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【11】プロポーズ
しおりを挟む「初っ端から待たせちゃってゴメンね」
「いえ、大丈夫です。オレのほうこそ、予約もなしに来てしまって……すみません」
「トーヤさんって呼んでいいかな?」
「あ、はい」
「じゃ、こっち来て」
今日はTシャツとチノパンというラフな恰好をしていたからか、バスローブに着替えるようには言われなかった。ライのときは疲れすぎていたから、何も考えずに言われた通りにしてしまったけれど、今日、カマルくんの前で同じことをしろと言われたら、恥ずかしすぎて無理だと思う。
カマルくんに手を引かれてベッドに移動する。靴を脱いで、二人でベッドに転がった。
「トーヤさんのこと、ぎゅってしていい?」
「はい、お願いします」
カマルくんに言われて、オレは頷いた。筋肉がたっぷりの分厚い胸板に、包み込まれる安心感がスゴイ。こーゆーの、好きな人は好きかもしれない、と思った。けれど、なんか違う……ライにぎゅって抱き着いた時みたいに、心の隅々まで満たされるような心地良さがない。なんか物足りなくて、オレはカマルくんの腕の中でもぞもぞと動いてしまう。
「落ち着かない?」
「あー、えーっと。すみません」
「トーヤさんは、ライさんのことが好きなんですか?」
「えっ、えっ、そんなことは……!」
なんでライのことを考えてたってバレちゃったんだろう。オレは真っ赤になりながら慌てて否定した。客がキャストのことを好きになるなんて、イタすぎるっ!!
「あっ、あの……えーっと、カマルくんは何獣人なのか、聞いてもいいですか?」
「オレ? オレは、ゴリラ獣人だよ」
カマルくんの答えを聞いて、オレは納得した。なるほど、だからこの胸板の厚さなのか……
オレは思わずマジマジと目の前にある胸板を見つめてしまった。
「そんなにじっと見つめられたら恥ずかしいですよ」
「あ、ごめん」
そんなやりとりをしていたら、ドアがノックされた。まだ1時間は経っていないはずだけど……
カマルくんが返事をする前に、ガチャリとドアが開いた。
入ってきたのはライで……なんか、物凄い怖い顔をしてズンズンとこっちに近づいてくる。え、何、怒ってるのっ?
「いやいやいやいや! オレはトーヤさんを引き留めててって頼まれただけですから!! 店長が殺気出すと怖いんですから、マジでやめてくださいよ!! それに、こんなに店長のマーキングがべったりくっついてるコに、手なんて出さないですから……!!」
カマルくんがそう言いながら、慌ててベッドから飛び降りてオレから距離を取った。
「え、マーキング?」
「トーヤさんは気付いていないみたいですけれど……店長の匂いがべったりついてますよ」
「ど、どういうこと……?」
どうやらオレがアロマオイルだと思っていた柑橘系の香りが、ライのマーキングの匂いだったようだ。家に帰ってからも時々ふわっと香った気がしたのはオレの気のせいではなかったらしい。
そういえば、会社の人たちだけでなく、通勤で電車に乗っていたら席を譲られたり、買い物をしたらオマケをもらったりすることがあの日以来、急激に増えた気がする。というか、それまでのオレにはなかった現象だ。
後から知ったことなんだけど、このマーキングのおかげで、会社でのオレの扱いも激変したらしい。というのも、オレが働いている会社の課長も同僚も、キツネ獣人だったからだ。今まで皆、人族だと信じて疑っていなかったのに……なんだかちょっと、騙された気分だ。
話を聞いてオレがポカンとしていると、ライがさらに近づいてきて、オレの手を両手で握った。オレはライの体温と存在感にドキドキしてしまう。
「好きだ、番になって欲しい」
え、なんで添い寝リフレにきてオレ、プロポーズされてるの……!?
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