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【9】有効期限
しおりを挟む目を覚ましたら、これ以上ないってくらいに身体が軽かった。ここ最近で一番の身体の軽さだ。
寝る直前はオイルとか精液とかでベタベタだった身体はキレイになっていて、バスローブを着せられていた。寝ている間にライが全部してくれたみたいだ。お礼を言おうと思ったけれど、室内にはライの姿はもうなかった。そういえば、初回コースは120分だった気がする。うっかり爆睡して一泊してしまったけれど、追加料金とかは大丈夫だろうか。背中がヒヤッとした。
オレはスーツに着替え直すと、室内に備え付けられた電話で店を出ることを伝えて、受付へと向かった。もう始発が動いている時間だ。一度家に帰ってシャワーを浴びたら、またこっちに戻ってきて出勤しなければならない。せっかくスッキリしたのに、また出勤したら疲れることの連続が待ってるな、とオレは溜息を吐いた。
どんな金額になるかとドキドキしながら受付でチェックアウトをすると、意外なことに追加料金は一切かからなかった。添い寝以上のアレやコレをしてもらった上、一泊しているので、絶対ものすごい金額になると思ったのに!
しかも、帰り際に何故か割引券まで渡されてしまった。名刺サイズの紙に『リピート割引。次回ご来店時に提示で、基本料金20%off。有効期限は発行から2週間』と書かれている。
こういったサービスは初めて利用したけれど、こういうものなのだろうか。なんだかとても手厚い気がする。ライがオオカミ獣人だったのにはびっくりしたけれど、物凄くスッキリしたので、また来てもいいかもしれない。そう思いながらオレは店を後にした。
その後のオレは、かつてないほど絶好調だった。
あの日、一度家に帰って着替えてから出勤したら、何故か急に課長が優しくなった。具体的には、オレにばっかり仕事を押し付けていたのが、ちゃんと他の人にも割り振ってくれるようになったのだ。それどころか、同僚もなんか優しくなった気がする。仕事中に困っていることはないか、納期が厳しい仕事はないかと、今までは聞いてもこなかったようなことまで聞かれるようになった。勿論、職場内でオレに罵詈雑言を浴びせてくる人も居なくなった。
無茶な仕事も、他人のミスも押し付けられることもなくなったおかげで、一週間が経つ頃には、オレは定時で帰れるようになっていた。この三年間、馬車馬のように働いていたのは一体何だったのだろうか、という気すらしてくる。とりあえず、その一週間は、家に帰ったら寝れるだけ寝て身体を休めた。そして、次の週は、家の片付けとかをしてみたのだけれど、狭い六畳一間のアパートは三日もすれば片付けるところはなくなってしまった。
そして、休日の朝。目が覚めたオレは、今日の予定がないことに気付いて愕然とした。今までは休日出勤をするか、仕事がない日は泥のように眠るかの二択だった。
暇だ……こっちに来てから、ずっと仕事しかしていなかったので、仕事がない日に何をしたらいいのかわからない。当然、休日に一緒に遊んでくれる友達も居ない。
どうしたものかと考えていたら、先日行った『添い寝リフレ』のことを思い出した。あの時ほど疲れているわけではないけれど、今日なら途中で寝落ちせず、もっといっぱいライとおしゃべりできるかもしれない。あの日貰った割引チケットはまだ有効期限内だ。
オレは心を決めると、早速電車に乗って、あの店へと向かった。
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