お隣さんは〇〇〇だから

夏芽玉

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10.俺が好きなのは

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「……僕が隣に居るのに、さっきから誰のことを見てるんですか?」

 視線の先にグイっと小宮が割り込んできた。
 そうだ。今日はこの後、プレイをするつもりで、一緒に帰ってきたのだ。
 最初の頃はホテルに行っていたけれど、毎回高級ホテルのイイ部屋を予約されてしまうのがあまりにも申し訳なくて、何回目かのプレイの時に俺が家に誘ったんだ。それ以来、プレイとセックスは家でするようになって……最近ではかなり頻繁にお互いの家を行き来している気がする。

「いや、別に……」

 俺は慌てて視線を逸らした。
 別に、ハルさんに対してはもう何とも思っていないし、彼と言葉を交わしたのだってさっきのが初めてだ。だから、何もやましいことはないんだけど……

「さっきの人が気になります?」
「そういうことじゃ……」

 小宮の言葉に剣呑な色が混じる。
 あああ、やっぱり!! 俺がハルさんのことを意識していたことに、気付かれている!?

「本当、勇翔さんは面食いなんだから……」
「べ、べつにいいだろ! 目の保養だ、目の保養!!」

 わざとらしくため息をついた目の前の男も十分イイ男なんだけどな。

「……まぁそれで僕のことも気に入ってくれるなら、いいんですけれど」

 俺の考えを読んだかのような発言にドキっとする。
 セックスのとき、この男が俺に欲情している姿を見るのが好きだし、情事の後はその気だるげな様子をこっそり鑑賞しているのだけど、もしかして、それもバレてたり……!?

「嫌いな奴とプレイとかセッ……いや、その……色々するわけないだろう!」

 そう言ってから気付いた。
 もしかして、「俺が好きなのはお前だ」というのは、今がチャンスだったのかもしれない。
 だけど時はすでに遅し。
 自分の失態に軽く落ち込んでいると、小宮がふっと息を吐いた。

「まぁ、どんなに勇翔さんが彼のことを気にしたところで、彼は勇翔さんとプレイできませんけれどね」
「えっ? それはいったい……」

 俺以上に小宮がハルさんのことを知っている様子に、思わず喰いついてしまった。
 これじゃあ、彼に興味があるって白状してしまったようなものだ。

「……だって、彼はDomですから」
「は……? マジで?」

 やはりお店のホームページに掲載されていた「ハル」さんは、彼のことだったんだ。最初に見たときに写真が違っていたのは、何かの手違いだったのだろう。なるほど、納得だ。

「でも、なんで小宮がそれを……」
「この前、マンションの前で会ったとき、グレアが出てましたから」
「はい?」
「パートナーの方の落とし物を拾ったら、威嚇されました」
「はいぃ……!?」

 なんだ、それ。そんな話、聞いてない!!

「やけに喰いついてきますけれど。彼には興味なんてないんでしたよね?」
「ははっ、ないない。興味なんてない! さぁ、いつまでもこんなところに突っ立ってないで、部屋に入るぞ!」

 話を誤魔化そうとして鍵を取り出したら、もう一つの鍵が手に引っ掛かってポケットから転がり落ちた。チャリンと音を立てて、二人の間に合鍵が落ちる。

「あっ!」

 慌てて拾って手に隠したけれど……

「……見た?」
「キーホルダーがついた鍵でしたね」

 見られてた!
 ばっちりしっかり見られてた!! しかもキーホルダーまで!

 初めて俺たちがセックスをした日、俺はなんとか自分の鍵を取り返すことができた。
 だから小宮は合鍵を作ることはできなかったんだ。
 でもその翌日、俺は鍵屋に行って合鍵を作った。
 その合鍵は、今まで渡すことができなかったけれど……

「……ん」

 鍵を握りしめた手を、俺は小宮に向かって突き出した。

「おまえにやる」
「いいんですか……?」

 小宮の手の平に移った合鍵には、皮のキーホルダーがついている。
 そこにローマ字で書かれているのは、「MIYUKI&HAYATO」の文字。
 弥如みゆきというのが小宮の名前だ。
 そのことに小宮も気づいたようで、軽く目を見開いた。

 あああ、くっそ恥ずかしい!!
 浮かれすぎてこんなキーホルダーを作ってしまった過去の自分をどつきまわしたい。
 ちなみに、自分用のキーホルダーは汚さないようにちゃんと部屋に保管してある。

「早く、鍵を開けろよ。プレイ、するんだろ?」
「……そんなに溜まってるんですか?」
「違うっ!! これは……」

 俺の言葉を、小宮が唇でふさいだ。

「続きはベッドで聞かせてくださいね」





 おわり
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