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その後のおはなし
6.はじめての産卵
しおりを挟むこれは、この地方に伝わる伝説だ。
小さい頃から聞かされるので、誰でも知っている。
なんでかって?
それは、ここがそのオオカミと小鳥が住む山だからだ。
小鳥とオオカミが出会ったのが300年前のこと。
そして、その小鳥とオオカミはまだ現役だ。
なにがって?
それはもちろん、夜の生活が、だ。
夜の生活と言っても、夜だけヤっているというわけではない。
「あいつら、昼も夜もなりふり構わず盛りやがって~!」
オレは木の幹に腰かけて、溜息をついた。
伝説ではいいハナシ風で終わっているけれど、実際はそうじゃない。
小鳥と番になったオオカミは、生活費を稼ぐために、山道の通行人たちを襲った。それがたまたま、悪徳商人だったり、盗賊だったり……とにかく立て続けに悪い奴らばかりだったのだ。
オオカミが荒稼ぎをしたことにより、ふもとの村の治安が劇的に良くなった。しかも、定期的に良質の金を格安で譲ってくれるのだ。村は大変栄えた。そして、感謝した村人たちが山のてっぺんに社を建てて、オオカミと小鳥を山神として祀った。ただそれだけのことだ。
「こらこら、自分の親のことを悪く言わないの」
「今、パパは発情期だからね。仕方ないね」
「初めて産んだ卵をどうしたらいいのかわかんないんでしょう?」
「十番目の姉ちゃんに聞いてみようか?」
「いや、確か、夏のバカンスだってこの前出かけて行ったような……」
「うーん、オレらの中じゃ鳥獣人は少ないからな……」
いつの間にかオレの周りに集まって来た兄弟たちが好き勝手なことを言う。
幻獣の獣人はとにかく長生きする。
しかも、両親は昼夜構わずヤりまくる。
さらに、小鳥のパパは発情期になるとセックスのたびに卵を産む。
その結果、どうなるか。
……当然、子沢山になるってわけだ。
多分、オレの兄弟姉妹だけで村一つ作れるくらいは軽く居ると思う。
オレが産まれたときには、すでにこの山を出て行ったきょうだいたちも多かった。
両親はイチャイチャするのに忙しいから、オレを育ててくれたのも、山に残った年上のきょうだいだ。
パパの産む卵からは、オオカミも小鳥も生まれる。
だけど、何故か生まれてくるのは断然オオカミが多い。
オレの弟たちは皆、オオカミだ。
オオカミの遺伝子、強すぎじゃね!?
「ところで……今、大事そうに膝に抱えている卵は、いったい誰との子なのかな?」
オレの面倒を一番よく見てくれた兄が、耳元で囁いた。
「うわっ!?」
びっくりして卵を取り落としそうになったオレは、慌てて卵を抱きなおす。
「どこぞの馬の骨がこの山に入り込んだことも信じられないけれど、こんなに可愛いコと卵を置き去りにするのも、許せないね。もう二度と会う必要はないよ」
「ちちちちちちがうよ!!」
オレは昨夜のことを思い出して顔を赤くした。
出会ったのは子供のころ。会うたびに喧嘩ばかりしていたけれど、本当は大好きな村の男の子。
オレが獣人だってことは知らないから、昨日のお祭りの後に、騙し討ちみたいなセックスをして逃げてきた。
この卵は、山に戻ってきてから一人で産んだのだ。
「初めての産卵で疲れてるだろうから、卵はみんなで温めておいてあげるよ。さ、こっちにおいで」
「い、いや……!! 自分で温めるから……!!」
とりあえず、抱いていればいいのだろうか? 卵はどのくらいで孵化するのだろうか?
いつもパパは産んだ後、卵が孵るまで巣の中で大事に温めているから、そのあたりのことがよくわからない。
結局、その日はパパと会話はできず、夜は一人で卵を抱えて眠った。
翌日、オレは大騒ぎの声で目覚める。そして、オレが産卵したと知って、悪鬼の形相で村に殴り込みに行こうとする父親を兄弟達と必死で止めることになるのだった。
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