにリリーナはなんと答えたらいいのか分からなかった。
はっきり言うとリリーナにとって、このドレスは動きやすさ以上の機能は求めていない。
ナタリアは自分より注目を集めたらしいリリーナに、どうやら腹が立っているようだ。
だがナタリアは次の言葉を発する事は出来なかった。
城のしかもサロンへなにやら侵入して来た者がいたらしい。
騎士たちが騒がしくなって来てその騒ぎの原因がリリーナたちのいる庭に姿を現した。
騎士の制止を聞かずに進む一人の男性。
明らかに目が狂人のそれだ。
ナタリアたちはリリーナを置いて逃げ出した。
男は真っ直ぐにサロンの方へと歩いていく。
そして王子たちを目に止めると腰に刺した剣を抜き駆け出した。
騎士たちがそれを止めようと抜刀する。
しかしそれに気を取られることもなく男は進んで行った
一人の騎士が止めようと間に入るがありえない力で投げ飛ばされた。
リリーナはその男に絡みつく嫌な魔力に眉を顰める。
なおも止まらない男に騎士たちはついに男に本気で切りかかっていった。
リリーナは絡みついた魔力の元を探っていた。
そして騎士が男を切り倒そうとした瞬間に間に割って入る。
「殺してはダメ!」
狂った男は騎士たちを無視してそのまま歩いていく。
「何をする!」
邪魔をされた騎士がリリーナを怒鳴るが、リリーナは手近にあったテーブルからデザート用のナイフを手に取るとある場所に向かって投擲した。
「な!」
ナイフは一直線に木に向かって飛んでいく。
そしてぐさりと音を立てて何かに突き刺さった。
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